列車逃避行
市街地
「……うぅ」
「おぉおう……、うぇえええ……」
「泣き止むのだ!響!!」
「ワイの愛車ぁ……」
「うぅ……、ロンドンから運んで来たんやでぇ……」
「ドンマイ!!」
「…そんな事はどうでも良い」
「…今は新しい移動手段が欲しい」
「そんな事やとぉ!?」
「ワイの!ワイの愛車がぁああ……」
「ドンマイ!!」
地面へと崩れ落ちる響と、その隣で「ドンマイ!!」を連呼する鎖基
彼等を見てシーサーは深くため息をつく
「…しかし、上手く追っ手を捲いたようだな」
「…他の所も逃げ切っていると良いが」
列車内
「一両列車とか本当にあるんだね的なぁ」
「良いではないか、閑静で」
「時間が時間だから、我々以外に客も居ない」
「これほど静かなのは……、ある意味では良い物だ」
「この様な恰好でなければな」
西締はグルグル丸眼鏡にセーラー服という田舎娘恰好
ソルナはサングラスにニット帽子、さらに「ろんどん。」と印刷されたTシャツジーパンというエセ外国人恰好
夜斬は目を隠すほど深く被ったつば帽子にマスク、そしてジャンパーと半ズボンという田舎少年恰好
変人集団である
「……逆に目立つだろう、これは」
「そうでもないよ?的な」
「どうせ四国だし」
「四国の人達に謝れ」
(分け方を間違えたかも知れんな……)
俯き、肩を落とす夜斬
西締とソルナの話し声以外、何の音もない車内
ただ列車の震動と線路と擦れ合う金属音が響き渡っている
「……このまま、終点までか」
「そうだね的なぁ」
「って言うか、こっちの地形情報は持ってないの?情報屋さん」
「地図を調べれば解るがな」
「隠密行動は貴様の方が長けているだろう」
「嬉しい評価的なぁ♪」
「しかし、ここからだろう」
「これで軍の追っ手から少しは逃げられる」
「だが、間違いなく四国全土は封鎖されるぞ」
「だろうね、的な」
「日が昇りきった頃までには、私達が山から脱した事がバレる」
「もしかしたら、もう……、的な」
「それはそれで好都合だがな」
「もしそうならば、今頃は血眼で探しているだろう」
「にゃははは~♪」
「その光景が目に浮かぶ的なぁ!」
陽気に足をバタつかせる西締
それを合図に仕方のように列車は速度を緩め始める
「そろそろの様だな」
「降りようか的な」
「あぁ」
終点駅
『終点ー、終点ー』
『お降りの際はぁー……』
アナウンスの流れる、ほぼ無人の簿駅
列車の扉が開くと共に、西締が飛び出る
その後からソルナ、夜斬と続いて駅へと降り立つ
「閑静だな」
「ノスタルジックー?」
「……何か違う」
「無駄話をしている暇は無いぞ」
「行こう」
「はいはーい」
「ちょっと」
「「「?」」」
機嫌良く歩もうとした西締の肩を掴む駅員
西締、ソルナ、夜斬は頭に疑問符を浮かべたような表情で彼を見る
「君達、何処から来たの」
「えっと、香川の駅から」
「従兄弟のジェームズが四国を見たいって言うので連れてきたんです的な」
西締はソルナを指さし、愛想良い笑みで駅員に答える
突然指さされたソルナは狼狽えながらも駅員に笑顔を向ける
「えーっと、じゃぁそっちの」
「……少年は?」
「彼は私の弟です的な」
「え、っと、まさし」
「まさしだ」
「ジェームズだ」
「そ、そう」
「君は?」
「……さちこ?」
「へぇ、さちこさん」
「こんな遅い時間に案内するの?」
「近くの宿は取っている」
「そこに向かう途中だったのだ」
「ふんふん、近くの宿ね」
「少し用件があってな」
「こんなに夜遅くになってしまったのだ」
「迷惑をかける」
「……ジェームズさん?」
「何だ」
「随分と日本語が流暢だね」
「ニホンゴワカリマセン」
「おい」
「はっはっは!まだジェームスは日本かぶれなんですよ的な!!」
「……何か、まさし君がジェームズさん蹴りまくってますけど」
「ロンドンコミュニケーションです的な」
「いや……、そんな無茶な」
「で?何の用件ですか?的な」
少し呆れながらも、駅員は懐を探って三枚の紙を取り出す
そこには笑顔の西締、無愛想なソルナ、少し粗い画像の夜斬が映っていた
「……これは?」
「指名手配犯ですよ」
「何でも国家機密を盗み出して香川の空港を爆破した極悪犯らしくて」
「全国に指名手配が……」
「へぇ、なるほどー」
愛想を振りまくように表情を崩さない西締だが、彼女の目は笑っていない
「で、私達がどうかしましたか?的な」
「あぁ、何処となく人相が似てたんだけどね」
「……ま、犯罪者には見えないし」
「どうも、ご協力ありがとうございました」
「いえいえ!それじゃー、さようなら的なぁ~~」
駅員と別れ、西締達は駅を後にする
駅が彼女等の視界から消えた頃、路地裏へと入っていく
建造物の路地裏
酒瓶が転がり、異臭を放つ路地裏
ゴミや雑誌などが無作為に乱落し、街の裏側とも言える光景だ
「……危なかったな」
「まさか、もう情報が回っていようとは」
「変装が功を制した」
「流石に一般人を殺すのは気が引ける」
「私のお陰的な!」
「あぁ、感謝している」
「しかし……、軍の手が早い」
「敵の強大さを再確認する必要がありそうだな」
「敵は正しく世界そのもの」
「油断してるとパクッといかれちゃうよ?的な」
「……その通りだな」
「だが、指名手配所まで作られたとなると移動が困難になる」
「こんな変装、いつまでもは持たない」
「こんな、とは何よ!?的なぁ!!」
「まさし君はお姉ちゃんにしたがいなさい!!」
「黙れ、さちこ姉さん」
「おい、争っている場合では」
「先刻は貴様が妙な事を言うから疑われたんだぞ?ジェームズ」
「いや、支部長が日本で困ったらそう言え、と……」
「……以後、その男の言葉は信じない方が良いと思うぞ」
「まぁまぁ、まさしもジェームズも喧嘩は」
「「黙れ、さちこ」」
「むぅ」
「……この不毛な争いは止めだ」
「それより、これからを話すべきだろう」
「はぁ、徹夜はお肌に悪い的なぁ」
「そうは言っても、ホテルなどろくに取れないぞ」
「下手をすれば囲まれる」
「ホテルなど必要ない」
「漫画喫茶だ」
「漫画喫茶?」
「監視カメラの無い所ならばな」
「個人情報も偽名で大丈夫だ」
「詳しいねぇ、的な」
「これでも情報屋なのでな」
「そういう所は時々使う」
「へぇー」
「偽名でも良いのかぁ的な」
「……さちこ、ジェームズ、まさし」
「よし!決」
「「却下だ」」
読んでいただきありがとうございました