火星の過去
西の廃工場
ゴウゥウウウン…
波斗は錆び付き、重くなった扉を慎重に開ける
「…来たか」
暗い廃工場の中には2人の人影
1人は座り、もう1人はその隣に立っている
「何の用だ」
「何、奴に絶望を与えるために呼んだだけだ」
「それ以外に理由はない」
「奴…?」
「火星 太陽」
「知っているだろう?」
「貴様は奴の部下だからな」
「…何で火星さんを苦しめようとするんだ?」
「苦しめるにしても、彩愛さんや鉄珠さんは関係ないはずだ!!」
「だからこそ、だ」
「奴は仲間想いだ」
「だからこそ!仲間を傷付けられる事を嫌う!!」
「だからこそ!苦しむんだよ!!」
「…それが狙いか」
「そうだよ」
キッパリと言い切る男
暗くて表情こそ解らないが、にやついているのだろう
波斗の拳が怒りに震える
「…テメェ」
ふつふつとした静かな怒り
「火星さんに何の恨みがあるんだよ…」
「…恨み、か」
小さく笑う男
「そうか…」
「知らないんだな、貴様は」
「…何をだ」
「火星の過去を」
「奴が犯した失態を」
「…?」
何だ?何を言っている?
恨みって言うのは火星さんに何かされたからじゃないのか?
失態…、って普通は失敗の事を差すよな?
それに…、過去?
「まずは自己紹介と行こうじゃないか」
「俺は夜斬 無月」
「コイツは城ヶ根 鉄だ」
「どもども」
「…蒼空 波斗だ」
「知っているさ」
…どういうつもりだ?
どうして自己紹介なんてする?
「話してやろう」
「火星の----」
バチィイインッッ!!
「…気の早い餓鬼だ」
夜斬が言葉を言い終わる前に、波斗は夜斬の足場を崩しに掛かった
タンッ
小さく跳ねる夜斬と名乗った男
口元が緩んでいる
…フザけやがって
「その程度じゃ当たらないよ-?」
「!!」
いつの間にか、もう1人の男が背後に居た
ゴキンッ
音が鳴ったかと思うと、目前には屋根が映った
「がぁ…」
「暫く寝ようか!」
「テ…、メェ…」
「ぐっ…」
「気が付いたかな?」
「!!」
目の前には城ヶ根
波斗の顔を覗き込むように見ている
「----ッ!?」
身動きが取れない
縛られているのか!?
「そりゃ-、縛るでしょ」
「まだ殺しはしないから安心してね♪」
コツンッと波斗の額を突っつく城ヶ根
「何でこんな事を…!!」
「教えてやろうか」
「火星の過去を」
「火星さんの…、過去?」
5年前
「…さん!祠野さん!!」
「ん…、あぁ」
「寝ないでくださいよ!任務途中なんですから!!」
中年の髭を生やした男
体つきはゴツく、身長は190㎝有るかと言うほどの巨体
「悪ぃ、悪ぃ」
「そう言うなって、火星」
笑う夜斬と城ヶ根
「お、おぉ、もう終わったのか?夜斬」
「当たり前だろ?」
「祠野さんの手を借りなくても大丈夫だぜ!」
「信じてた…、うん、信じてたぜ?夜斬」
「嘘だろ!アンタ寝てただけだろ!!」
「あっはっはっはは!」
当時、彼等は[Ⅳ]と名乗り、巷では有名な何でも屋だった
リ-ダ-の祠野、戦闘専門の夜斬、情報収集の城ヶ根、補助の火星
大きな任務こそ滅多に無いが、小さな小競り合いの仲介や人捜しなどの任務で小さく儲けていた
4人は共に生活し、共に過ごし、共に任務を遂行する
それが彼等の日常だった
「…任務?」
「はい!是非、受けて頂きたいのですよ」
まるでセ-ルスマンのような身なりの男
祠野の前に1枚の資料を差し出す
「…要人警護、ねぇ」
「そうですよ!」
「巷で名高い貴方達を軍も信用してるんですよ」
「…ふむ」
「仲間と相談したい」
「時間をくれるか?」
「どうぞどうぞ」
「私は外で待ってますので」
ガチャンッ
「…どう思う?」
3人の前に差し出される資料
その資料の要人とは軍の意向に国会で唯一反対している議員だった
「怪しいと思うよ」
「要人警護なんて、本来は軍の仕事だしね」
「それに最近、軍に俺達は目を付けられてる」
「コレが罠って言う可能性も有ると思う」
「城ヶ根の言う通りだ」
「俺達にこの任務を失敗させて邪魔な要人を消す」
「序でに失敗した俺達も責任を取らせて…、って算段かもな」
「祠野さん、この仕事は受けるべきじゃない」
「…俺は受けるべきだと思う」
「な、何言ってるんだ!?火星!!」
「罠かも知れないんだぞ!!」
「…確かに危険だ」
「だけど、この仕事が成功したら軍に認められるはずだろ」
「軍も役立つ奴等は消さないはずだ」
「それに、報酬が高い」
「武器とかも、もっと良いのが揃えられるんじゃないのか」
「だが…!!」
「…俺は火星に賛成だ」
「祠野さんまで!!」
「このままじゃ、いつかは資金繰りに困るだろう」
「危険な賭だが、軍に認められた方が長期的にも得だ」
「俺は火星に賛成だな」
「しかし…ッ!!」
「2対2で割れたらリ-ダ-に従うしかないんじゃないの?」
「城ヶ根…」
「単なる要人警護だよ」
「危険な裏業には手を出してない議員らしいし、狙うなら軍かな」
「それか軍に雇われた傭兵か」
「まぁ、軍だったら表だった行動は出来ないだろうし、そこら辺の傭兵なら大丈夫でしょ」
「た、確かにそうだが…」
「よし、決定だな」
「おい!入ってきて良いぞ!!」
ガチャンッ
「はいはい」
「決まりましたか?」
「この任務、受けよう」
「ありがとうございます!」
数日後
サァァァァァ…
少し小降りの雨が降っている
4人は雨具を身につけ、集合場所にいた
「よし、始めるか」
「俺と火星で要人をガ-ドする」
「夜斬は周囲を見回り、怪しい奴が居たら捕獲だ」
「城ヶ根も同じくな」
「「「了解」」」
「ヘマするなよ、火星」
「当たり前だろ!」
「お前もな!夜斬!!」
「俺がすると思うか?」
「仲が良いのは結構だが、とっとと行け」
「「あ…、はい」」
「怒られてやんの~!」
「「うるせぇ!!」」
ザ-…ザ-…
「…大降りになってきましたね」
「そうだな」
「おい!余所見をするな!!」
「儂が狙われたらどうする!?」
「あ、すいません…」
「ふん!!」
(感じの悪い爺さんだな…)
「…来たぞ」
「え?」
ブォオオオオオオオッッ!!
轟音を上げ、3人に向かってくるトラック
「マジかよ…!!」
「逃げるぞ、爺さん」
「わ、解っとるわい!!」
「早ぅ儂を護れ!!」
「そうだな」
議員を車に乗せ、一気に発信させる祠野
「飛ばすぞ」
「キチンと捕まってくださいよ」
「な!?」
グォンッッッッ!!
「う、うぉっ!!」
ギュルルルルルルルッ!!
荒々しい運転で路地を抜けていく車
「あ、荒々しいじゃろうが!!」
「トラックにミンチにされたいのなら安全運転でも構いませんが?」
「ぐ、ぐぬぅ…」
「火星、後部座席の下」
「有るだろ」
「はい」
「な、何をするんじゃ!?」
「ちょっとね」
「季節外れですけど花火を上げるんです」
キンッ
「そ、それ手榴弾…!!」
コンコンッ
トラックの前に転がっていく手榴弾
「!!!」
トラックは急ブレ-キを掛けるが、間に合うはずがない
ドォオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!!
凄まじい轟音が響き、トラックは鉄塊と化す
「な、な…!!」
「この程度でビビってんじゃねぇぞ、爺さん」
「まだまだこれからだ」
読んでいただきありがとうございました