裏からの脅威
小さな駅前
「…解らないな」
自販機で購入した飲料水を飲みながら、シーサーは疑問を述べる
財布を漁る響はその行為を中止して彼を見る
「何がや?」
「…どうして情報を閉ざす?」
「…軍は何を考えている?」
「情報?」
「……あぁ、瀬戸内海峡のやな」
「…そうだ」
「…何故、軍はあの情報を閉ざす?」
「さぁ、解らんな」
「そもそもアレはワイ等がやった事やないし」
「軍のやった事やろ」
「…犠牲者は現在、一般市民と軍兵だ」
足下に置かれた無線機に足を置いて前後に揺らし、シーサーは手を頬につく
言葉を止めた彼を確認して響は再び財布を漁り出す
一円玉を取り出しては戻し、十円玉を取り出しては掌へ納めていく
「百円玉ぁーー……は、っと」
「おぉ、あったあった」
「ぬぉおおおおおおおおおおおおおお!同時2連押しぃいいいいいいいい!!!」
自動販売機のボタンを2つ同時に押しまくる鎖基を蹴り飛ばし、響は小銭を投入する
炭酸ジュースを購入して彼は取り出し口からそれを取り出す
二、三回の前方回転の後、鎖基はゴミ箱に衝突してゴミをブチ撒ける
「一般市民と軍兵、か」
「第三勢力かいな?」
「…それは無いだろう」
「…起こしうる危因がないし、今になって行動するとも考えられない」
「ほうやなぁ」
「ほな、軍か?」
「…この無線機からの声を聞く限り、軍兵は知らされていない様だが?」
「上の独断やろ」
「…その上とやらは」
「…神無か?」
「普通に考えたら、ほうやろ」
炭酸の抜ける音と共にプルタブを引っ張り上げ、響は炭酸ジュースを口へと運ぶ
気泡が弾け刺激的な味が彼の口内に広がっていく
「…だが、奴は軍兵を捨てるような人間ではない」
「…軍内部も一枚岩ではない、という事か?」
「それは無いんちゃうか?」
「一枚岩にするために元老院を粛正して併合し、秋鋼の連中や俺等を叩き出したんやからな」
「尤も、お前等は自分から出たんやろうけどなぁ」
「……関係ないだろう、それは」
「…だが、一枚岩ではなければ誰がアレを?」
「軍内部でワイ等側で権力持っとるんは数が知れとる」
「院長も消されたしなぁ」
「…だろうな」
「…他の連中は恐らくマークを受けているだろう」
「…充分、自由に動ける人間はもう居ないと考えた方が良い」
「ふぅーん……」
一気に炭酸ジュースを飲み干して、響は容器を握りつぶす
数秒後に気泡が食道を逆流して咽せ返るが、それでも握りつぶした容器をゴミ箱へと放り投げる
カコーンッ
容器は空洞に当たったような音を立てて自販機の前に転がって行く
当たったのは鎖基の頭だが、空洞という点では間違っていないだろう
「すまん」
「痛いではないか!!」
「ほなけぇ、すまんって」
軽い口調を連ねながら響は自動販売機前に転がった容器をゴミ箱に投げ込む
立ち上がった鎖基の顔面に衝突し、それは再び彼の足下へ戻って来る事となったが
「おどれいい加減にせぇやゴラァアアアアアアアアアア!!!」
「それはこっちの台詞だぁあああああああああああああ!!!」
二人は突掴み合い、喧嘩を始める
無線機を砕いたシーサーは疲労を吐き出すように深い深いため息をついていた
パーキングエリア
「酷い……、な」
雨雲は深く肩で息をする
彼の視界に広がる風景は地獄絵図と言うに相応しい物だった
食い散らかされた肉塊と赤色の血
そして一刀両断されて緑色の体液と内臓をさらけ出した堕天使共
赤と緑が混ざり合ったその光景は雨雲に嗚咽感をもたらす
「っ……」
雨雲の刀から滴り落ちる緑色の血液
それを振り払って、彼は表情を歪める
「雨雲さん……」
「……森草、か」
バリケードの端を除けて、周囲を確認しながら出てくる森草
彼女の手には黒い銃が握られている
「周囲の奴等は斬り捨てた」
「が、まだ注意は怠るな」
「……はい」
「それにしても……、酷い、ですね」
「……戦場の兵は死を覚悟している」
「死ぬ為に、生きるために、或いは殺し殺される為に戦場に来る」
「しかし彼等はどうだ」
「死など考えても居なかったのだろう」
「ただ、家族や友人と楽しい一時を過ごしたかっただけなのだろう」
雨雲は子供を抱きかかえた女性の遺体へ歩み寄り、恐怖に見開かれた眼に掌を翳す
彼の掌が退けられた後、女性の瞳は安らかに閉じられていた
「それを変えてしまった」
「この残酷な悪魔共は変えてしまったのだ」
「……軍の、やった事でしょうか?」
「解らない」
「軍は人を救うためにあるはずだ」
「表社会への関与は極力避け、自らが裏に徹することで秩序を守ってきた」
「でも、それは布瀬川総督の時じゃ……」
「いいや、今までの総督もそうだった」
「裏社会や内部を汚そうとも表を汚すことなどなかった」
「唯一の例外を除いて」
「……能力者狩り」
「そうだ」
銃を仕舞い、彼女は顔を伏せる
苦々しく表情を歪めた森草は躊躇いながらも雨雲に問いを投げかける
「あれが行われたのは神無総督の時でしたよね……」
「それじゃぁ……」
「いいや、アレを命じたのは元老院だったそうだ」
「強制的に行われたそうだな」
「しかし、今となってはその元老院も無い」
「今になって思えば……、あの時も奴の自作自演だったのかも知れない」
「どうして……、そんなこと……」
「……奴は研究者だ」
「そして憑神を生み出した」
「祭峰の話では奴は元々は創世計画に関わっただけの研究者だったらしい」
「では、どうして今……、奴が創世計画の次計画とも呼べる今回の出来事に関わっている?」
「創世計画もあの人が立案した……、とか」
「いいや、それは無いだろうな」
「創世計画は何百年と続いていた計画だ」
「奴は受継しただけに過ぎないだろう」
「……計画を、乗っ取った?」
「そうだろうな」
「元老院という計画の根本と支配者を潰して計画を乗っ取ったんだろう」
「奴は取り憑かれたのかも知れないな」
「悪魔という、欲望に」
「そんな物の為に……、こんな……」
「狂気の沙汰だ」
「あまりに……、酷い」
刀を鞘に収めて雨雲は周囲を見回す
赤と緑と人と怪物と
この世の物ならざらぬ光景は脳裏に痕を残す
「……何人ほど、避難している」
「多分……、六十人ぐらいだと思います」
「そうか、解った」
「すまないな、急に頼んで」
「いえ……、私も動揺してたし」
「あの時、雨雲さんが助けてくれなかったら今頃……」
途中まで言いかけて森草は言葉を詰まらせる
恐怖に怯えるように片手で肩を押さえ、身震いする
「……取り敢えず、周囲を警戒するとしよう」
「集合には遅れるだろうが、仕方あるまい」
「そ、そうですね……」
雨雲と森草は周囲を見回して、堕天使の残党が居ないかどうか確認を行う
周囲に危険と堕天使が居ない事を確認して、再び二人は元の場所へと戻って来る
「こっちは大丈夫です」
「あぁ、こちらもだ」
「あの、中に避難してる人達は……」
「そのままで良いだろう」
「今、外に出て騒がれても厄介だ」
「……解りました」
「しかし……、御伽噺の様な事になってしまったな」
「こんな事が起こり得てしまうのか」
「えぇ……、こんな……」
御伽噺
「え?」
「……どうした?」
昔々、5人の戦士が居ました
5人は世界を揺るがす悪魔を倒し、人々から神と崇められました
5人は五神と呼ばれ、五つの称号を王より賜りました
「私……、何処かで……」
5人は平和な世界で平和な生活を送っていました
しかし、悲劇は訪れます
ある男が死者を復活させようとしました
5人は止めようとしますが、逆に利用されてしまいました
「[御伽噺]……?」
ある男は彼等を利用して神様を呼びました
だけど、神様を呼ぶには依り代が必要でした
だから初めては失敗に終わってしまったとさ
「初めて……?」
「……まさか」
「あの……、御伽噺の時から……」
「創世計画は始まっていた……?」
「森草、どうした?」
「どうしたんだ?」
「雨雲さん……!私……!!」
「アメリカ支部で……!!」
彼女の声を掻き消すは狂気の叫び
「何だ!?」
空を見上げた雨雲の目に映ったのは羽虫が如く群れる堕天使共
彼の目に映る範囲全てにそれは現れている
「……話は後だ、森草」
「まずは奴等の相手をするぞ……!!」
「……っ、はい」
読んでいただきありがとうございました