表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋鋼  作者: MTL2
435/600

空港での休息

四国


香川空港上空



飛空機内部


「…着いたぞ」


静寂に包まれた飛空機内にシーサーの声が響き渡る

雅堂の瞼がゆっくりと開かれ、彼は立ち上がる

首や腕、肩を鳴らして全身を確認する

傷は治癒し傷痕すらも残っていない


「……バムト」


「起きている」

「小僧を叩き起こせ」


彼の言葉よりも前に、満足そうに眠る波斗の顔面に蹴りが入る

吹っ飛んで壁に頭部を叩き付けて彼は地面を転げ回る


「ぬごぉっっ……!?」


「起きろ」

「四国に着いた」


「顔面蹴るなよっ!!」


「何だ、潰した方が良かったか」


「い、いや……」

「……傷、治ったのか」


「数時間も寝れば治る」

「元々、能力使用による回復力減退だったからな」

「解除して寝れば良いだけだ」


言い合う彼等を尻目に、バムトは窓の外を眺める

管制塔や滑走路、旅客機などの見える空港に散らばる人々

どうみても、その異常性に気付かずにはいられない


「……おい、シーサー、西締よ」


「…何だ?」


「何か質問?的なぁ」


「そもそも脱獄囚である俺達を乗せた飛空機が」

「ロシアから無断で飛んできた飛空機が」

「今もなお、ここで旋回し続けている飛空機が、どうやって着陸するのだ?」


バムトの疑問

シーサーと西締は互いに顔を見合わせ、再び眼前の空港に視線を戻す


「…掴まれ」

「…緊急脱出の準備もしてな」


「死んだら自己責任的なぁ~~♪」


「な」


言葉を発しようとしたバムトの身体が急速に降下する

彼の背後で波斗は前転するように転げ回り、雅堂も壁に捕まって必死に態勢を保っている状態だ

操縦席では無表情で操縦桿を下げるシーサーと万弁の笑顔で微笑んでいる西締

墜落するのではないか、という勢いで飛空機は急速降下する


「シーサー!何をしている!?」


バムトの怒号がシーサーの耳へと届く

彼は顔色一つも変えずに彼の方向へと振り向く


「…貴様の言う通り、これは無断降下だ」

「…だが、この国は便利でな」

「…死者を出すまいとするから自由に着陸できる」


「そういう問題ではなかろう!?」


「…何、旅客機や飛空機程度の操作ならば習得している」


「墜落しない程度にはね~的な!」


「墜落真っ逆さまだろうが!!」


紙一重と言うほど、地面ギリギリで機体は急速に態勢を立て直す

周囲の人々が悲鳴を上げて逃げ惑い、旅客機が適切な指示に従って移動を開始する

火花を散らして滑走路にタイヤ痕を残し、飛空機は完全に動きを停止する


「…急げ」


シーサーの声と共に排出口が開扉する

彼と西締が操縦席から跳び出し、移動している旅客機の影に潜んで走って行く

バムトと雅堂は、それに困惑しながらも彼等の後を追う


「ぅおぇっ……」


「早くしろ」


腰の抜けた波斗も彼等に引っ張られ、飛空機外へと走っていった




空港


ターミナル


「……どういう事だ?」


帽子とサングラスというスタンダードな変装衣装

バムトはサングラスだけを着用、雅堂は双方を着用している

波斗に至っては売店で購入したパーカーを異様に深く着込んでいる


「…ここからならば目的地に近い」

「…それだけだ」


眼鏡と新聞で顔を覆い尽くしたシーサー

視線は文字を追っているが、耳はバムトの言葉へと向けられている


「それで、あんな無茶な着陸をしたのか?」

「見ろ、緊急ニュースになっているだろう」


呆れ果てたように、バムトからため息が漏れる

雅堂と波斗の視線が巨大なテレビに向くと生中継で先程まで自分たちが乗っていた飛空機が映し出されていた


「…別段、構う事でもなかろう」

「…ここは空港だ」

「…貴様のような外人が居ようとも妙ではない」


「日本では四国は辺境の地、田舎だろう」

「目立つのではないか」


「…それでも、この近くが集合場所という事に変わりはない」

「…あの場所は部外者は容易に立ち入れないらしいからな」


「その集合場所って何処なんですか?」


波斗の疑問にシーサーは少しだけ新聞の端を下げる

彼の表情を見て再び新聞で顔を覆い隠す


「…八十八山、霊封寺」


「!!」


その一言に反応した波斗の肩を雅堂が掴み、押さえ込む

波斗の視線は一瞬、雅堂へと向くが再びシーサーへと戻される


「……そこには、誰が?」


興味心を必死に押さえ込んだ声で波斗はシーサーへと問いを投げかける

シーサーが口を開こうとした瞬間、彼の声を陽気な声が打ち消す


「アイス買ってきた的なぁ~~!」


嬉しそうに笑顔を浮かべ、両手に四つのアイスを握りながら波斗達の元へと歩いてくる


「何味?」


「…抹茶だ」


「何でも良い」


「あ、俺も何でも」


「そうだな、ストロベリーをくれ」


それぞれがアイスを受け取り、口へと運んでいく

シーサーには抹茶が、バムトにはストロベリーが

残ったアイスは適当に波斗と雅堂に配られる


「西締さんは食べないんですか?」


「私はもう食べてきたから」


「道理で遅いと思ったら……」


呆れた様に波斗はアイスを口へと運ぶ

チョコの甘い味が口いっぱいに広がっていき、彼の舌を満たす


「……こんなの食うの、久しぶりだなぁ」


しみじみと和んでいる彼の隣で雅堂が急に噎せ返る


「……どうしたんだ?」


「…おい、女」


「女じゃなくて西締、的な!」


「…西締よ」

「これは何味だ」


「鰹節味」


「……買い換えてきてくれ頼むから」


雅堂は西締へとアイスを手渡す

残念そうにアイスを眺め、西締はそれを口へと放り込む


「美味しいのに」


そう言い残し、彼女は再びアイスを買いに行った


「鰹節味だったのか……」

「…嫌いなのか?」


「普通に食うには別に構わんのだがな……」

「……アイスになると、どうにも」


苦々しく口籠もる雅堂

余ほど予想外の味だったのか、少し機嫌が悪そうだ


「俺の食うか?」


「要らん」

「流石に、あの女も次はまともな味を買ってくるだろう」


安堵したように態勢を崩す雅堂

波斗達としても東西間の闘争から脱獄、仲間の損失

余りに過激な出来事が連続して起こってきたのだ

戦いの最中での休息とも言える今こそ、唯一の気が抜ける状態なのだろう


「ただいま~~、的なぁ!」


嬉しそうにアイスを手にする西締が彼等の元へと戻って来る

幾つのアイスを食べたのか、彼女の口元は色とりどりに輝いている


「何を買ってきた?」


「うどんアイス!!」


「チェンジだ」


バッサリと言い捨てられ、彼女は寂しそうに肩を竦める

手に持ったアイスを口へと放り込んで、またアイスを買いに行く


「本当は態とやっているんじゃなかろうな」


ため息混じりに、雅堂は首を振る

アイスを食べ終えて、コーンを口へ運ぶ波斗の隣に青年が立ち止まる


「隣、良ぇかいな?」


「え、あっ、どうぞ」


波斗は腰をずらしながら青年の座る幅を開ける

彼は礼を良いながら波斗の隣へと腰掛ける


「旅行かいな?」


「えぇ、まぁ」


「懐かしいのぅ」

「前は徳島駅やったっけ?」


「……え?」


ふと横を見た波斗の視界には懐かしい顔が映る

感涙を零しそうなほど震えた声で彼は言葉を漏らす


「一斑…!」


「久しぶりやのぅ、蒼空」


「お前!こんな所で何ーーーー……」


刹那、一斑の頭部に雅堂の掌が突き付けられる

バムトが彼の眼前へと立ち、一斑はバムトと雅堂に包囲された形となる


「な、何してんだ!!」

「そいつは……!!」


「[白面の殺戮者]…、一斑 駁」

「軍最強能力者集団No,3」


「何や、俺も有名になったモンやな」

「有り難い限りやで」


ゆっくりと膝に手を突き、一斑は立ち上がる

驚愕に絶句した波斗へと歩み寄っていき、彼の前で立ち止まる


「行くんやろ、八十八山」

「連れて行けぇや」


「その提案、受け入れると思うか?」


雅堂の憤怒の眼光が一斑へと向けられる

それでも彼は表情を崩す事はない


「別に良ぇねんで?ここで暴れても」

「ま、どうなるかは考えんでも解るわなぁ」


「……貴様」


言葉を発しかけたバムトをシーサーが制止する

彼は立ち上がり、新聞を手元に置く


「…望みはそれだけか」


「そうや」


「…解った、良いだろう」


「シーサー!?」


「…ここで暴れられても、俺達の行動が制限されるだけだ」

「…その上、コイツは目的地を知っている」


「まぁな」

「直接行こうと思うとったら、お前等が見えてな」

「ほんで、こっちに来たワケや」


「一斑……!!」


「ま、行きの道でゆっくり話そうやないか?蒼空」

「アンタ等も邪魔はせん……」

「…いや、出来んやろ?」


一斑の笑みに雅堂とバムトは歯を食いしばる

シーサーは表情を崩さず、ただ彼を見ていた



読んでいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ