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秋鋼  作者: MTL2
466/600

集合場所へ


パーキングエリア


「……撤退、していく」


森草の言葉通り、白く埋め尽くされていた空は青色を取り戻し始める

緑色に刀身を染めた雨雲と全身に緑を飛び散らせた森草は深く息を吐いて武器を納める

彼等の周囲に散らばったのは全身を分断された堕天使の死骸と臓物を撒き散らした人の遺体


「どうして……」


「解らない」

「だが、有り難い事だけは確かだ」


「そう……、ですね」

「あの、避難してる人達は……」


「そのままにしておけ」

「今の彼等からすれば、俺達も化け物だ」


酷く複雑な表情で雨雲は歩み出す

彼の背中を森草は言葉を失い、悲しそうに目を伏せる


「行こう、森草」

「堕天使の撤退は意味があってこそのはずだ」

「恐らく……、準備だろう」


「準備……、ですか」


「軍は迎撃戦法を取るはずだ」

「己の根城に踏み込まれる方が遙かに有利だからな」


「じゃぁ……、撤退していったのは」


「奴等も本腰で来るつもりだろう」

「過去最大級の脅威を排除するために」


「……どうしますか?」


「集合場所に向かおう」

「他の連中も気付いているはずだ」


「は、はい」



海岸線


「どうだ?だゼ」


「どうもこうも無い」

「これは……、人間ではないな」


橋唐は流れ着いた堕天使の死骸を持ち上げる

それからは緑色の体液と海水が溢れ出し、砂浜に水溜まりを作り出す

彼とラグドは互いに顔を見合わせてから堕天使へと視線を戻す


「堕天使」


「一緒に媒体液に浸かった仲間だゼ!」


「貴様と共に浸かっていたのは試験体だろうが」

「本来は人工自立型兵器の原型だったはず」

「それが自立型操作系兵器とは」

「正に傀儡とでも言うべきか」


「兵器は元より傀儡だゼ?」

「そうだろ?元、元老院直属部隊副隊長」


「……俺も兵器だった、と」

「そう言いたいのか?」


「何が違うか聞きたい所なんだゼ」


「否定はしない、が」

「良い気分はしないな」


「そりゃそうだろうだゼ~~」

「……しかし、こいつが出てきたって事は」


「随分と厄介な話だという事だろう」

「軍の兵力は有限から無限へと変わったのだからな」


「幾ら羽虫が集まろうとも人様にゃー、勝てないんだゼ」


「さて、どうだろうな」

「羽虫の後ろには悪魔と使い魔共だ」

「決して一筋縄ではない」


「縄で済めば上等」

「地獄の鎖が待ち構えて居るぞ」


「……なるほど、なるほど」

「決戦か……、だゼ」


堕天使の死骸を海中へと放り込み、橋唐とラグドは海に背を向ける

小さな水柱と共に化け物の遺体は深く暗い海底へと沈み行く


「雅堂と奴等を置いてきて良かったと思うか?だゼ」


「俺達は所詮高々、奴等からすれば足手まといだ」

「不死でないからこそ足手まといであり」

「不死だからこそ奴等は脅威となる」


「……だが、それは相手が生物であればの話だろ?だゼ」


「そう、だからこそ我々が居る」

「不死でないからこそ脅威となり」

「不死だからこそ奴等は足手まといとなる」


「真逆だな、だゼ」


「如何なる神話でも神々と悪魔を殺してきたのは人間だ」

「見せてやれ、という事だろう」

「生物の意地を……、な」



列車上部


「……屋根の上て」


「無賃乗車だからな!!」


「…隠れていることがバレる」

「…静かにしろ」


列車の屋根にへばり付いた響、鎖基、シーサー

豪風に全身を引っ張られながらもその握力で屋根の突起を掌握している


「何で切符ぐらい……」


「…買えば経歴が残る」

「…監視カメラにも映り込む」

「…行動を追跡されては面倒だ」


「だが!駅の前には我々の指名手配所が貼られていたぞ!!」

「既に追跡されているのではないか!!」


「鎖基の言う通りやな」

「周囲には無数の目がある」

「それこそ一般人のな」


「…恐らく、指名手配が作られて数日」

「…それが日本全土に配られるに同じく数日」

「…そして、人々の間に広まるには数週間」

「…充分な時間になる」


「充分な、か」

「確かに一々警察署まで行って指名手配書を見る奴は居らんわなぁ」


「…そういう事だ」

「…このまま集合場所に行くぞ」


「これで集合場所に行けるのか!?」


「…乗り継ぎはするがな」

「…あそこは充分すぎる程に通行手段が溢れている」

「…日本一の電子街、秋葉原にはな」



秋葉原


「いっちばーん!的なぁ!!」


市街地交差点のど真ん中で西締は両手を掲げ叫ぶ

隣で呆れ顔をした夜斬とソルナは周囲を見回している


「……西締、あまり目立ってくれるな」

「ここにも軍兵の情報網はある」


振り返った夜斬の視界に西締は居ない


「んー!メイド喫茶-!!」

「メイドちゃんにゃんにゃぁーーーーんっっ!!」


映ったのはメイドに飛びつき服を脱がそうとしている変質者だけだった


「……おい、ジェームズ」

「コイツを止めろ」


「命令するな、まさし君」


「あ?」


「何だ?」


「はいはい!喧嘩しないのー!的な!!」


メイド服を着た猫耳の変質者

……基、西締は萌えを媚びるような猫ポーズと共に二人の間に割って入る


「にゃんにゃん!」


「「……」」


「…さて、だ」

「集合場所は何処だったか」


「あのビルだろう」


夜斬の指さす先には高く聳える建造物

全面に施されたガラス壁は太陽光を反射し、さながら光の塔と名称できるほどに輝いている


「……ふむ、急ごう」

「ここに居ても良い事はない」


「あぁ」


「無視ぃ!?的なぁ!!」


「さ、行こうか」


「そうだな」



高層ビル


外と打って変わって薄暗いビル内

燦々と輝く外面とは正反対に、内面部はまるで廃墟が如く荒廃している


「人の気配はないな」

「無人か」


「その様だが」


「にゃんにゃん……」


「貴様は少し黙れ」


太陽光だけが差し込む廃墟の中に足を踏み入れたソルナ、夜斬、西締

ビル内部には爆発痕や銃弾痕、さらには車が突っ込んだかのようなタイヤ痕まである

夜斬は瓦礫を蹴り飛ばして他二人よりも早く奥へと進んでいく


「夜斬、先走るな」

「何があるか解らない」


「解っている」

「ソウが集合場所として指定した場所だ」

「危険性はないとは思うが、一応は警戒を……」


「警戒、ですか」

「それをするならば、もっと周囲に目を向ける事です」


夜斬の側頭部に突き付けられた銃口

暗い闇に溶け込むかのように、その銃を持つ腕は影から伸びている


「周囲に目を向けているからこそ、解っていた」


影から伸びる腕の主に突き付けられた刃

夜斬より放たれる殺気から、それが脅しなどではない事が充分に解る


「銃を下ろせ」

「俺達は敵じゃない」


「……味方でも、ありませんがね」


その男は腕を降ろし銃を懐へと仕舞う

暗闇から踏み出てきた男は酷く悲しそうな顔で目を伏せている


「どうしてここに居る?」


「呼ばれたんですよ」

「だから、私は来たんです」


「まさか、貴様が居るとは思わなかった」


夜斬も小刀を鞘に仕舞い、男へと歩み寄る

男はその顔を太陽に照らす


「敵でも味方でもないというのは、どういう事だ?」


「そのままです」

「私は……、貴方達に味方できない」

「しかし、敵対もしない」


「随分と優柔不断な事だな」

「そうだろう?奇怪神 怪異」


読んでいただきありがとうございました

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