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秋鋼  作者: MTL2
499/600

大斧の男と双銃の男


東エリア


「長いな……」


オールバックの男は薄暗い、壁の亀裂から差し込む光だけが道標の東エリアを歩いていた

彼が居るのは真っ直ぐな廊下で、歩き始めてから既に五分程が経っていた

それでも終わりは見えず、廊下の左右に扉がある事からして施設の主道なのだろう

しかし、壁にはツタが絡まり付いており扉は錆びている

間違いなくそこは廃墟だった


「……ここに、奴が」


「あぁ、居るよ」


その声に振り向いたオールバックの男には二本の刃が迫っていた

それが男の眼球に触れる刹那、彼の姿はその場から消え失せていた

数メートルほど離れた場所に再び現れた彼は己が歩いてきた闇の中へ視線を向ける

そこには蠢く何かがあった


「まずは俺、か」


影の中から言葉が返ってくることはない

その代わりに石礫が地面に落ちる音がした


「……流石、暗殺の方法は学んでいるね」

「だが、こちらも負けるわけにはいかないんだ」


オールバックの男は静かに腰を下げ、地面に這うように体を伏せる

異形なる大斧を地に刻み込ませて体制を保つ

両手に持った斧で上半身を、両足で下半身を支える奇妙な体制

彼の伏せた体制は地面に這う獣の様だった


「嵐廻」


長さにして数百メートルの廊下

それ等の亀裂は一秒以下で数百ほど増加した


「が……!?」


闇中に潜む隻眼は身体に一閃の斬撃を受けた

だが、その一撃の深さは然程だった

単に皮膚を擦った程度

それでも


「そこだな」


男に位置を知らせるには充分過ぎたのだ


「嵐撃」


隻眼は咄嗟に背骨がねじ曲がる程に体を捻った

それと同時に彼の片腕が微塵となって廊下のツタに降り注ぐ

悲鳴を上げるよりも前に彼は掴んでいたツタを引き千切って地面に落ちた

彼は濁った苦痛の呻きと共に地面を這いずり回る

泥の様に血を撒き散らす彼の右肩は恐ろしく生々しかった


「速ッッ……過ぎだろッッッ……ォ……!?」


「これでも速さには自信があるんだ」

「でもまぁ、自分で思っていた以上だったよ」

「殺意というのは、ここまで人体能力を上昇する物なんだね」

「全く、自分でも恐ろしいよ」


柔らかい言葉使いの男は静かに微笑んでいた

その眼に殺意を充満させて


「君は不死なんだね」

「超再生とか幻術とか分身とか」

「そんな卑小な物で彼等に……、俺達の仲間に勝てるとは思えないから」


「アンタ、馬鹿じゃねぇみたいだな……!」


既に片手を再生し始めていた隻眼は苦痛を誤魔化す様に笑んでいた

光の差し込まない影で、その隻眼の前には大斧を構えるオールバックの男がいた

隻眼に突きつけられた大斧の刃は彼の首を跳ねられる位置にあった


「ま、仲間内じゃイトウさんの次に冷静かな」

「それでも仲間は大切に思ってるよ」

「君が殺した仲間をね」


「そりゃ、悪かったな」

「だけど俺も誰かを殺さなきゃならないんだ」


「残念ながら」

「理由なんて知った事じゃないんだ」

「君にも色々と理由があるだろう」

「信念や運命、大切な人も居るだろう」

「絶対に達成したい目的もあるだろう」

「それでも、それを解った上でも言わせて欲しい」


男は悲しそうに笑んで、そして大斧を隻眼の元から退けた

呻いたまま訝しく彼を見た隻眼の目に映ったのは、オールバックの男の頬を伝う一筋の涙だった

悲しそうに笑んだ男の頬を伝う涙と、差し込む光に照らされた銀の刃

そして、殺戮者の眼


「知った事じゃない」


隻眼の首はツタの上に転がった

体を失った身体は一瞬だけびくりと震えて、倒れた

ツタの上に紅い液体をブチ撒けて再び震えた


「君が殺した人々は俺達の大切な仲間だった」

「どれほど大切だったかなんて、もう語る必要も無いだろうね」


隻眼の身体が、さらに二つに別れた

オールバックの男は内臓を踏み付けて隻眼の中身から引き摺り出し、そして再び踏み躙る

緑色のツタが紅く染まり始めた頃、隻眼の身体はさらに縦半分に分断された

六つに別れた体の内、隻眼の片目が転がる頭部を男は踏み潰した

オールバックの男の表情に笑みは無く、それは最早

隻眼に劣らぬ程の、人殺しの眼だった


「俺は知ってるんだ」

「メタルや金田の強さを」

「だからこそ、君は今」

「ここで死んでくれ」


男の片腕に収束された風の刃

それは確実に不死たる男を塵に変える一撃だった


「悪いね」

「加減は出来ない」


男は拳を振り下ろし、嘗て仲間だった男の顔面を狙う

結果的にその収束された風の刃が切り裂いたのは紅く染まったツタだった


「……何」


オールバックの男は失った片腕が自らの体を掠めて飛んでいくのを見た

そして、目の前に化け物が存在しているのを認識した

言葉などでは形容できない、殺気の塊を


「ガァ………」


その化け物は確かに目の前に居て

自分の体は確かに化け物が持っていて

心臓は確かにもう無くて


「……すまない、メタル、金田」


男はもう、死んでいた




南エリア


「…美海、だな」


「あぁ……、久方振りだな」

「メタル」


銃を片手に持った美海は、灰黒髪の男と対面していた

広い、人なら数百人は入りそうな四隅の部屋

そこに二人は居た


「呼び捨てか……、昔は敬語を使ってくれたのにな」


「昔の話だ」


「……目的は何だ」

「お前達の、目的は」


「老人共が考えていることなんて、私には興味がないよ」

「だけれど確か……、言っていた」

「世界を創る、と」


「世界を?」

「貴様等は何を企んでいる?」


「創世計画、と」

「私はそう聞いている」

「……彼は、刃影は創世計画の実験台として創られた」

「不死の存在として」


「即ち……、憑神の模造品か」


「そう」

「だが、憑神としての機能は」

「最も大切な機能は得られなかった」


「命の蘇生と創造だな」


「……そうだ」

「得られたのは己の命を蘇生と創造する事だけ」

「酷い欠陥品さ」


「だが、お前の望み道理だ」

「細工をしたな?」


「流石、お見通しだね」

「そう……、私は細工をした」

「これで刃影お兄ちゃんを単なる[人殺し]に出来た」

「これで老人共の下らない計画を何千年と先延ばしにさせられる」


「……何故、俺達に頼らなかった?」


「貴方達はもう、憑神の力を使わないと決断しただろう?」

「だからこそ刃影お兄ちゃんは貴方達に頼るのを拒んだ」

「そして、私も」


「……これが結果か」

「憑神を封印した結果が、これか」


「もし何かが違えば」

「それこそあの時、刃影お兄ちゃんを貫いた弾丸が無ければ」

「何か違ったのだろうかな」


「過去だ」

「過去を振り返っていても、何も掴めはしない」


「あぁ、解っているさ」

「だが今更、何になろう?」

「創世計画は始まり、貴方達を始末し始めた」

「流石の貴方達も不死には勝てないだろう?」


「……不死の相手は初めてだ」


「勝てない、とは言わないのだね」


「ここで俺が言えば貴様はその銃の引き金を引くだろう?」

「望んでいるんだな、俺が奴を殺すのを」


「……あぁ、そうだ」


「自分勝手、手前勝手、得手勝手」

「何処まで利己的なんだ、貴様は」


「あぁ、そうだろうね」

「私は自分勝手で手前勝手で得手勝手で」

「利己的だ」


「自分の望んだ玩具が予想と違ったから捨ててくれ、と」

「それを壊したがっている者に壊してくれ、と?」


「そう、それが私の望み」

「悪い話じゃないだろう?」

「貴方自身の望みと私の望みは一致ている」

「情報を提供しよう、物資を提供しよう、資金を提供しよう」

「これ以上に何を望む?」


「俺の望みは無い」

「敵討ちこそが俺の望みだとすれば、他に理由はない」


「結構だ」

「ならば、もう異論はないな」


「異論ではなく、意見ならば」

「貴様は何を望む?」


「何?」

「それは老人共の計画を破綻させること」

「そして隻眼……、刃影お兄ちゃんを」


「刃影を二回死なせるのか」


「……あぁ、そうだ」

「私は」


「殺すのは俺だ」

「決めるのは貴様だ」


「……答えに、変わりはない」

「私は玩具を気に入らない」

「だから」


「どうして頬に涙を伝わせる?」

「貴様は何を、どうして」

「望む?」


「……私は救いたいんだ」

「私は、刃影お兄ちゃんを」

「だけれど無理なんだ」

「私には無理だ」


「言ったはずだ」

「それは利己的だ、と」

「貴様の背負った罪の重さは小さ過ぎる」

「それがあの男の背負った罪に加算されたとき、その重さは幾様にも膨れ上がる」

「結局、貴様は」

「自分が救われたいだけだろう」


「……それの、何が悪いと言うんだ?」

「それの何処が問題なんだ?」

「私を救ってくれよ」

「私を地獄の闇から!!連れ出してくれよ!!!」

「……連れ出して、救ってくれよ」


「餓鬼の我儘に付き合ってる暇はねぇんだ」

「俺は刃影じゃない」


「だったらどうして!!!」

「またここに来た……!?」


「貴様の言う隻眼を殺すため」

「貴様の言う計画を止めるため」

「殺しを、するためだ」


「……どうして、誰も」

「私を救ってくれないんだ……!!」


「自ら地獄へと踏み込んでいく者を救える人間なんざ居やしねぇ」

「頼るなら、化け物に頼れ」


灰黒髪の男の言葉とほぼ同時に、岸壁が突き破られて西部ガンマンのような帽子を被った短い金髪の男が吹き飛ばされてくる

彼の片足は既になく、口元からは一筋の血を流していた


「……メタル、ガルスが死んだ」


「そうか」


「俺も……、もう永くない」

「頼んだぞ」


「あぁ」


男が最後の吐息と共に放った弾丸は殺気の塊と化した化け物の顔面を粉砕する

それでもその化け物は止まることなく男の顔面を砕き割った

壁に首を減り込ませて息果てた男はその手から静かに銃を落とした


「グルァアアア……!!!」


次の獲物を定めるように牙を向いた化け物の首

それは天井近くを舞って、地面に落ちた


「行くぞ、化け物」


灰黒髪の男は紅を帯びた刀身を振り払う

対峙する化け物は己の首を拾い上げて元の位置に接合した

その化け物は自らの目の前で構える獲物に対して、狂喜の笑みを零した

それこそ、まるで

殺しを楽しむ道具の様に



読んでいただきありがとうございました

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