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秋鋼  作者: MTL2
444/600

とある孤児院


軍本部


30F大会議室


「戻ったでー」


大会議室の扉を押し、一斑は揚々と入室する

彼の後ろに着いたオシリスも彼が開けた扉の隙間から同じように部屋に足を踏み入れる

彼等の視界に入ったのは神無と、彼の隣に佇む隻眼

そして彼等の前に座すアテナだった


「おや、お帰りなさい二人とも」

「首尾はどうでしたか?」


「隻眼見つけた」

「って言うか、何で俺の後着けて来てんねん」


「君が不審な動きを見せたからでしょう」

「知ってるならば、そうと言ってくれれば良いのに」


「確証は無かったしなぁ」

「何や、告げ口したんはNo,2か?」


「えぇ、まぁ」


「真に申し訳ありません、神無総督」

「我々は隻眼を発見したにも関わらず……!!」


「良いのですよ、オシリスさん」

「隻眼に十三人目、さらには二人目と三人目」

「No,6直属部下までもが相手にいたのでは分が悪過ぎます」

「むしろ、生きて返ってきたことを称賛しても良いほどだ」


「……勿体なきお言葉」


「しかしなぁ、人選悪いんちゃう?」

「オシリスは隻眼に気ぃ取られるし卯琉は命令聞きゃせえへんし」

「もうちょいマシな奴寄越してぇや」


「申し訳ありませんね、一斑君」

「皆が出ていて人員が足らず……」

「とは言え、君も命令無視を侵した様ですが?」


笑顔で受け答える神無だが、彼からは確かに威圧感が放たれている

一斑は喉を詰まらせ後退ぐが、それに反対応するようにアテナが立ち上がる


「アテナさん、まだ話は……」


「…もう、言いたい事は解った」

「不快」


神無の制止を無視しアテナは退出していく

去り際にオシリスと肩が接触するが、それを気にも留めずに彼女は部屋を後にする

一斑は彼女へと向けていた視線を神無へと戻し、怪訝さを露わに首を傾げる


「何?説教でもしよったんか」


「いえ、そんな物ではないですよ」

「ただ紅眼の媒体となった彼、火星君でしたか」

「アテナさんが昔、火星君を仕事で仕留め損ねていたらしいのです」

「それで目の敵にしているらしく……」


「はぁー…、人間、何処で繋がっとるか解らんなぁ」

「ほなけど、あの人がほれで気ぃ崩すんかいな?」

「俺も知り合ってそこそこやけど、怨恨やらどうやらで気崩しする人違うやろ?」


「……それは」


「……オシリスもほうやなぁ」

「隻眼見て異常に態度変えたし」


一斑は横目でオシリスを確認する

冷静さを装っていても、やはり彼の目には黒い光が灯る

無言で立ち尽くす紅眼に目を向け、静かに神無は立ち上がる


「オシリスさん、席を外してください」

「一斑君と話を」


「……しかし」


「良いのです」

「彼には話しておくべきでしょう」


「……解りました」


オシリスは深く頭を下げ、扉に手をかける

一度、躊躇ったように動きを止めるが、それでも彼は扉を開いて退出する

彼の足音は重く深く地面を響かせ、遠ざかっていく

オシリスの後に続くように紅眼は立ち上がり、退出していく

一斑は彼を避け、その間から紅眼は扉へと向かう

迷うこと無く紅眼は部屋から退出し、足音と共に遠ざかっていく


「ほな、話して貰おうか」


たった、その数瞬ですら待ちわびたかのように一斑は神無へと視線を向ける

何処か複雑そうな神無は一斑に座るよう促し、自らも姿勢を正す


「何処から話せば良いのでしょうね」

「……そう、元を辿りましょうか」


卓上に指を打ち付け、神無は視線をそれへと向ける

音を鳴らしていた指が止まり、神無は唇を開き始める


「小さな孤児院がありました」

「そう、何人かの子供を世話するのがやっとの、小さな孤児院が」


「孤児院……?」

「ほれと隻眼、何の関係があるねん」


「まぁ、話は最後まで聞く物ですよ」

「その孤児院は私が育った場所でもあります」

「名を、責任者の名前に由来しまして」

「秋鋼孤児院……、と言いました」


「秋鋼?」


「えぇ、そうです」

「秋鋼孤児院はその昔、とある組織の寄付によって作られた物だと聞きました」

「それは軍の元となった物だとか、寄付者の名前から文字を取ったとか、何だとか」


「ほー、ほれで?」


「まぁ、あくまで噂話ですがね」

「その孤児院を私は卒業し、軍へと入りました」

「その後は関係無いので省きましょう」


「気になるトコやが、まぁしゃあないか」


一斑は態勢を軽く崩し、楽な姿勢へと移行する

神無はそれを見て微笑み、話を続ける


「その孤児院は私の後輩とも呼べる子供達が居ました」

「そう、それがアテナさんやオシリスさん達です」


「孤児院の子供?」

「……てっきり、特殊部隊出身か何かかと思うたんやが」


「元老院直属部隊には居ましたよ、そういう方も」

「しかし、彼等は老害共に毒されてしまった」

「残念ながら、彼等は粛正の対象となってしまいましてね」


「……ま、当然やな」

「で?孤児院出身の子供が総督直属部隊まで上り詰めた経緯が聞きたいんやけど」


「そうですね」

「彼等は本来、私のように正当に軍学校を卒業するか一般社会に生きていくはずだった」

「しかし……、事件は起きてしまった」


目を伏せ、彼は背を丸める

片手で髪を掻き上げて目頭を押さえ、深く息を吐く


「創世計画で暴走した実験体が……、彼等の孤児院を襲撃したのです」


髪を下ろし、表情を複雑に歪ませた彼から悲哀の声が漏れる

一斑は彼の声を眉一つ動かさずに聞き入る


「軍転覆事件、やな」


「……はい」

「酷い物だと、聞きました」

「彼等の他に居た子供達は皆……、無惨に虐殺されたと」

「アテナさん達は物陰に隠れやり過ごしました」

「軍も保護に駆けつけましたが、時は既に遅かった」

「元No,1が実験体の頭部を握りつぶし、子供達を保護していたのです」


「元No,1言うたら、ほの時は……」


「そうですね、子供達と変わらなかった」

「今、彼は見た目こそ少年の様ですが実質的に年齢は上でしょう」


「ほー、意外やな」


「ですが、それは逆に彼等に恐怖を植え付けてしまった」

「自分と変わらぬ見た目の子供が目の前で人を殺したのです」

「当然の様に四肢を折り、首をはね、頭を砕き」

「虐殺した」


「相当なトラウマ物やろうなぁ」

「殺しも裏社会も知らんような無垢な子供が血の海を見るなんざ」

「考えるだけで寒気がするで」


「……その事件から、彼等は地方の軍が経営する精神孤児院に移されました」

「しかし、すぐに戻ってきたのです」

「この街へ」


「復讐のために」


「……いえ、正しくは違うかも知れません」

「彼等は復讐の対象など居なかった」

「ただ、この惨劇の首謀者を殺し」

「その後の事を事前に防ぐために戻ってきた」


「力を欲し、闇に堕ちる為に」

「……の、間違いちゃう?」


「それは貴方もでしょう?」


神無の返しに、一斑は浅くため息をつく

掌を軽く振り払い、神無との話題を切る


「彼等は力を欲して、血を求めた」

「……しかし、適合したのは半分程度」

「他の人達は皆、死に絶えた」

「それでも彼等は力を求め続けました」


「それにアンタは答えたんか?」


「……答えた事を間違いとは思っていません」

「仲間が死に行こうとも、目の色すら変えなかった彼等は」

「ある意味では私より狂気的だった」


「狂気的、か」

「一つの目的の為に、人の気持ちも命も踏みにじって」

「自分の為だけに生きるような身勝手な奴等が」

「狂気的、か」


「……貴方からすれば、響 元導と重なりますか?」

「自分の目的の為に、貴方を捨てた彼と」

「自分の目的の為に、貴方の妹分とも呼べる少女を人質にとった彼を」


「さぁ、どうやろうな」

「俺は奴を敵として認識した」

「アンタも承知の上やろ?」

「俺がこの地位を、組織を自分の為に利用しよう事ぐらいは」


「えぇ、承知しています」

「だが、それは総督直属部隊にも言える事ですよ」

「彼等は……、何と言うか」

「心酔している」

「この状況に、組織に」

「目的を見失って、彼等は……」

「殺しを満喫している」


「それが何か、変な事かいな?」


「……私は人を殺した事がある」

「己の友を殺した事が」

「それは決して気の良い物ではなかった」

「しかし、それの原因は友だったから、でしょうか?」

「違うと私は思うのです」

「友では無く、人を殺したからではないのか、と」


「……初めて、アンタを情けないと思ったわ」

「今の今まで自分の命令で何人殺したよ?」

「それでいざ、自分で殺せば後悔か?」

「情けないのぅ」


「そう言われても仕方ありませんね」

「自分勝手な、酷く自分勝手な事だ」

「何と言われようとも私は反論することも反省する事も許されない」

「自分勝手な人間でしか、ないのでしょう」


「それは自己満足やな」

「自己解決で終わりなんざ、話にならん」

「結局、それで満足するんは自分だけや」

「周りの人間に見向きもせずに自分が満足すりゃ、はい終了か?」


「……耳が痛くなりますね」


自分を嘲笑うかのように神無は頬を緩ませて目を伏せる

手で前髪を払いのけて、視線を天井に送る


「どうやら……、狂者は私だったようだ」


「……力を求めるよりも」

「与える方が、よっぽど狂っとるわ」


一斑は立ち上がり、椅子を足で蹴って机の元へと戻す

乱雑な音を立てて椅子は元の場所へと戻し、脚を揺らす


「……ほな、用事はこれだけか?」


「えぇ、そうですね」

「彼等の居場所が解った以上、こちらから仕掛けた方が早そうだ」


神無は懐から黒い携帯を取り出して耳に当てる

暫くの待機音の後、電話口から女性の声が漏れる


「……はい、お願いします」


その一言を最後に、電話は閉じられる

怪訝そうに彼を見る一斑に、神無は静かに微笑みかけた



読んでいただきありがとうございました

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