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秋鋼  作者: MTL2
467/600

元No,6

秋葉原


「んっ……」


「どうしたの?楓ちゃん」


「寒い……」


「ちょっと濡れちゃったネ」


楓の髪先から滴る水滴をソウはタオルで服で拭う

彼女は小さく言葉を漏らしながら頭を揺らす


「何?そのタオル……」


「先刻、お店で買ったヨ」

「日本は質が良いからタオルもクオリティが高いネ」

「はい、城ヶ根モ」


「……萌え×2☆LOVE☆ニャン×2娘のメイド喫茶?」

「萌え系って奴かな……」

「……秋葉原だから当然か」


タオルを持って項垂れる城ヶ根の隣で、ソウは楓の頭を拭いている

端から見れば仲の良い友人とその妹か、兄弟か

それは和やかな微笑ましい光景である


「でもなァ」

「秋葉原ってのは、コスプレが流行ってるのカ?」


彼等を囲む幾千の銃口が無ければ、だが


「あれはコスプレじゃなくて軍兵じゃないかな」


「あ、そうなノ?」


「どう見てもそうだと思う」


「そ、それ所じゃないと思いますけど……」


彼等を中心に円形が組まれ、完全に逃げ道は無い

軍兵達がトリガーを引けば彼等は蜂の巣となるだろう


「それ所だヨ?」

「奴等の相手は悪すぎだからネ」


しかし、元No,6であるソウの前には羽虫に同じ

それは軍兵にとっても周知の事である

彼等の銃口は微かながらも、恐怖に揺れている


「下がれば見逃すヨ?」


殺意の込められた言葉は軍兵達の恐怖心に拍車を掛ける

呻くような恐怖の声が彼等から漏れ始めるが、それでも撤退する事はない


「命は幾つも無いネ」

「きちんと考えて行動すべきだと思うけド」


「……我、々は」

「我々は!!」


声を張り上げた軍兵の一人は前へと歩み出る

恐怖に拳を振るわせながらも、それを払拭するように強く叫ぶ


「軍という正義の集団に属し!人々を恐怖に陥れる貴様等を排除する為にここに居る!!」

「幾万もの無念の内に散っていった仲間の魂の恨み!晴らさせて貰うぞ!!」


彼の叫びに同調する様に、他の軍兵達も前へ歩み出る

それによってソウ達への距離が狭まり、円はさらに小さくなって彼等に迫る


「どうやら、あの化け物は俺達のせいにされてるみたいだナ」


「そうみたいだね」


「……仕方無イ」

「城ヶ根、この子を護れるカ?」


「無理だと思うよー」

「俺は人工能力装置持ってないし」


「夜斬は持ってるのニ?」


「んー、まぁね」

「俺はそういうの嫌いでさ」

「夜斬が、あの能力のを持ったのは運命か因果か……」


「喋るなッッッ!!」


軍兵の叫びが城ヶ根の言葉を掻き消す

黒い銃口が円を成し、再びソウ達に向けられる


「馬鹿だネ」

「それで良いのかナ?」


ソウは楓と城ヶ根から一歩、二歩と離れ始める

数十歩ほど歩き、彼は両腕を広げ開く


水柱乱テクソ氷蒸シフォ


彼の言葉を合図に軍兵達の地面が隆起する

数カ所で同時に悲鳴が響き渡り、巨大な水柱が地面より吹き上がる


「何だ、これは……!!」


乱生乱立する水柱

それに呑まれた軍兵は一切の例外なく体中から水分を消失して枯渇する

そして、その水分を吸った水柱はさらに巨大化していく

叫喚と銃声が入り交じり円形を見だし軍兵は数を確実に減らしていく

それに反例するように無規則に生まれた水柱は数を増やして軍兵を飲み込んでいく


「水柱乱・氷蒸は触れた相手の体内水分を全て吸い尽くす技ヨ」

「貴様等の足下には一体、幾つの水道管が通ってるんだろうネ?」


「水道管だとッッ……!!」


「俺の能力は水の状態変化を操るこト」

「水素の高速変化により爆発を起こさせ水道管を破裂し、気化と実質化を切り替えて上昇させることも可能ダ」


ソウは懐から小さな水筒を取り出し、口へと運ぶ

一気に水筒の中身を飲み干して口元を拭う


「さて、どうすル?」

「このままじゃ全滅だネ」


「そ、総員発砲用意ッッッ!!」


掲げられた司令官の手に反応し、軍兵達は銃を構える

水柱を避けて疾走し、ソウへと銃口を突き付ける


「甘いネ」


軍兵達の視界を断絶する氷壁

水柱は状態変化を起こし、その姿を太陽光に反射する氷柱へと変化したのだ


「氷壁ッ……!?」


「俺がNo,6に抜擢された理由」

「それは俺が水のある場所なら属性系統能力者最強だからダ」


幾百もの水柱が氷柱へと変化していく

恐怖と困惑に引きつった軍兵達の顔はやがて怯声を漏らし始める


「情けないネ」

「人を殺す道具を持ち、己を守る防具を身につけテ」

「警告を前に虚勢を張り立ち向かウ」

「その結果がこれダ」

「笑わせるなよ、雑魚共ガ」


ソウは指が成り、それを合図に氷壁は水蒸気となって全て消え失せる

恐怖と困惑を顔に残したまま、軍兵達は呆気に取られている


「だが、俺も軍に居た身」

「貴様等を無闇に殺すのは好めないんダ」


「見逃すと言うのか……、我々を」


「ここで死ぬのがお望みカ?」


「……ッ」


「軍兵、貴様等の役目は何ダ?」

「無駄死にか、それとも民衆の守護カ?」

「我々を悪とするならば無闇に挑むのが正義ではなイ」

「己等の力量を弁えて民衆を守護せヨ」

「貴様等は剣では無イ」

「盾ダ」


「盾……」


「そうダ」

「盾は人を守るためにあル」

「まぁ……、用無しとなった盾は砕かれるけどネ」


軍兵達の頭上に現れる巨大な氷塊

それは彼等を虫けらのように影で覆う


「え?」


「傭兵が仲間を、人を殺すのに躊躇するわけないだろウ」


暗悪なる笑みを浮かべ、ソウは手を払う

それと同時に浮遊する氷塊は重力を思い出したかのように落下を始める


「貴様ぁあああああああ!騙したのかぁあああああああああああッッッ!!!」


軍兵の怒号にもソウは表情を歪めることなく平然に保つ

呆れた様に首を振って、そして小さく言葉を吐く


「人殺しに何を言っていル?」


「この悪ーーーーーーーーッッ!!」


軍兵の怨恨が最後までソウに届くことはない

氷塊に押し潰され、血と臓物を撒き散らして死に絶えていく

ソウの冷悪な眼光に映ったのは周囲一面に広がった氷塊

そして、それに染みこむ紅色だった


「悪人も糞もあるかヨ」

「俺は傭兵、人殺シ」

「人を殺して金を貰ってNo,6になったんダ」

「お前等みたいに命令されて動き、嫌々人を殺すような甘ちゃんとは違ウ」

「迷い、戸惑い、困惑する貴様等とは違うんダ」

「己の目的と正義と信念を見つけられない奴が俺に勝てるはずがないだろウ」


服を正し、彼は水筒を取り出す

中から水温の漏れるそれを口に含み、喉へと流し込む

口元から顎へ垂れた紅い液体を拭い取り、彼は空になった水筒を懐に仕舞う


「お疲れ様ぁー」


「あぁ、城ヶ根」

「楓ちゃんの目と耳を防いでてくれたカ?」


「勿論」


「ん、助かるヨ」


軽く言葉を交わし、ソウは城ヶ根へと近付いていく

城ヶ根の膝上には彼の両手で目と耳を閉ざされた楓が屈託のない純粋な表情で座っていた


「それにしても凄いねぇ」

「流石は元No,6?」


「何で疑問系なんダ」


「始めにさ、随分と逃げるよう指示してたよね」

「あの時、彼等が逃げたら……、どうするつもりだったの?」


「……さぁ、どうだろうネ」

「所詮は過ぎた事ダ」


「それなら良いけど」


軽快な声をあげて、城ヶ根は小さく息を吐く

彼の手で目と耳を防がれた楓はそれと共に小さく揺れる


「あ、ごめんね!楓ちゃん」

「忘れてた」


「あの、何がどうなって……」


「ちょっとした茶番劇ヨ」


「茶番劇、ですか……?」


「そう、茶番劇ネ」

「本当に下らない……」


ソウは手を振り払い、能力を解除する

軍兵を押し潰していた氷壁は消え失せ、同時に彼等の死体も全ての水分を吸収されて塵となる

ただ残ったのは地面の岩壁と静寂の空気

三人は何もない、空虚な世界に佇む


「これは小さな茶番劇」



読んでいただきありがとうございました

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