表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋鋼  作者: MTL2
442/600

会議

部屋全体を照らすには、些か心許ない光が揺れる

夜斬、バムト、祭峰、響、雨雲の五人が円机を囲んで座し、それぞれに視線を向ける

その中で、机に置かれた冷水を揺らして身を乗り出す一人が居た


「…………あ゛?」


くっきりと夜斬の額に青筋が浮かぶ

今にも爆発しそうな怒りの渦を押さえ込み、彼は言葉を吐いていく


「ゼロが居ない……、だと?」


「いやぁー、予定が変わってさ」

「ゼロは今回の戦いに参加しないから」


気軽しく笑う祭峰と対するように夜斬の青筋は数を増す

その隣でバムトは頭に手を当てて深くため息をついている


「奴は主戦力中の主戦力……」

「それが解らん貴様でもあるまい……!?」


夜斬の言葉は尻上がりに鋭く、怒りを孕んでいく

それでも祭峰はへらへらとした表情を崩さない


「……祭峰」

「核はどうした」


「ん?あぁ」

「蒼空に会いに行ってるよ」


「……小僧に、か」


「ほれよりも、や」

「現状を教えてくれんか?夜斬」


机の冷水の入ったコップを持ち上げ、響は口へと運ぶ

彼の顎を水滴が伝い、無精髭を伝って膝元へと落ちていく

響の口からコップが離された頃に夜斬から答えが返ってくる


「現状としては核による蒼空の[壁]を取り除く作業をここで終え」

「軍本部に奇襲をかける……、はずだったんだが」

「主戦力2名が不在となれば、計画に変更が生じるだろうな」


「2名?ゼロだけ違うんか」


「織鶴だ」

「奴ならば、ここに来るまでにはマシになってると思ったんだがな」


「……あぁ、そういう事な」

「アイツはアカンわ」

「もう、アカン」


「……くそ、役に立たないな」

「仲間を一人、失ったぐらいで」


「そう言うな」

「愛する者を失った苦しみは大きい」


苦々しく言葉を吐いた雨雲に対し、夜斬は不快感を露わにした視線を向ける

雨雲は彼の視線に気付きそれに応える


「愛する者、とは笑わせてくれる」

「たかだが一人の人間だ」


「貴様も恩人を亡くしたそうだな」

「その時、何とも無かったわけではあるまい」


「……それは」


「不毛な言い争いしよう場合ちゃうやろ」

「ゼロが居らんようになった以上、新しい作戦を立てなアカン」


雨雲と夜斬の会話を遮って、響は話を進める

何かを言おうと夜斬は唇を開くが、それは何も吐き出さないまま閉じられる


「……作戦、か」

「こちらとしては元老院には戦力で遙かに劣る」

「このまま挑んでも敗北は目に見えているだろう?」


「だろうな」

「我々としても、どうにかしたい所だ」


「……さて、どうした物か」


「簡単な話じゃん」

「ゼロ抜きで作戦を進めれば良い」


祭峰は椅子に深く腰を沈め、笑いながら水を飲む

その瞬間、彼の握っていたコップが粉砕されて水を飛び散らせる


「いい加減にしろ、祭峰」

「遊びではないんだぞ」


「止めろ、夜斬」

「コイツはこういう性格だ」

「貴様、ゼロを止めなかったのも何か考えがあるんだろう?」


バムトの問いを無視して、祭峰は服を気にしている

その行為は夜斬の苛つきを加速させていく


「ん、まぁ」

「どうだかな」


「……貴様」


夜斬の苛つきが最高潮を迎え、彼は静かに立ち上がる

しかし、それを刀剣の鞘と拳が制す


「落ち着け」


「今ぁ暴れてどうすんねん」


鋭い眼光を受け、彼は静かに再び座す

それでも苛つきが消えたワケでは無い

それを抑えるかのように夜斬は水を喉へと流し込み、深く息を吐く

再び視線を前へと向けた彼の表情は冷静さを取り戻していた


「……話を戻す」

「現状としては、とても厳しい」

「織鶴の精神状態では戦力とならず、さらにゼロも不在」

「軍本部へと急襲をかけるのを大幅に遅らせる必要がある」

「だが、祭峰の言い分としては急襲はゼロ不在でも構わないという事だ」

「これはどういう事だ?」


「軍の戦力を整理してみろよ」

「まず、厄介なのがも総督直属部隊」

「シヴァ、オシリス、コヨーテ、アヌビス、アテナ、スキュラ、セクメト、アウロラ、防銛、雨雲 卯琉」

「コイツ等は戦闘力自体がNo相当」

「ま、俺でも囲まれればアウトだな」


「奴等を相手取る必要はない」

「最終目的は紅眼の始末と神無の抹殺だ」


「無理、だな」


重々しく、表情を曇らせたバムトは唇を開く

思考を巡らすように目を伏せ、顎に手を当てた彼は眉を顰める


「向こう側もそれは理解しているはずだ」

「紅眼を殺せるのは俺、祭峰、雅堂、蒼空だけ」

「戦闘力的に考えれば蒼空は除外だ」


「共同戦線は不可能か」


「足手まといだ」

「それに、紅眼だけに人員は割けない」

「他の者ならともかく、紅眼は他に居る」


「白面の殺戮者、やな」


「……そうだ」

「貴様の弟子、一斑 駁だ」


「心配せぇでも、アイツの始末はワイが付ける」

「ほの為に軍を裏切ったんやからな」


髪を掻き上げ、響は眼光を唸らせる

彼の目は微かに、しかし確実に紅を帯びていた


「ここに来るまでに、その小僧に襲撃を受けた」

「アレは相当の実力者だぞ」


「ほなけどガキや」

「仕置きが必要やなぁ」


「……では、白面の殺戮者は響に任せるとしよう」

「だが、残りに2名の隻眼は…」


バムトがそれを言い終わるよりも前に、祭峰は挙手する

にやりと頬をつり上げて、彼は唇を開く


「火星は俺が殺る」

「元々、俺の不敵際だし」


「大丈夫なのか」


「俺だし」


答えにならない答え

それでも、祭峰は自信満々にそれを口にする


「……解った」


言いしれぬ感覚を味わい、バムトはそれに賛同する

目の前の男は飄々と、遊々と

然れど、確実な強さを持っている

信用に足るのだ


「他のメンバーはどうする」


「卯琉は俺が行く」


刀の鞘を光らせ、雨雲は沈々たる声をあげる

彼の決め事に反論する者は居ない

全員が視線を交差させ、頷く


「因縁どうこうの話に口を出すつもりはない」

「だが、奴等がご丁寧に待ってくれているとも思えんな」


「待ってくれているさ」

「奴等は俺達と隻眼の生存を確認した」

「そして集合しているという事も」


「攻撃戦よりも迎撃戦の方が遙かに有利だ」

「俺達が攻め行くと解った以上、無駄な手出しはして来ないはず」


「いつまでも、とはいかないだろう?」


「奴等が完全なる紅眼を完成させる前に」

「いや、憑神を完成させる前に我々は仕掛けなければならない」


「……つまり、現状は」


「圧倒的に不利やな」


響の言葉を最後に彼等は水を打ったように静まりかえる

誰も言葉を発さず、卓上の水だけが水面を揺らす


「……そう言えば」

「祭峰の仲間は居なかった様だが」


「アロンとラグド、橋唐は周囲を警戒してるぜ」


「では、奇怪神はどうした?」


バムトの問いに祭峰と雨雲、そして響は言葉を詰まらせる

再び静寂が訪れ、彼等が言葉を発することはない


「……何があった」


「…奇怪神は」


苦々しく祭峰は口を開く

一度は言葉を止めるが、決心したかのようにそれを述べる


「今回、動かない」


「……何?」



読んでいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ