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秋鋼  作者: MTL2
475/600

三挺の拳銃と三日の猶予

「……っ」

「ここ、は……」


オフィスに置かれているような椅子を幾つか連なって作られた簡易的なベット

そこに布を被せられて眠っていた波斗は苦しそうに目を開き、体を起こす


「あ、蒼空!!」

「城ヶ根さん!蒼空が気が付きました!!」


彼の隣に座っていた森草が立ち上がり、大声を出しながら扉の方へと向かっていく

何が何だか解らない波斗は頭の痛みを我慢しながら、その周囲を見渡す


「何処だ……」

「ここ……」


亀裂の入ったガラス窓から見える外の光景

それは大災害の後のような凄惨な物だった

地面は大破し、車などの人工物は尽く破壊され、周囲のビルは黒煙を上げている


「そうだ……、憑神が……」


恐る恐る、波斗は自分の腕に目を向ける

そこには元からあった腕がそのままに存在していた


「良かった……」


安堵の息をつく彼の隣には、いつの間にか再び森草が戻って来ていた

彼女も安堵の表情を見せており、胸をなで下ろしている

波斗は心の底から笑みが込み上げくすりと笑いを零す


「………俺、何日寝てたのかな」


「丸一日ぐらいかな……」

「腕はくっつけておけば大丈夫だ、ってゼロさんが……」


「ゼロさん!?」

「あの人、来てるのか!?」


「え、えぇ……」

「……憑神を追い払った、って言うか……、何と言うか……」


口ごもる森草に対し、疑問の視線を向ける波斗

やがて彼女が言葉を止めると二人の間には沈黙が流れる

気まずい沈黙の中、森草は手を組んで指同士を沿わせて唇を微かに動かせる


「……蒼空、怖くない?」


「……怖い、って?」


「私は……、怖い」

「だって、あんな……、絶対的な力っ……」


彼女の言葉を遮るように扉が開き、ゼロが入室してくる

彼は森草の元へと歩いて行き、彼女の肩へと手を置く

振り返った森草に立つよう指示し扉に目を向ける

森草はそれが席を外せ、という指示だと感じ取って何も言わずに部屋から出て行った

扉が閉められ、部屋には再び静寂が訪れる

森草の座っていた場所に座したゼロは静かに手を組んで波斗へ視線を向ける


「怖いか」


「……?」


「怖いか、俺が」


ゼロの瞳は紅い

紅眼と同じ、隻眼と同じ、祭峰達と同じ紅

それは無型を取り込んだ人間の紅だった


「どうして……!?」


「憑神の野郎共をぶっ殺せるように力を手に入れた」

「これで人間じゃなくなろうとも関係ねぇ」

「俺は力を望んで、手に入れた」

「それだけだ」


「……そう、ですか」

「そうですか……」


項垂れる波斗に対し、ゼロは深く息をつく

髪を掻き上げるように掌を頭に沿わせて前髪を上げ額を晒す

再び息を吐き、彼は手を膝に付く


「お前からすりゃ、馬鹿にしか映らねぇだろうな」

「己の運命を憎むお前の前に、憎むべき物を望んで手に入れた者が居る」

「恨みたいなら好きなだけ恨んでくれ」

「俺は何も言わないし何もしねぇ」

「それが俺のやった事だ」


「……ゼロさん」


「何だ?」


「総督を殺したのは……、貴方ですか」


その質問に対し、ゼロは驚いて様に目を開ける

暫く後、少し目を細めてから彼は質問に返答する


「違う」

「俺のカードが使われてただけだ」

「恐らく白月の犯行だろう……」

「俺はあの時、既に軍から疎まれていたらしい」

「罪を被せるには絶好の立ち位置だったんだろうな」


「……じゃぁ、軍を裏切ったって言うのは」


「俺がもしあのままなら、軍は……、神無は間違いなく森草達に手を出した」

「それを恐れたから俺は祭峰の誘いに乗ったんだよ」


「誘い?」


「軍を裏切って仲間にならないか、ってな」

「……そして、No,2のことも聞かされた」


「ゼロさんの……、親友の?」


「そうだ」

「アイツが裏で祭峰達と手を組んでた事や、本当にやろうとしてたこと」

「そして死んでいったこと」


「………っ」


「だから、俺はそれを受け継ぐことにした」

「状況が状況だったしな、抵抗はなかった」


「……ゼロさん」


「何だ?」


「セントさんと……、連絡は?」


「取ってない」

「森草は俺達の方に来たが、セントは今アメリカに避難してる」

「グランの元に居りゃ安全だろうよ」


「だったら、取ってあげてください」

「セントさんはずっとゼロさんの事を……」


「……なぁ、蒼空」


「何ですか?」


「何でお前は人の事を気にするんだよ」

「何で自分の事は後回しなんだよ?」


「……だって、もう覚悟は決めましたから」

「俺はもう後戻りなんてしない」

「進むべき道は……、決まってます」


「……そうかよ」

「強ぇな、お前は」

「もう……、あの時みたいなガキとは違うんだな」


「……高校生はまだ子供ですよ」


「……それも、そうだな」


抑えていた笑みを零すように、くすりと波斗は微笑む

それに対してゼロも頬を軽く緩ませる


「あ、話し合い終わった-?」


扉の隙間からひょっこりと城ヶ根が顔を覗かせる

彼の問いにゼロと波斗は視線を交差させ、ゆっくりと頷く



廊下


城ヶ根を戦闘に波斗とゼロが彼の後ろを歩いて行く

無機質な廃墟のような廊下には数多くの書類や観葉植物が散乱しており、彼等はそれを乗り越えていく

暫く歩いた後、ゆっくりと城ヶ根が口を開いた


「祭峰が集まれ、って」

「皆はもう集まってるよ」


「あの、皆さんは無事なんですか?」


「んー……、無事っちゃ無事かな」

「奇怪神さんとアロンのサポートを受けて、楓ちゃんが皆の傷を治してる」

「全員、何処かを失ったりとかはしてないよ」

「楓ちゃんの治療で完治するって」


「……良かった」


「アロンは到着したのか」


「昨日の夕方ぐらいに」

「ゼロは……、ずっと祭峰と話してたね」


「ちょっと気になる事があってな」


「気になる事?」


「……下らん事だ」

「もう解った」


彼の言葉を最後に、廊下は終わりを迎える

大きく綺麗な装飾の施された扉を城ヶ根は両手で押し開く

彼等の眼前に広がったのは大きな部屋と巨大なガラス窓

そして、巨大な円卓を囲んで幾つにも連なったソファに座る仲間達だった


「やっと来たか」


その中心に座す祭峰

両手を広げて、まるで来賓の客を迎える社長のような振る舞いを取る


「傷は大丈夫なのか」


「もうピンピンだぜ!完治も完治の完全完治だ!」

「お前も大丈夫そうだな?」


「俺は不戦闘に等しいしな」

「傷も何も……」


「[眼]は?」


祭峰の言葉にゼロは紅き眼を静かに細める

重々しい唇を開いて、小さく言葉を漏らす


「……黙れ」


「へいへい」


訝しそうにする波斗の肩を掴み、城ヶ根はソファへ誘導する

彼の右隣には森草が、左隣には鉄珠が座っていた


「よし、全員集まったな」

「それじゃ……、まずは何から言おうか」


顎に手を当てて、祭峰は右から順に皆の顔を見渡していく

最も左端に座すバムトを見てから両手を打ち鳴らし、膝に手を突いて立ち上がる


「そうだなぁ」

「ま、先日の憑神戦……、言うまでもないよな?」


気まずそうに目を逸らす者、神妙な面持ちで頷く者、静かに祭峰に眼光を向ける者

皆が様々な反応を見せるが、全員は共通して彼の言葉に同意した


「結果的に相手の誇示アピールは大成功だ」

「俺達はボコボコにやられたよ」

「最強戦力メンバー全員がな」


「で、でも!あれは集合場所に来るまでの戦闘があったからで……」


「……森草ちゃん、だっけか」

「そうでもないね」

「もし、万全の状態だったとしても……、決して勝てなかっただろう」

「それ程の力の差だ」


「圧倒的、などと言う言葉で片付く物ではないのだろう」

「奴に何の犠牲も無く勝利する事は……、不可能かも知れない」


バムトの言葉に皆は何も言えず、喉を詰まらせる

彼等自身も理解しているのだ

あの圧倒的な、強大無比な力を

最大の戦力である祭峰達がいとも簡単に蹴散らされた

他の者達も向かっては言ったが、羽虫を潰すように軽く倒されてしまった

もし、あの時にゼロが間に割って入らなければ

もし、あの時に紅眼が彼に撤退を命じなければ

どうなっていたかなど想像に難くない


「……ま、そういう訳だ」

「全員に集まって貰ったのは先日のアレも含めて考えて貰いたい事がある訳なんだよ」


祭峰は中心の円卓に三挺の拳銃を放り投げる

黒銀色に輝くそれは何度か回転して互いに衝突し合い、やがて円卓の上で回転を止める

銃の弾倉にはそれぞれ六発の弾丸が入っていた


「逃げたい奴、逃げろ」


その言葉に、皆は静かに言葉を失っていく

誰も、何も言わず、言えず

ただ静かな沈黙が訪れる


「……逃げろ、とは言え」

「もう俺達は軍を敵に回してる」

「現状、俺達は軍の怨恨全てを向けられてると言っても良いだろう」

「ここで逃げて、もし軍に見つかりゃ……、楽に死なせてはくれねぇだろうな」


生々しい現実味を帯びた言葉は皆の脳裏に凄惨な光景を過ぎらせる

そして、それは決して有り得ないことなどではない

恐らく……、自分たちが辿るであろう末路


「だから、これを用意した」

「三挺に六発ずつ、合計で十八発だ」

「一人、一発ずつな」


「……祭峰君」

「数が……、足りませんが」


奇怪神の言葉に下卑た笑みを浮かべる祭峰

懐から幾つもの弾丸を取り出し、掌に乗せて見せる


「十八ってのは、お前等の人数だよ」

「俺、蒼空、鉄珠、雅堂、バムト、元No,1は……」


彼の掌に乗った弾丸は一瞬にして砕き割られる

弾丸の破片が円卓の上に転げ落ち、金属音を放つ


「逃げる事は許さねぇ」

「地獄まで着いて来て貰う」


バムトと雅堂、そして鉄珠と鴉はその言葉に同意するように深く頷く

蒼空でさえも戸惑う様子を見せずにその眼に決意の光を灯す


「ま、そういう事だ」

「三日」

「三日だ」


「……三日?」


「時間をくれてやる」

「その間に頭をブチ抜くも良し、逃げるも良しだ」

「何をしようと誰も責めねぇ」

「好きにしろ」


そうとだけ言い残し、祭峰は静かに部屋を去って行く

彼の後を追ってバムト、鉄珠が部屋から退出していく

その後も一人、一人と部屋を後にして扉が閉められる

数十分後には部屋に波斗と森草、そして織鶴だけが残る


「……蒼空」


「俺は迷わないよ」

「決めた事だ」


蒼空は立ち上がり扉を開いて退出していく

部屋に取り残された森草は少し表情を歪め、やがて立ち上がる

彼女も部屋から出て行き、最早、そこには織鶴だけとなる


「……火星」


虚しそうに言葉を零した彼女は拳銃に手をかける

弾倉を回転させて、安全装置を解除し、引き金に指を掛ける


「……私は」


そう言い残し彼女は静かに銃口を側頭部に向ける

数十秒の間、それを自らに突き付けて程なく拳銃を円卓に戻す


「出来ない……」

「私にはっ……!!」


誰も居なくなった空虚な部屋

そこに響き渡るのはただ一人の女性の泣き声だけだった



読んでいただきありがとうございました

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