実験
運営より警告を受けましたので、内容を変更しております
実験室
何処だろう、ここは
何も見えない
感触からして目隠しをされているのだろうか
両手と体が固定されていて動けない
背中には固い感触が伝わってくる
金属質の台にでも乗せられているのだろうか
何かの声だろうか、虫の羽音ほどの何かが聞こえる
カチンッ
留め具を外した音が耳に届いてきた
感触はないから、きっと別の何かが外れたのだろう
私の周囲ではマスク越しに息を吐き出す時のような、空気の抜ける音が聞こえる
何となく人の気配もする
恐らく、だれかが近くに居るのかも知れない
「やれ」
聞いたことのない声が聞こえた
その瞬間、ちくりとした痛みが私の腕を襲った
何が何だか解らなかったけれど、あまり痛くはなかった
「実験開始」
「計測しろ」
また男の人の声が聞こえた
マスク越しに喋っているのか、少し曇った声だった
少し体が熱くなってきた
何かを刺された部分が段々と熱くなってくる
何を刺されたんだろう?
「心拍数、上昇」
「始まります」
「ひっ」
「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ」
規則的に吐き出される白月の声
苦痛とも驚愕とも取れないその声は徐々に速度を増していく
それに連れて喉が詰まりだし、次第に息すら出来なくなる
白月の全身が痙攣し始めて手足はびん、と伸ばされて細かく震えている
遂には声すら出なくなり、空気を舐めとる様に舌を引っ張り出し、全身を細かく痙攣させる
「解毒します」
「まぁ、待て」
「元老院公認で破壊可能な実験台は少ない」
「暫く経過観察しよう」
「解りました」
全身が刃物で斬り付けられた様な痛みに襲われる
視界が赤く染まるが、肌に何かが流れた感触はない
全身が細かく震えていて、感覚が無くなってきた
意識が遠のいて消えていきそうになると、再び激痛が全身を襲う
その度に全身が悲鳴を上げようと空気を吸うが、喉が圧迫されている様に締め付けられていて声が出ない
苦しい、苦しい、苦しい
「……ぁっ」
白月の股元から黄色い液体が流れ出す
それと共に鼻腔から一筋の血液が流れ出し、口元を伝って服に染み渡る
黄色い液体は椅子の脚と白月の乗せられた台の端から白いタイルの床に零れていく
研究員達は誰もそれを気にする事なく白月の経過を記録し続けていた
やがて黄色い液体はその部屋の端にある排水溝へと流れていく
「……解毒しろ」
「はい」
研究員の一人が白月の腕に黄緑色の液体を注射する
彼女はひっ、と喉を詰まらせたように唸ると全身を力なく項垂らせた
「血圧低下」
「脈拍共に正常値……、回復が早いですね」
「あのロ・クォンの元で体を鍛えていたそうだ」
「素晴らしい素材だよ」
研究員の一人はマスク越しに下卑た笑みを浮かべる
それに伴って、その隣にいた研究員も小さく笑い声をあげた
「今日はこれまででしょう」
「あまり無理をさせ過ぎると壊れやすくなりますから」
「うむ、そうだね」
「B-1に入れなさい」
「……しかし、あの部屋には」
「何、牙は抜いてある」
「あくまで戦闘力を見るだけだ」
「実戦実験ですか」
「しかし、アレの……、何と言いましたか?」
「堕天使」
「元老院の方々も中々、洒落た名前を付けたね」
「えぇ、全く」
「それで、その堕天使に実験台を襲わせてしまったら精神的外傷を受けるのでは?」
「アレの見た目は余りに、異様ですからね」
「あぁ、それで良いのだよ」
「私は小娘の叫び声が耳触りでね」
研究員はそうとだけ言うと、白月の拘束具を外し始めた
力なく項垂れた手を研究員は掴み、無理やり持ち上げる
人形のように腕だけでぶら下がった彼女を両脇を持って支え、別の研究員に渡す
「連れて行け」
白月を支えた二人の研究員はそれぞれの片手で扉を開けて、部屋から出ていった
それを二人の研究員は酷く歪んだ目で眺めていた
B-1実験室
「……………ぅ」
少女が目覚めたとき、目に映ったのは一面の白だった
全く何もない空間のそこに自分だけがただぽつんと存在していた
「こ……こ……?」
全身がまだ痺れる
舌も上手く回らず、視界も曇っている
ただ、何故か感覚だけは冴えていた
皮膚に触れる空気の流れ、口内の唾液の状態、全身の筋肉の動き
自分の一挙一動で軋む骨の音すら聞き取れる
先程の薬のせいだろうか
それに、心なしか甘い匂いもする
妙に湿っぽい空気の中、その匂いは風に流れて部屋に充満している様だった
その時ガチャンッ、と金属の音がした
鍵でも開けたのだろうか?風が流れてくる
「っ!?」
それと共に流れてきた異常な臭いは甘い匂いを掻き消すどころか、私の鼻を潰してしまう程の物だった
食道を胃液が込上げてきて、酷い吐き気に襲われる
前から歩み寄ってくる物の足音と鳴き声は聞いたこともない物だった
『外せ』
電子音声の大きな声と共に白月の目隠しが外れる
ゴトンッ、と重々しい音を立てて目隠しだった拘束具は地面に落ちる
それを気にする暇もなく、白月は顔を引き攣らせて悲鳴をあげた
目の前に居たのは人でも機械でも獣ですらない
化け物だった
「な……に……こっれ……!?」
呂律が回らない
必死に足掻いても手足が言うことを聞かない
ただ迫りくる化け物を待つだけ
「いっ……やっ……!!」
化け物は金切声のような鳴き声をあげて白月に近づいてく
歯茎を剥き出しにして口元を裂くようにして笑い、唾液を撒き散らす
歯のない裂けた口はまるで血肉その物の様だった
鋭い爪は鋭利な針のように尖っており先端は少し黄ばんでいた
全身に青色や緑色の血管を浮き上がらせて、その化け物は鳴き声と共に白月に接近していた
「こっ、来な……い……で……!!」
白月の恐怖に引き攣った顔を楽しむように、堕天使という名の化け物は表情を歪める
口だけの歪んだ顔をさらに歪めて堕天使は細く青白い腕を振り上げる
細長く鋭利な爪は地面でのた打ち回る少女の衣服を切り裂くには充分な物だった
衣服と共に皮膚も切れ、細い切り傷が白月の柔肌に生まれる
露わになった彼女の小さな乳房を見て堕天使はさらに表情を歪める
『聞こえていれば言うが』
『その化け物はね、未だに大量生産が出来ない上に知能力に欠けるのだよ』
『その為、何処まで戦闘ができるかの実験と行動調査に付き合ってくれたまえ』
悍ましい研究員の声を白月が理解するのには数秒を要した
そして、それを理解した彼女からは喉が掻き切れるほどの絶叫が響き渡った
対照的に化け物は狂喜の叫びをあげた
白月は悲鳴を漏らし、全身を震わせて近寄る化け物から必死に逃げようと手足を足掻かせる
しかしその行為も虚しく、堕天使の細長い腕が彼女の腕を掴む
鋭利な爪が彼女の皮膚に食い込み、その痛みに白月は悲鳴を上げる
『ふむ、やはり少し知能に欠けるね』
『真正面から言っては殺されかねないからな』
研究員の電子音声に反応し、堕天使は裂けた口をさらに開ける
白月ほどの少女ならば丸呑み出来そうな程に裂け広がったそれは彼女の首元に齧り付いた
排水溝が大量の水を飲み込むような音と共に白月の悲鳴は高くなっていく
牙を抜かれているために殺傷力こそないが、その感触は身の毛も弥立つような物だった
堕天使の爪が指に収納され、その指の血管が皮膚下で何度か波打つ
その指は人より少し太い人差し指と親指、そして人より遥かに細い中指と薬指と小指となる
化け物は人差し指と中指で白月のもう片方の首筋を弄り、細い指で彼女の頬に指を添わせる
空いた片腕も同じように異形に変化して、それは白月の口内へと延びていく
「ひぅっ!!」
太い人差し指と中指が彼女の舌を摘み、強く引く
細長い指が湿り始めた彼女の口内へと侵食していく
その力は微々たる物だったが、彼女の意識を侵食するには充分だった
「い、いや……!!」
『ほぅ、少しは薬が効いているね』
『この部屋に充満させた甘い匂いに気付いたかな?』
『いわゆる[弛緩剤]でね、君が痛みを感じないようその化け物の力を抑えるために充満させてあげたのだよ』
『まぁ、ゆっくり楽しみたまえ』
白月は涙を流しながら絶叫して助けを乞うが、それは誰にも届かなかった
狂ったように笑い声をあげる堕天使は彼女の首元を押し潰すほどに齧り付く
薬のせいもあってか、彼女の全身から力は奪われていた
その状態で口内を掻き回されて彼女は嗚咽感を抑えることは出来なかった
唾液が彼女の口内から溢れ出し、堕天使の細長い指にねっとりと絡みつく
堕天使はその糸を引く唾液を白月の目の前で広げて見せる
それは白月の顔を恥辱と絶望の表情に染めた
涙を流して絶叫する彼女の腕に爪を食い込ませ、化け物は彼女の首筋から唇を離す
黄緑色の唾液が糸を引いて彼女の首元から堕天使の口元へと繋がっていた
その表情をさらに醜く歪ませて、堕天使は白月の眼前で裂けるほどに笑んでいた
余りの醜さと異臭に彼女は嘔吐し、床に胃液を吐き捨てる
その胃液の上に垂れていたのは、堕天使の唾液と彼女自身の唾液だった
「う……、そ……」
彼女を黙らせるように化け物の指が白月の口内を蹂躙する
細長い指と太い指は彼女の喉へと押し込まれ、口内に残っていた胃液すら喉奥へ押し込んでいく
彼女の気管も食堂も押しつぶす程のそれを喉に突っ込まれた白月は気絶しかけて白目を剥く
苦痛の声を漏らして窒息しかけた彼女の喉から指が一気に引き抜かれる
空気と自身の唾液を吐き出した彼女の喉に、再び指が差し込まれる
嗚咽と呼吸を何度も何度も繰り返し、その度に堕天使の指が白月の口内を蹂躙した
やがて彼女は疲労と恐怖によって足掻くことすら諦める
手足を力なく垂らした彼女に堕天使は化け物らしい狂気の笑みを浮かべた
その化け物は、彼女を玩具として扱っていたのだ
「…………神無様」
堕天使は白月を突き飛ばし、地面に伏せさせる
力なく成すがままにされた彼女は絶望に目の光を失っていた
最早、彼女の精神は声を出すことすら拒んでいた
堕天使の牙の無い、気色悪い口はその彼女に接近する
そして彼女の両足の付け根を握掌した
指先からはみ出た爪の切っ先が彼女の柔肌を切り裂いて血を漏らす
それすらも気にすることなく、醜い唇は白月の腹部に宛がわれた
ブツブツと何かを呟く白月の意識を貫通し、その唇は一気に彼女の中を掻き回すほど強く齧り付く
舌を突き出して唾液を吐き出した白月の表情は歪み、化け物の貪りついた腹部からは黄緑色の唾液が滴っていた
彼女の長い髪と柔い肩も同時に揺れ、柔肌の切り傷から血が周囲に飛び散る
狂喜に身を悶えるように堕天使は歓喜の唸り声をあげて、その唇を引き離した
未だに衝撃によって痙攣する白月の腹部を持ち上げて、その唇を再び貪りつく
強制的に全身の空気を吐き出さされた彼女は再び痙攣した
つま先を伸ばし切って細かく震わせる
堕天使は狂気の虜になった様に何度も何度も彼女の内臓を感喰する
醜く子供の腕ほどもある指が彼女の腰元に食い込んで、真っ赤な血を流させる
腹部に何度も何度も牙の無い歯茎が打ち付けられ、彼女の口からは薄黄の胃液が溢れていた
堕天使は狂気の叫びをあげて、白月の腰元にあった指を彼女の口内に突っ込んだ
遂には彼女の胃から食道まで逆流し、白月の胃液と共に口から吐き出された
白目を剥いて意識の糸を断ち切られた彼女は地面に頭を打ち付ける
気絶して動かなくなった彼女の口の中で、堕天使の指は化け物のようにのた打ち回っていた
再び狂喜を求めるように何度も何度も唇を彼女に打ち付けて堕天使は悦楽を貪る
動くことなく薄黄色の濁った胃液を吐き出す白月に構うことなく、堕天使は彼女を貪り続ける
白月の全身には堕天使の爪による切り傷が生まれ、無数の生傷となっていた
唾液を撒き散らしながら叫ぶ堕天使の姿は最早、化け物という以外に形容の出来ないものとなっていた
「か……、んな……さ……ま……」
気絶した白月は悪夢から逃れる最後の術のように、ただそれだけを呟き続けていた
それでもその言葉は悪夢から彼女を救ってくれる事はなかった
彼女の全身を埋め尽くした薄黄色の濁った胃液は悪夢を助長させるように量を増していく
堕天使は三日三晩、研究員が次の研究に彼女を使う為に持ち出そうとするまで狂喜を貪るのを止めなかった
全身を己の胃液で染めて、瀕死の状態になっていた彼女は意識を取り戻すと一日中吐いていた
それでも体内に突っ込まれた堕天使の指の感触を忘れられずにその日の夜中は自身の手でずっと口内を掻き回していた
全身を生傷だらけにし口内すらも自身の爪で傷つけた彼女には、もう人としての存在は無かった
薬物による実験を終えて再びB-1実験室に戻された彼女には舌を噛み切る気力すら残っていなかった
絶望の闇に放り込まれ、死ぬことも叶わぬ彼女
休憩のために与えられたこれからの三日間
それは、堕天使との実戦実験と言うよりは一方的な堕天使の行動調査の実験体だった
もう、その実験は研究者たちによる見世物となっていた
彼女の痴態は、彼女の恥辱は彼等の娯楽と化していた
堕天使に蝕まれる白月を笑い蔑む者、気色悪いと見下す者
様々な者が居たが、彼女にはもうどうでも良かった
化け物の玩具となろうとも、実験で死のうとも
彼女は最早、死を望んでいた
「…………こ、ろして」
彼女を悪夢から救い出してくれる言葉は、変わっていた
読んでいただきありがとうございました