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秋鋼  作者: MTL2
473/600

力の誇示

高層ビル内


「蒼空……」


「ただいま、委員長」


涙ぐんだ森草の芽に映るのは、何処か違った雰囲気を纏った波斗

揺らぐ彼の姿は森草の芽には凛々しく映る


「良かった……!無事で……!!」

「良かった……!!」


「まだ泣くのは早いぞ」


雅堂が彼女の頭をくしゃくしゃと撫でる

少し怒ったように彼女は雅堂を睨み付けるが、その視線も直ぐに優しいものへと変わる


「雅堂も……、生きてて……」


「当たり前だ」

「死ぬまで死ぬかよ、この俺が」


「はいはい、再会劇はそこまで」

「まずはアイツ等をどうにかしようか」


二人の間に割って入った鉄珠の指す方向には、幾百の屍の群れ

秋葉原全土より迫り来る屍の渦は依然としてその脅威を振るっている


「俺が行きます」


「駄目だ、蒼空」

「つい先刻の能力で地盤が変形してる」

「これ以上の追撃は危険だ」


「じゃぁ、どうするんですか」


「俺が行こう」


そう言って一歩を踏み出したのは雅堂

彼の手に纏われた塵は屍を灰葬すべく芥々と散り咲く


「たかが数千体」

「蒼空が万を消したならば」

「俺は千など片腕で消してやる」


進撃する者の目には愉楽を望むかのような色に染まる

恐らく、数十秒先に現れるであろう光景を想像するのは難しくない

波斗と鉄珠は呆れ混じりのため息を付いていた




「さて、と」

「話を進めようか」


振り払った手から塵が空中へと消えていく

屍の一切を許さず、雅堂は塵として滅したのだ

その間を測るなど馬鹿らしい事だが、少なくとも一分も掛からなかっただろう

高層ビルを背に負った彼は踵を返してビルへと戻って来た


「生存者は?」


「全員!」


嬉々とした声に反応した雅堂の目に入ったのは笑顔でピースする鉄珠

彼の背後には息切れや生傷を負いながらも無事に立つ仲間の姿があった


「結構」

「残存敵勢力は?」


「皆無!」


「結構」


全ての塵が散りきった後、雅堂はビルの内部へと入ってくる

懐に手を突っ込んだまま、彼は周囲を見渡す


「蒼空 波斗、森草 蜜柑、祭峰 悠拉、バムト・ボルデクス、鉄珠 忍、元No,1、核、奇怪神 怪異、雨雲 卯月、鎖基 弓道、枯木 楓、西締 酉兜、シーサー、橋唐 兎氏、ラグド・ファイス、霊魅 ヱヰ、ソウ・テイル、ロ・クォン、響 元導、ソルナ・キューブ、夜斬 無月、城ヶ根 鉄、BOX、織鶴 千刃」

「俺も含め、二十五人か」


「後はアロンだが、アイツも後々来る」


「そうか」

「戦力としては後、ひと味欲しいが」


「その心配も皆無だ」


「……アテでも有るのか、祭峰」


「いンや、勘」


「相変わらずアテにならん男だ」


吐き捨てるように雅堂より零された言葉は皆の安堵と微笑を誘う

ビル内には一刻の安泰が訪れたのだ

それは確実なまでに保証された安全

曾て、いや、今でも、軍が全力を持って排除しようとした戦力がここには集結している

大凡、完全なまでに、圧倒的なまでの安全

最終決戦に向かうまでの最後の安息

彼等が息を抜ける最後の瞬間


その安泰も、たった一人に崩される


「……全員、ビル内に退避」

「絶対に顔出すんじゃねーぞ」


恐怖と戦慄に塗りつぶされた言葉

祭峰の頬を、全身を駆け抜ける恐怖

それは蒼空も雅堂も鉄珠も核もバムトも同様にそれを感じていた

命の創造者、強大無比なる者、陰陽の所持者


憑神を前に


「何で……」

「軍は迎撃戦法に徹したはずじゃ……」


「……誤算」

「明らかな誤算だ……!」

「そうか…!道理で……!!」

「あれは誇示アピールだ……!!」

「圧倒的な力の……!」

「絶望の……!!」


震える夜斬の声を肯定するかのように、憑神は槍を召還する

異形の槍を掲げた憑神はその右腕を高く高く


「……まさか」


態勢を半身にし、左腕を前に

左足を前に、右足を後ろに


「投擲する気か……!!」


「全員下がれぇええええーーーーーーッッッッッッッッ!!」

「蒼空ァ!元No,1ン!!鉄珠!!!雅堂!!!!バムトォッッッ!!!!!」


祭峰の叫びよりも早く、彼等は皆の前へ踏み出していた

ある者は右拳に陽の光を纏い

ある者は両手に陰の絶を帯び

ある者は片手に影の短刀を持ち

ある者は全身に塵の鎧を穿き

ある者は片腕に闇の拳を構え

ある者は背中に黒の翼を背負い

そこに立つ


「全力だ!!防ぐぞ!!!」


皆を守るように壁となり、それに立ち向かう

眼前の圧倒的絶対的究極的な力を前に


「弾くだけで良い!!」

「絶対に後ろには通すなッッッ!!!」


豪声に返る言葉は「応」のみ

元より否定の選択肢など存在しない

否、選択肢すら存在しない


「弾くだけ?通すな?」

「遠慮するな」


皆の目には決意の光が灯る

引くことなど考えない者達は己の目の前だけに視線を向ける


「……ったく、馬鹿野郎が!」

「大好きだぜ!!」



「創造!!」


「天地の拒絶」


「影迅刃!」


「処断者・塵裁!!」


「闇狂神!!」


「武煉災祭!!」


それぞれが技を発動し、憑神の投擲に備える

陰陽の槍を構えし者は何処か嬉々とした表情で、その紅き眼を唸らせる


「人は……、美しい」


重々しく暗々しい声

それは確かに火星の声だ

だが、だが違うのだ

まるで陰を体現したかのような声

その声を耳にした途端、波斗達の目は酷く歪められる


「その微かなまでに儚い命を猛り奮う」

「我には解らぬ感情だ」

「無限の命を持つ我は」

「貴様等のように儚さを知らない」


「うるせぇよ、生まれて一年の赤ん坊が!!」

「先輩と上兄弟に敬意を払いやがれッッッッッッ!!」


「……敬意」

「それも、知らんな」


槍を力強く握り直し

憑神の顔は狂々しく歪む


「だが、知っている」

「命の絶ち方は」



「陰陽の槍」



全てを絶ち殺す一撃

投擲された槍は光よりも早く爆撃より強く

具現化された死の如く


「通さねぇえええええぜえええええええッッッッッ!!!」


黒翼を舞わせ、空へ躍り出るは祭峰

その手に収束された一撃を放つ

全てを滅び尽くす黒の炎砲は槍に直撃する

しかし、それを止める事は出来ない

彼の翼を突き破り、槍はさらに突進する


「破ァッッッッッッッ!!!!」


闇の尾を引いて槍に殴打を浴びせるはバムト

その拳を唸らせた強大な一撃を放つ

深淵が如き黒闇の一撃を槍に喰らわせる

しかし、それを止める事は叶わない

彼の巨躯を吹き飛ばし、槍はさらに突進する


「がぁあああああああああああッッッッッ!!!」


槍の真正面に豪壁として君臨する雅堂

その鎧は槍の突進を阻止すべく真っ向より立ち向かう

塵を纏う禍々しき鎧は槍に対し凄まじい火花を散らす

しかし、それを止める事は不可能

彼の鎧を砕き割り、槍はさらに突進する


「ーーーーーー……!!」


双掌を槍に向け防御すべく絶する鴉

その双掌より天地を否する拒絶の一撃が放たれる

黒き陰の破撃は槍との間に黒と白の業火を爆発させる

天を舞い、地に突き刺さった槍


「止めたか……!」


鴉の瞳に映ったのは狂気の笑み

彼の華奢な体を吹き飛ばすは憑神


「がァッッッッ………!!」


「微かな[希望]」

「知らないな」


波斗へと迫り来る強大な脅威

素手で、無謀で、特攻で

ただそれだけなのに

異様に恐ろしい


「おらぁあああああああああッッッッッッッ!!」


波斗の繰り出した一撃は憑神の顔面を捕らえる

太陽の光を放つそれは、憑神の闇を浸食し始める


「それが、どうした?」


波斗の片腕が宙を舞い、高層ビルのガラス壁に紅華を咲かせる

悲鳴と絶叫を受け入れる準備をした憑神の耳

しかし、彼の耳にそれは届かない


「……ふむ」

「無謀、知っているぞ」


残された左腕より放たれる拳撃

憑神の顎が跳ね上がり空を仰ぐ

しかし、それすらも決定打にはほど遠い

地を望む狂気の眼が波斗へと向けられる


「弱々しい」

「その程度か、貴様の一撃は」


「……火星さん、ですか」


「何?」


「貴方は火星さんですか……?」


波斗より零された質問

小さな、絞り出した様な声で彼は憑神に問う


「……火星」


憑神はぼそりとその名を呟く

彼の腕が止まり、静かに降ろされる


「知らんな」


拳撃は波斗の頬を打ち貫く

弾き飛ばされた波斗はガラスの壁に激突し、巨大な亀裂を生む

彼が吐き出した血は憑神に紅き雨となって降り注ぐ


「さぁ、残るは羽虫共か」

「貴様等も同じく地に伏すが良い」


その狂気を歩め、憑神は高層ビルへと接近していく

身構えた雨雲達だが、その実力差は明らかだった


「行かせないよ」


憑神の紅き眼に映る白銀

まるで雪のような肌を見て、彼は静かに吐息を漏らす


「ここに居たか……、我が半身よ」

「核、という入れ物に収まっていたか?」


「君のような紅き者の半身だと認めたくはないね」

「さぁ、共に滅ぼう、憑神よ」


「何?」


「私達は存在してはいけないんだ」

「それこそ、世界の歪みだよ」


「我を道連れにする気か、半身よ」


「そうだ」

「今……、歪みを正すとしようか」



読んでいただきありがとうございました

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