足りない時間
14階
「待たせたな」
服を直しながら階段を悠々と下りてくる雨雲
「雨雲さん!」
「やはり無事だったか!!」
「あぁ、少し危なかったが」
「火星と馬常も無事か」
「どうにか」
「あいさ-」
苦笑する火星と軽く手を振る馬常
「ま、危なかったけどな」
「馬常が助けてくれなきゃ死んでたかも」
「結構、数多かったからねぇ…」
「って事は、馬常さんって来牢とか言う人倒してから火星さんを援護に言ったんですか?」
「その通り~」
「このでっかい傘で敵をなぎ倒していくからよ」
「ここまでの道も全部、馬常が切り開いたんだぜ?」
「おぉ…、凄…」
「流石でしょ-」
「話はそれぐらいにするぞ」
「軍には連絡したのか?」
「あぁ、勿論だ」
「あと数十分で軍が来る」
「そうか」
「鎖基、残党は?」
「居ないぞ!」
「全員、縛り上げているからな!!」
「…良し」
「帰ろうか」
「は…、いっ?」
ふらっと蹌踉ける波斗
「大丈夫かい?蒼空君」
「すいません…、無理っぽいです」
「仕方ないな!!!」
まるで宙に浮いたかのように体が持ち上がる
そして、そのまま鎖基に背負われる
「あ、すいません…」
「何!気にするな!!」
「どうも…」
立ち上がる雨雲
「披露しているのだろう」
「仕方のない事だ」
凄い、この人達は
本当に
波斗はただただ、感心していた
自分はこの人との戦闘でボロボロだ
立ち上がる事すらままならない
それなのに、この人達は平然と立つ
本当に…、凄い人達だ…
本当に…
「…寝たんじゃない?」
「そのようだな!!!」
「鎖基、静かにしてあげてくれ」
「寝かせよう」
「ぐぅ…」
フランス
国会議事堂前
「…はぁ」
大量に山積みされた暴動者達の上でため息をつくゼロ
(気絶させるだけってのも面倒だな…)
「…ッ」
ゼロが座っている暴動者が目覚め掛けたので、ゼロはゴツンと頭を殴った
「怠…」
気怠い
何より
この糞餓鬼が
「ねぇねぇ」
先刻からずっと語りかけてくる
「コイツ等、殺して良い?」
はぁはぁと息を荒げ、顔は紅潮している
口からは唾液が垂れ流しの状態だ
「…駄目だ」
何回目だよ、この問答
心の中で軽くツッコミを入れる
(殺戮症候群は殺せば殺すほど、収まるんじゃなかったのか…?)
コイツの暴動鎮圧は酷かった
俺は手加減して気絶させているのに、コイツは殺しまくっていた
今よりも息を荒げ、狂ったように笑いながら
殺していた
「もっと殺したいの…♪」
「お願い…♪私は自由にして良いから…」
「×××でも良いし×××でも良いから…」
「だから…、殺させて?」
狂ってやがるな
いい加減、聞くのが嫌になってくる
軍はまだか
…祭峰には逃げられた
一応、捜索はさせる
自分でしても良いのだが、コイツとは一分一秒と一緒に居たくねぇし
「ねぇねぇ」
何回目だよ
「駄目だっつてんだろ…」
「お-ね-が-い-!!」
ぐいぐいと服を引っ張る防銛
…これだけ見ると、普通の餓鬼なんだがな
殺戮症候群で在る事が能力の発動条件で
能力で人を殺すことが殺戮症候群を抑える条件で
…滅茶苦茶だ
整理すれば15ピ-スのパズルより簡単なんだろうが
だが、整理できない
感情が邪魔をする
…とうに捨てたと思ったんだがな
哀れみの感情なんざ
「どうしたの?」
ひょいと防銛がゼロの顔を除く
「…いや」
擦れるような声で断り、くしゃくしゃと防銛の頭を撫でる
「?」
ゼロの撫でる手の動きによって小さく揺れる防銛
「殺ってもいいの!?」
大好きなお菓子を目の前に出された子供のように防銛の表情が明るくなる
「駄目だ、ド阿呆」
「え-!!」
この餓鬼を理解する方法なんざ、無いのだろう
有るとしても、俺には不可能だ
時間が、無さ過ぎる
日本
車内
「…あれ?」
何処だ?ここ
真っ白だな
面白いぐらい
「…」
…誰だ?
女の人…、だな
白い髪に白い服
…鉄珠さんとは対照的だ
「まだ…、早いわよ?」
え?
「…っ」
「ふあぁ…」
「起きたか」
「雨雲さん…?」
「あれ?火星さん達は…」
「飯を買いに行った」
辺りを見回すと見覚えのある風景
九華梨高校の近くのコンビニだ
先刻のは夢…、か
妙な夢だ
「もう前に来ても大丈夫だぞ」
「何が…、って」
そう言えば、妙に下が堅い
荷台じゃねぇか
放り込みやがったな
…まぁ、途中で寝た俺が悪いか
「何か欲しい物は有るか?」
「今からなら、まだ間に合う」
「い、いえ、大丈夫です」
「…そうか」
「ところで、聞きたいのだが」
「何ですか?」
「お前は特殊系能力者だったな」
「物質を変形させるそうだが?」
「はい、そうですけど…」
「治癒系は先天性か?」
「多重能力者など聞いた事が無いんだがな」
「え?」
「傷を見てみろ」
「傷…」
「ッ!?」
思わず息が詰まる
剔るように斬り裂かれていた腹部の傷が治りかけている
「何ですか…、コレ…」
「凄まじい治癒力だとは聞いていた」
「だが…、ここまでとはな」
「俺も…、ここまでとは」
「流石に驚きましたよ…」
どうなってんだ、俺の体…
傷を擦ると、痛みが走る
何故か、それに安堵した
読んでいただきありがとうございました