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秋鋼  作者: MTL2
452/600

移動手段確保

橋下の屋台


「死ぬかと思ったな」


「死んでないから良いじゃん」


ゆらゆらと揺れる照明だけが屋台の灯りを担う

祭峰とバムトは店主の居ない屋台で酒を口へと運ぶ

彼等の前には空になったおでんの器と二本の空焼酎瓶があった


「強すぎる」

「余りに、だ」


「俺達にとっては尚更だろ」

「殺せるんだからな」

「ある意味じゃ響とかソウとかの方が良い勝負するかも」


「……情けない話だ」

「表面上は粋がっても、心底では怯えているのか」


「ま、そういう事でしょ」

「それに……、奴の脅威点はそこだけじゃない」


「そうだな」


屋台の上、鉄橋が崩壊する

瓦礫を砕き割って現れしは紅き眼

その手には電線の千切れた巨大な電柱が握られている


「しつこい!!」


「全くだ」


屋台から飛び退く二人

彼等が居た場所には深々と電柱が突き刺さり轟音と土煙をあげる


「蒼空とかと再会できると思う?」


「……出来れば良いが」


二人を追うように繰り出される紅眼の拳

左右後方に彼等は飛躍し、それぞれ回避する


「まずはコイツをどうにかすべきだろう」


「だなぁ」




廃ビル前


『警戒せよ、周囲に脱走の形跡有り』

『G班は南東に向かえ』

『紅眼は祭峰 悠拉、バムト・ボルデクスを追跡中』


「……だ、そうだ」

「どうする?」


「ど、どうする、って……」


血にまみれた無線機を持ち、雨雲はそこから発せられる音声に耳を傾ける

その隣では不安そうに森草が織鶴を支えて立って居る


「逃げるべき……、でしょうか」

「それも隠密に」


「だろうな」

「軍兵を殺して回っては逃げる方向を教えるようなものだ」


雨雲はその言葉と共に無線機を粉砕する

破片となったそれを見て森草は驚愕の声を漏らす


「この無線機にはGPS搭載の可能性もある」

「それに応答しなければ不自然だろう」


「な、なるほど……」


「しかし、夜斬の言っていた集合場所までは距離がある」

「公共機関の使用は避けたいのだがな」


「どうします?」

「バスやタクシーが使えないと、移動は……」


「……いや」

「良い方法がある」


「……?」



古びたマンション跡地


「あの、えっと……」

「本気ですか……?」


消失したマンションの残骸を踏みしめ、森草は疑問を雨雲に投げかける

彼等が居るのは駐輪場

衛星砲の射程部分から外れていたそこは辛うじて存在していた


「あぁ、操作方法なら粗方学んでいる」


雨雲が引きずり出してきたのは、響がロンドンで対ダボル戦に使用したバイク

修理されて、より趣味の悪い黒炎フォルムへと変貌している


「あのマンションは元々、響の所有する臨時秘密基地だったそうだ」

「そこに移動手段としてこれを持って来たらしい」


「キーは……」


「解除してある」

「乗れ」


「あ、あの」


「何だ?」


「事故……、とか」


「……行くぞ」


(ふ、不安……)




山沿いの道路


「あ、ワイのバイク!!」


「どうしたのだ!?響!!」


「ワイのバイクがぁー……、あー……」

「……乗り逃げや、乗り逃げ」


膝を折り、落ち葉に手を突く響

落胆のため息と共に肩を落とす


「む!?」


「…あれは雨雲か」

「…バイクなど、乗れたのだな」


「雨雲は一通りの乗り物は乗れるぞ!」

「ただし、免許は持っていないがな!!」


「無免許か……」


「…それよりも、我々も移動しなければならない」

「…日が開ける頃には軍兵が山に入ってくるぞ」


「どうしようかいなぁ」

「山越え……、やったら時間が掛かりすぎるし」

「ホンマに何か要るで、移動手段」


「……アレだな」


シーサーが指さした先にあるのは、軍兵の乗った装甲車

小さな鉄格子の窓からは数人の軍兵の顔が覗いてる


「奪うってか?」

「あんなモン、余計に目立つやろ」


「うむ!そうだな!!」


「…途中で乗り換えれば良い」

「…取り敢えず、この付近までの脱出に使う」


「なるほどなー」

「ほな……」


「やるか!!!」



山崖下の道路


「急げG班!!」

「奴等は手強いぞ!油断するな!!」


「「「了解!!」」」


軍兵達は俊敏に銃を構えて車内から出て行く

続々と数十人が装甲車より出た後、司令官らしき男が無線のスイッチを入れる


「こちらG班!逃走者及び裏切り者の始末を開始しまっ」


司令官の言葉が相手に届き切る事はない

彼の口から漏れていた言葉は宙を舞って地に落ちる

他の者も心臓に弾丸を受けたり拳によって内部を破壊されたりと息絶えていく


「ま、一般兵はこんなモンやろ」


響は両肩を慣らすように回して、首を回す

足下に転がる肉塊を蹴り除けて車の扉を開ける


「ほな乗っ取ろか」

「乗れ乗れ」


「うむ!!」


「…了解だ」


響が運転席に、鎖基が後部座席に乗車する

シーサーも乗ろうと足を掛けるが、騒ぐように音声を撒き散らす無線機に気付く


「……死は、当然の結果だ」


それを踏み潰し、彼は車へと乗り込んでいった




町外れの小道


「こっからどうすルー?」


「どうする、ってどうしよっかなぁ」


「どうするんですか……?」


薄暗い道を歩く三人

陽気に戦闘を歩くソウと、その後ろには城ヶ根

そして城ヶ根の背に隠れる楓


「移動手段が欲しいなぁ」

「どうしよ?」


「移動手段は要らないヨ」

「他の所は急いで確保してるだろうけどサ」


「い、要らないんですか?」


「要らないヨ」

「日本諸島が島国で良かっタ」

「水に囲まれてるからネ」


「水?」


「そう、水」


その言葉と同時に、ソウの頭部を弾丸が貫通する

血飛沫が城ヶ根の服に飛び散り、楓の悲鳴が響き渡る


「は、ははははははは!やったぁ!!」


歓喜の声を挙げる軍兵

彼に続いて数十名の軍兵が影より姿を現す


「元No,6を殺した!!」

「一人は上級犯罪者!!もう一人は非戦闘員だ!!」

「殺せッッッ!!」


薄暗い道と同じ色の銃口が城ヶ根達に向けられる

城ヶ根は声を出す暇もなく銃を構えるが、一人では数十人より放たれる弾丸を防ぐことはできない


「っ……!!」


この子だけでも逃がす?

無理だ、この人数じゃ俺諸共撃ち殺される

第一、頼りになるはずのソウが撃ち殺されたんじゃ……!!


「不意打ちは嫌いじゃないヨ」

「でも、殺る相手が悪かったネ」


風船が弾けたかのような音

パンッ、と短く鳴ったその音に反応して軍兵の視線がそちらに向く


「う」

「あぁあああああああああああああああっっっっっっ!!!!」


弾けた、と言えば語弊だろう

軍兵の男の腕は、枯れていたのだ

砂漠の木々が如く皮膚、血管、骨、筋肉を残して

その腕は枯れ落ちたのだ


「誰を撃ったつもりだっタ?」

「一般人?能力犯罪者?裏切り者?」

「勘違いしてるネ」

「貴様等が相手取ってるのは軍最強能力者集団元No,6」

「ソウ・テイルだゾ?」


悲鳴すらも、許されない

声を出すべき喉は全ての水を失いて枯れ果てる

元No,6の男が乱舞したその場に残ったのは

ただ、塵が如き屍だけだった


「はい、終わりネ」


「さ、流石だねぇ、ソウ」

「強い……」


「こんな物ヨー♪」

「じゃ、行こうカ」


「……」


「どうしたカ?枯木」


「う……」

「うわぁあああああああああああああああんんっっっっ!!!」


「ええええええええええええエ!?」


「な、泣っっ!?」


「ちょ、どうすんノ!?情報屋!!」


「いやいや!知らないよ!!」

「な、泣き止んで!楓ちゃん!?」


「うわぁあああああああん!!わぁああああああああ!!」


「何で知らないんだヨ!情報屋だろウ!?」


「専門外です!!」


薄暗い道で、慌てる男二人

泣き叫ぶ少女の大声は日が変わるまで周囲に響き渡っていた




高速道路


「そう言えば、だが」

「楓は人の[死]に対して態勢がない」

「果たしてソウと城ヶ根は大丈夫だろうか」


「まままままっまま!前見てくださぁああああああああああーーーい!!!」


「む?」


その日、高速道路で一つの事故があった

奇跡的に怪我人こそ出なかったが、トラックに衝突したバイクは木っ端微塵に破壊されていたという



装甲車内


「……?」


「どうしたのだ!?響!!」


「いや……、何か知らんけど」

「ワイの愛車の叫びを聞いたような……」


彼が自分の愛車が破壊された事を知るのは、後日、電気屋の街頭放送からであった



読んでいただきありがとうございました

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