表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋鋼  作者: MTL2
451/600

それぞれの別行動

夢の中


「……何回目だ」

「もう、数えるのが面倒になってきた」


「そう言わないでおくれよ」

「彼も中々良い回避をする」

「牢獄で学ぶこともあったようだね」


「……奴は、能力を使いこなしていると思うか?」

「未だに地面の突起や落とし穴を生む程度しかして来ない」


「それでも構造は複雑だけれど」


異界が如く、白世界は混沌の造形へと変貌していた

渦巻いたドリル状の地面、深淵の如き穴

恐らく、人間が想像すらし得ないであろう世界が眼前には広がっていた


「再生時間を早めてくれ」

「早く、コイツに能力を使いこなして貰わなければならない」


「良いのかい?君だってキツいだろう」


「所詮は夢の中だ」

「腕の一本や二本、くれてやる」


元No,1は、足下に転がった腕を蹴り上げる

頭蓋骨を潰されて頸動脈を伸ばす波斗の元へ、彼の腕は転がって行く


「予想通り、と言いたいが」

「予想以上だ」


「夢世界の補正もあるからね」

「君の力を退ける、陽の光も働いているんだろう」


「防衛本能が居なくなったんだ」

「それに変わり得る防衛手段を自動的に取っただけだろう」


「防衛手段、ね」

「彼自身が理解していなければ取るはずの無い手段だよ、それは」


「理解しているんだろう」

「あの時のような弱い心ではない様だ」


「良かったじゃないか」

「彼自身も成長しているという事だ」

「心も、体も」


「人にとっては進化でも、我々にとっては退化となりかねない」

「俺達は、人じゃない」


「化け物」

「確かにそうだね、私達は化け物だ」

「[偽物の]」


付け加えられた言葉に、元No,1は不快さを露わにする

雪肌の女性は冷たく笑み、目を伏せる


「だけど、私達は人の形を成して生きている」

「人のように」


「それこそ[偽物]だろう」


再生し始めた波斗を確認し、彼は立ち上がる

己の掌を唸らせて背筋を伸ばしきる


「加減、しない?」


「するはずがない」

「俺がコイツに加減しても、紅眼や憑神は加減しない」


「その通りだね」


己の血を掻き分けて波斗は立ち上がる

必死に歯を食い縛り、鋭い眼光で元No,1を睨み付けながら

立ち上がった波斗は唸るような叫びと共に彼に飛びかかる


「空間の拒絶」


握りしめた拳は空を切る

波斗の目映ったのは微笑む雪肌の女

呆然とした彼の背後より、殺気が放たれる


「引力方向の拒絶」


元No,1の掌が波斗の背筋に触れる

その瞬間、波斗の臓物が回転し血が逆流する

視界すらもが回転して彼の体の自由は奪われる


「がっ………!?」


「弾けろ」


パチンッ、と指を鳴らした音

それと同時に体内の爆弾が炸裂したように波斗の四肢は弾け飛ぶ

全身に浅黒い血を浴びながらも元No,1は定位置に戻るように雪肌の女の元へと行く


「……現実時間と、こちらの時間は違う」

「とは言え、これでは何年あっても足りない」


「どうだろうね」

「彼みたいな人間は掴めば伸びるよ」

「それが難しいけれど、反して伸びしろは大きい」


「……それを願うがな」




小さな十字路


「脱出成功ネ」


周囲を見回すソウ

彼の後ろには森草達が周囲を警戒しながらも彼の後ろに着いて来ている


「あ、あの、ソウさん?」


「何カ?森草」


「どうして脱出できたんですか?」

「あんなに見張りが居たのに……」


「祭峰達が囮になってくれたからネ」

「そうね、それト……」


彼の言葉に乗るように、暗闇から人影が現れる

クォンとシーサー、そしてソルナが咄嗟に構えるが、ソウは彼等を制す


「コイツの協力があったから、かナ」


暗闇から踏み出てくる男

男は頭部に匣を被り、電子で笑顔の表情を表示している

そして、月光を背負って腕を高く掲げる


「皆のピンチにいざ推参!!」

「ヒーロー……」

「BOX!!見参ッッッッッッッ!!」


効果音と爆発背景が着いて来そうなポーズ

それにソウと西締と鎖基は拍手を送る


「むむ!?人数の割には拍手が少ないぞ!!」


「何だ、この鎖基二号は」


「ソルナ、思っとっても口に出したらアカン」


「…協力者というのはBOXの事か」


「正解ネ!シーサー」

「でも惜しいヨ」


BOXに続くように、暗闇から夜斬と城ヶ根が出てくる

彼等の後ろには徹夜続きのように全身から疲労感を漏らす霊魅も

疲れを吐き出すように息を漏らし、彼等は肩を鳴らす


「彼等に内部から情報を撹乱して道を開けて貰ったネ」


「なるほど~!的な」

「どうりで見なかったワケ的なぁ」


「ハッハッハ!ピンチになったらいつでも呼びたまえ!!」


「俺はもう行きたくないッス……」


「と、まぁ、まだ話していたいんだけどネ」

「そんな暇はないヨ」


「どういう事だ?」

「脱出は成功したのだから、今から移動するだけだろう」


雨雲の問いにソウは首を大きく振る

彼は皆の中心へと歩み寄って決心の眼光を向ける


「全員、分かれて貰うネ」


「どういう事だ?」


怪訝さを露わにし、ソルナはソウへ問う

ソウは夜斬へと目配りをし、彼は説明を始める


「この人数での移動は先件の二の舞だ」

「今からそれぞれ別れて行動して貰う」

「目的地集合だ」


「……一理ある、な」

「…どう分ける?」


「まず、俺、西締、ソルナ」

「次にソウ、枯木、城ヶ根」

「そしてクォン、BOX、霊魅、織鶴」

「さらにシーサー、鎖基、響」

「最後に雨雲と森草」

「以上だ」


「ストーーーーーーーーップ!!」


「……何か、文句があるのか?西締」


「雨雲or楓ちゃんor森草ちゃん!!」


「却下だ」


「えぇえええええええ!!!」


「分け方の基準を聞きたい物だな」


「単純に戦力と情報力だ」

「幾ら分かれて行動するとは言え、ある程度の情報は有して貰わなければ困る」


「戦力、か」

「言っておくが、俺は誰かを守るなど出来んぞ」

「愚弟子とは違うのでな」


クォンの視線は霊魅やBOXではなく、力無く項垂れる織鶴へと向けられる

夜斬は不快感を露わにして眉を顰め、彼の言葉に同調する


「解っている」

「不要ならば、捨てろ」


「……了解した」


森草は反論するため、言葉を発しようとする

しかし、彼女にそれは出来ない

五眼衆という組織に属していたからこそ、現状の織鶴を見ているからこそ

夜斬の選択は正しいと言わざるを得ないのを解っているからだ


「……っ」


「それでは全員、散開しろ」

「追っ手が来るのも時間の問題だ」


「集合場所は、どうするんや?」


「……集合場所は」




山下の道路


「……おいおい、勘弁してくれよ」


祭峰の額から頬、顎を伝って汗が大樹の葉に落ちる

彼の眼前に広がる光景は圧巻

燃炎の中に立つ紅眼は炎を振り払いて灰燼を踏み潰す


「バムト!無事かぁー!?」


「無事、とは言い難い」


炭木を蹴り除けてバムトは炎を掻き分ける

彼の姿はより禍々しく闇で覆われているが、それと同様に出血も目立っている


「いつまでも相手取る暇はない」

「こちらの命とて、無限ではないのでな」


紅眼は背後のバムトに注意を配りながらも祭峰に言葉を向ける

下卑た笑みを浮かべながらも、祭峰の額から溢れ出る冷や汗は止まらない


「決させて貰う」


紅眼は両腕を広げ、天を仰ぎ見る

彼の全身が紅黒く染まっていき、やがてその異形は姿を現す


「……マジかよ、おい」


祭峰の顔から笑みは消え去る

バムトは眼を見開き、その光景を網膜に焼き付ける


「防衛本能なんざ、甘いモンじゃねぇぞ……」


その姿は、完全なる殺戮の具現化

強いて言うなれば、獣が本来持つ本能

獲物を狩り、喰らう本能

殺戮の本能


「……いざ」


腰を低く落とし、紅眼は祭峰に照準を定める

鋭利なる紅爪を光らせて牙を剥き出す


「狩りを、始めよう」


祭峰の口端から笑みが漏れる

信じられない光景を見たかのような、笑みが


「バムトー」


「何だ」


「……逃げようぜ」


「……賛成だ」




読んでいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ