一年の間に
「……撤退、するぞ」
長き間、唖然としていた波斗達
彼等の硬直を解いたのは雅堂の一言だった
「森草の体力が限界に近い」
「これ以上は無理だ」
彼の肩を借り、森草は息を切らしている
青ざめた彼女を見て皆は視線を交差させる
「足を用意してある」
「こっちだ」
クォンに誘導され、彼等は空港の裏手へと移動していく
森草の能力が解除されて人々が再び空港前へと戻って来る
戦闘によって破壊された建造物などを見て騒ぎになる前に、波斗達はその場を後にした
空港裏
「乗れ」
誘導され、波斗達は車内へと乗り込む
明らかに人数は超過しているが今はそれ所ではない
「きゃっ!?」
「ご、ごめん!委員長!!」
まず森草が放り込まれ、波斗が放り込まれる
と、思いきや雅堂が二人の間に割って入る
呆気に取られた波斗の隣にシーサー、西締、バムトが乗り込み
助手席にはクォン、運転席には鉄珠が乗り込む
「……雅堂?何で私と蒼空の間に割って入るのよ」
「不純交際は認めんぞ」
「そう言うのじゃないわよ馬鹿ぁ!!!」
森草の怒号と共に車は発進し、門を突き破って車道へと出て行った
車道
「……で、だ」
「まぁ、ざっと説明するぞ」
車道を平均的な速度で走る車
車内にすし詰め状態になった彼等は鉄珠の言葉に耳を傾ける
「その前に、だ」
「失敗作……、どうして貴様が居る?」
バムトの言葉が鉄珠の話を遮り、発せられる
暫くの沈黙の後、鉄珠は重々しく唇を開く
「……俺が自ら来たんだ」
「この状況は俺のせいだから」
「…そうか」
「……話の腰を折ったな、続けてくれ」
「あぁ」
「まず、お前達が居なかった一年間にあった出来事を言っておきたい」
「秋鋼は実質的な解体だ」
「神無総督の策略に嵌められて火星は憑神に、彩愛は軍に」
「そして俺と織鶴はこちら側に」
「織鶴さんは無事なんですか?」
「……無事、とは言い難いな」
苦々しく表情を歪める鉄珠
怪訝な表情の波斗の視線は森草に移るが、彼女は首を振る
鉄珠は再び唇を開いて話し始める
「軍は元老院は併合されて、完全に軍は一枚岩になった」
「総督として神無が任命、Noは7から4まで減少した」
「No,4は昕霧、No,3は一斑、No,2は…、誰だかは解ってない」
「ただ、協力なのは確かだ」
「No,1は……?」
「…火星だ」
「秋鋼の火星 太陽か」
「どうやら、本当に隻眼になったらしいな」
「違う」
「……何?」
雅堂は眉を顰め、鉄珠の言葉に反応する
バムトも同じく彼の言葉に興味を抱いている
「紅眼だ」
「隻眼の上位種だよ」
「……確かに」
「俺やバムトは防衛本能時ではなければ紅眼にはならん」
「それは貴様も同じだろう」
「隻眼というのも貴様から付けられた名前だ」
「…あぁ」
「だが、紅眼とは何だ?」
「常に防衛本能時の様な状態という事か」
「そう、だろうな」
「そして憑神の力を備えてる」
「……遂にやりやがったか」
「…あぁ」
「…憑神の力、とは何だ?」
今まで口を閉ざしていたシーサーが静かに言葉を発する
信号で停車した車の中で、鉄珠はミラー越しに雅堂へと支線を送る
彼は静かに頷き、鉄珠の支線に答える
「命の創造」
「……ほう」
「…つまりは命を創り出せる、という事か」
「創世計画の意味も、これにある」
「命の創造、それこそが元老院の目的だろう」
「……元老院?」
「…神無、ではないのか?」
「それだ」
「俺も、バムトも、失敗作も」
「創られたのは神無の命令ではなく元老院の命令だったはずだ」
「…では何故、今、神無は元老院を滅ぼし」
「…自らが全ての黒幕となっている?」
「解らない」
「それが元々、昔からの奴の目的だったのか」
「欲望に取り憑かれたか」
「……ふむ」
車が再び発進し、車内は少し揺れる
誰かの嗚咽が聞こえた気がして波斗は周囲を見渡すが、誰も表情一つ変えていない
「…?」
「…どうした、蒼空」
「い、いえ……」
「…話がズレたな」
「…戻そうか」
「…この一年で、誰が死んだ?」
それは誰もが聞くべき問い
しかし、誰もが聞きたくない問いだった
「…布瀬川総督、院長、馬常」
「そしてソウの部下が大勢ってトコか」
「…ソウと言えば元No,6か」
「…確か、マフィアを配下に持っていたな」
「…何故、奴が我々に手を貸す?」
「…正義だ何だと、そういう物に動く人間ではないだろう」
「それはお前等も同じだろ」
「…さて、知らんな」
「まぁ、この事についてはコイツに話して貰った方が良いな」
鉄珠は片手で助手席に座るクォンの肩を叩く
しかし、彼の反応は無くただ虚ろな眼をしている
「……クォン?」
「……」
「どうした、おい」
「……れ」
「クォン!おい!?」
「止まれ……!!」
「どうした!!クォン!!!」
「止まおぼぇええええええええええええ」
「ぎゃぁあああああああああああああ!!!」
車は超回転を繰り返してガードレールに衝突
黒煙を上げて停車した
警察署前
「……あの」
「道路交通法違反」
「人数超過、不法入国者蔵匿」
「オマケに無免許運転」
「数え役万だ、素晴らしいな!」
額に青筋を浮かべる警官の前に座る波斗達
鉄珠と波斗と森草は視線を警官から逸らす
雅堂、バムト、シーサー、西締は興味なさそうに椅子に踏ん反り返っている
正しく常識人と非常識陣が別れた結果である
因みにクォンはトイレで未だに吐いている
「…いや、あのですね」
「連れが酔いやすい体質でして」
「道路交通法についての言い訳はあるんだな」
「人数超過に不法入国者蔵匿と無免許運転の言い訳も用意して貰おうか」
警官の青筋が増加する
鉄珠の言い訳創作スキルも女性相手でなければ意味がない
「……スイマセン」
「……ちょっと専門の人呼んでくるから」
「ここで待ってろよ」
「へーい」
「見張りの新人付けてとくから」
「この隙に逃亡とかさせんからな」
「………へーい」
警官は扉に手をかけて出て行く
残された面々は大きく息を吐く
「……どうする」
「逃げるだろ」
「…見張りが居るのに、か?」
「…No,4の表の役職は警視庁総監」
「…騒ぎ立てれば表社会でも行動できなくなる」
「それで良いんだ」
「もう俺達は騒ぎ立てられる立場じゃない」
鉄珠は携帯を取り出し、ボタンを押していく
表示された画面を確認して、その携帯をシーサーへと放り投げる
「……なるほど」
「…そういう事か」
「見せろ」
雅堂へと放り投げらっれる携帯
それを見て彼は苦々しく眉をしかめる
「……脱獄囚、数名」
「日本へ逃亡……、か」
「既に手は回されてる」
「解っちゃいたんだが、相当厄介な組織を敵に回したなぁ」
「軍は世界規模だ」
「その気になれば俺達の存在自体も抹消しかねないだろ」
「それが出来ないのは俺達が存在しているからだろう」
バムトは重々しく唇を開く
彼の鋭い眼光は何と無い、何かを見つめている
「だからこそ、逃げるしかないだろ」
「No,4に来られちゃ厄介なんてレベルじゃねーし」
鉄珠が喋り終わったと同時に部屋に警官2名が入室してくる
再び、全員に沈黙が訪れ重い空気が流れる
「出ろ」
警官の言葉に鉄珠は立ち上がる
ぽんっと、警官の肩を叩いて部屋から出て行く
「い、良いんですか?」
「早くしろ」
「寝ている警官が目を覚ます」
「寝て……?」
「……まさか、その声」
「行くぞ」
警官の恰好をした男は帽子を机に放り投げ、髪を掻き上げる
もう一人の男も同じく帽子を放り投げる
「夜斬と城ヶ根ぇ!?」
読んでいただきありがとうございました