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秋鋼  作者: MTL2
436/600

乱戦

空港前


「車用意しとるん?」


階段を下りていく一斑は、背を向けたまま波斗達に語りかける

しかし、誰一人として彼の問いには答えない


「冷たいのぅ」

「蒼空ぁ、何とか言うてーな」

「無視は心が折れるわぁ」


「……一斑」

「お前…、本当に……」


「…まぁ、な」

「ほなけど言うとくで」

「俺の目的としては、お前等とかどうでも良ぇねん」

「憑神やら創世計画やら何やら聞かされたけど微塵も興味ない」

「ただ、ある一人の男に復讐できたらそれで良ぇ」

「それだけや」


「それでも俺達の敵である事に変わりはない」

「貴様が霊封寺に着き次第、消すだけだ」


「ほれが出来るんか?お前等に」


険悪な笑みを浮かべる一斑

バムトは静寂の怒りを浮かべ、拳を握りしめる


「まぁ、俺も無傷では済まんわな」

「ほれぐらいは解っとるわ」


軽快に笑う一斑の表情が次第に曇り始める

周囲の異変を察知した彼は歩みを止める


「……人が」


刹那、一斑の頭部を雅堂の掌撃が急襲する

地面に叩き付けられた頭部は血を噴き出し、頭蓋骨を粉砕する


「い、一斑ぁっっ!!」


「敵だ」


「ッ……!!」


「割り切れよ、蒼空」

「コイツは敵だ」

「目的なんざ知った事じゃねぇ」

「テメェの友人だったとしても、今、コイツは俺達の敵だったんだよ」


雅堂は鮮血を振り払い、手を拭う

上を見上げた彼の視界が影に覆われ、雅堂の身に凄まじい重圧がかかる


「がぁっっ!?」


「きゃぁっっ!!」


雅堂の苦声と共に聞こえた、懐かしい声

横転する雅堂の上には華奢な少女が乗しかかっている


「やはりお前か……!」

「森草!!」


雅堂の声をかき消すように地面を蹴飛する音が響き渡る

面を上げた森草の目には白刃が映り込む


「逃がさないよー?」


嬉々の笑みを浮かべた少女が森草の前へと降り立ち、刃を振るう

しかし、その刃は西締の鎌によって弾かれ森草に届くことはない


「…あっ、西締お姉ちゃん」

「久しぶりだね」


「……卯琉ちゃん」


苦悪に満ちた表情の西締に対し、卯琉は可憐な笑みを浮かべる

その笑みに西締は背筋を震わせて悪寒を感じ取る


「でも、邪魔しちゃ駄目だよ?」


「……愚妹め」


卯琉の凶刃が震われ、弾丸を叩き切る

その割れ目から覗く静寂の怒りに彼女の表情はさらに喜びを見せる


「卯扇お兄様まで!!」

「本当に懐かしい顔ぶれだね!」


運命を賛歌するかのように少女は瞳を潤ませる

周囲を涙ぐんだ瞳で見渡して、静かに呟く


「雨雲お兄ちゃんは居ないの?」


冷悪な、氷点下の言葉

まるで絶望を表すかのように彼女は言葉を零す


「じゃぁ……、良いや」


腕を力無く項垂れせ、彼女は建築物の上へと飛び上がる

音を立てずに着地し、シーサーと西締に背を向ける


「またね!西締お姉ちゃん!!卯扇お兄様!!」


「……逃がすか、愚妹」

「…次空転換」

「…貳拾式」


空中に展開される二十の黒円

召還された銃口が卯琉に狙いを定め、弾丸を発砲する


「……そこまで死にたいのなら」

「そうさせてあげるよ」


刀を鞘に収め、静かに腰を低く落とす

冷悪な眼光が彼女の目に宿る



「天雨之刀」



弾丸が全て分断され、宙で分解される

虚しく地へ落ち行く弾丸が音を立てるより早く

卯琉の凶刃の切っ先はシーサーの喉元へと向く


「ばいばい、卯扇お兄様」


「……ーーーーーーーッッ!!」


「闇豪拳ッッ!!」


凶刃はバムトの拳によって弾き飛ばされる

その代わりに彼の指が西締の頬に付着する


「貴様の相手は俺だ」


バムトの背後から襲い来る拳撃

血反吐を吐き、彼は視線を背後へと向ける


「邪魔しないで、オシリス」


不機嫌そうな卯琉の声に、巨躯の男は呆れた様にため息をつく


「貴様と言い、No,3と言い」

「何と身勝手な事だ」

「これは任務だぞ」

「我々は隻眼をーーーー……」


「俺を前にお喋りとは」

「随分と悠長な事だ」


「そうでもなかろう」

「所詮は古き残骸物だ」


「言うな、若造」


「言うさ、老害」


西締が鎌を振り払い、卯琉の足下を狩る

しかし、彼女は飛躍してそれを回避

合図されたかのようにバムトとオシリスの拳が交差し、轟音をあげる



「ちぃっっ!!」


雅堂は森草を払いのけ、立ち上がる


「雅堂、貴方ーー……!!」


「後にしろ!今はそれ所じゃねぇ!!」


「ほんまやで」


雅堂の顎が跳ね上がり、口から血を噴き出す

振り抜かれた拳を腰元へと戻し、一斑は首を鳴らす


「急にやって来おってからに」

「お前等もお前等や!!」

「何を勝手に着いて来とんや!!」


一斑の怒号に卯琉とオシリスが反応する事はない

各自が眼前の敵に集中し、彼の言葉を無視している


「……はぁ、ほんまにアカン仲間や」


ため息をついて一斑は瞼を閉じる

マスクを動かし、嬉喜の笑みを露わにして


「なぁ?蒼空」


背後へ振り向いた瞬間、彼の頬を拳が殴打する

それでも彼は動く事無く、拳撃の主に眼光を向ける


「ようやっと、敵と認識したんか?」


「一斑ァッ……!!」


「ま、事実やから良ぇわ」


波斗の腕を掴み、ギリギリと握力によって彼は締め上げる

苦痛に顔を歪めながらも波斗の脚撃が一斑の肋に直撃する

彼の骨は呻りを上げて歪み、苦痛の声を漏らす


「っっとぉ、やるなぁ」

「流石や」


しかし、それでも怯むこと無く一斑の拳撃が波斗へと繰り出される

波斗の頬をそれが殴打し、体勢を崩させる


「どしたぁ!?こんなモンか!!」


「っっっざけんなぁ!!」


拳と拳の殴打戦

鈍々しい音が反響し、彼等の全身を衝撃が突き抜けていく


「何で能力使わんのやぁ!?」


「それはお前もだろうがっっ!!」


彼等の拳戦に割って入るように、弾丸が一斑の頭部を貫通する


「……痛いんやけど?森草」


「敵に構ってる暇なんてないのよ」


「い、委員長……!」


「見たでしょう?蒼空」

「一斑は、彼は」

「貴方と同じ不死に近い存在よ」


「……えっ?」


「先刻、俺がコイツの頭部を砕いただろうが」


口元の血を袖で拭い取り雅堂は立ち上がる

一斑は波斗との拳戦を中止し、彼へと視線を向ける


「何故かは解らねぇ」

「だが、確実にコイツは俺達と同じ存在だ」


「……どういう、事だよ」

「一斑…!」


「……無型、ってなぁ」


「!!」


「感謝しとるで、蒼空」

「お前が俺を生き返らせてくれたお陰で、力を手にすることが出来たんやけんな」


「それじゃぁ…、お前は……」


「ほうや」

「人やない」

「クォーターってな」

「体の四分の一が無型になった」

「適正が元から有ったんもあるらしいけど、決定的にお前の血液から無型を得たんや」


「……お前は」

「俺のせいで……!!」


「ほんな顔しぃなや」

「言うたやろ?俺はお前のお陰で力を得たんや」

「奴に復讐できる、力を」


一斑の周囲に展開される幾枚の護符

それは波斗を取り囲み、円を成す


「ほなからな、蒼空」

「邪魔するんやったら俺も容赦せぇへんで」

「退け」

「ほったら見逃したるわ」


彼の先刻を波斗が受け入れることはない

静かなる憤怒を露わにし、拳を構える


「……残念や」


振り抜かれた拳から一閃の光が放たれる

幾枚の護符に反射し、一閃は幾何学的な筋を作り出す

最早、波斗では追い切れぬ速度となる一閃の光

必死に眼球を動かして追うも、視界から光は消え失せる


「ッッ!!」


「ほな、さいなら」


一斑が掌を動かすと、一枚の護符が方向を変える

一閃の光はその護符に反射し、波斗の頭部を狙う


「蒼空ぁっっっ!!」


森草の叫びと共に、波斗は背後へと振り返る

しかし既に遅く、彼の額に光は差し迫っていた



「……ほんまに」

「今日は邪魔者が多いなぁ!!」


一閃の光を弾き飛ばした銀の刃

黒衣に身を包んだ漆黒の男が、波斗の前へと立つ


「……まさか」


「悪い、待たせたな」


「……鉄珠さん?」




読んでいただきありがとうございました

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