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秋鋼  作者: MTL2
430/600

ギル・フォーレン

「逃がすかッッ!!」


態勢を建て直し、執行人達は波斗へと銃口を向ける

それと同時に岩壁の隙間から二人の執行人が雅堂へと飛びかかる


「邪魔を」


二人の執行人の視界が黒く染まる

雅堂は両名の顔面を掌で掴み、握砕する


「してんじゃねぇえええええええッッッ!!!」


雅堂は頭蓋骨を砕かれ、断命した執行人達を投擲する

波斗に銃を向けていた執行人に激突し、再び執行人は体勢を崩す


「部隊は奴等を追え」

「ここは俺が始末する」


外套を脱ぎ捨て、ギルは雅堂と樹湯の前に立ちふさがる

雅堂は量の腕を交差させ、戦闘態勢を取る

それと同時に樹湯も武器を構える


「全く、全く」

「貴様等と言う人間は理解に欠ける」


執行人達が波斗達の追跡を開始したのを確認した後、ギルは刀剣を展開する

回転刃の様に高速で振動しており、鋭い金属音を放つ


「……雅堂、貴様には手を焼かされる」

「何度も何度も、俺達を掻き回す」

「何か恨みでもあるのか?」


刀剣の切っ先が雅堂へと向けられる

それに動じることなく、彼は冷淡な眼光を唸らせる


「俺が知った事かよ」

「テメェが俺を、あの街に突き落とした」

「今からの恨み晴らしの理由はそれで充分だ」


雅堂の周囲を飛散する塵

彼の足下や、側近の壁

全てが徐々に削られ始め、塵と成っていく


「貴様を相手に、俺自身も無事で済むとは思っていない」


「当然だろうが」

「四肢ぐらいは覚悟しとけよ」


「貴様自身もだ」

「例え、貴様が不死だろうが何だろうが」

「消す」


刀身が消滅し、雅堂の眼前に球体となって現れる


炸斬渦スゼアス


刃で形成された刀身が炸裂し、銀の刃を噴出させる

雅堂は一切の動揺を見せず、素早く掌を翳し出す


「塵滅」


彼の頭部を貫きかけた刀身は、彼の腕に突き刺さる

他の彼に刺さった刀身すらも塵と化す


「だろうな」

「貴様は幾千の武器を持とうとも、それを灰にする」

「そう、武器ならば」


雅堂が唇を動かした刹那、彼の周囲に黒い物体が落下する

安全ピンの切り離されたそれの正体を彼が認識したのは数秒後だった


「手榴ーーーーーッッ!!」


「爆ぜろ」


雅堂の視界が白く覆われ尽くす

彼の全身を焼き尽くし埋め尽くす爆炎、爆風、爆音

爆散するはずの爆風は見えぬ壁に遮断されたかのように、延々とその場に留まり続け雅堂を焼き尽くす


「再生」


轟々と燃え盛る炎を前に、ギルは静かに言葉を零す


「回復、治癒、復活」

「何とも驚異的」

「そして、驚愕すべき事だ」


ギルは腰元に携えた刀を抜き、それを眼前の爆炎に照らし出す

いや、それは刀と言うにはあまりに白く、細く、軽々しい

彼はそれを握壊し、破片を地面へと落とす


「しかし、所詮はその程度」

「殺せぬのならば、殺し続ければ良い」

「炎々と燃え盛る灼獄の中で朽ち果てろ」


外套をなびかせ、ギルは踵を返す

壁に背を任せて動く事なく絶句している


「恐怖」

「当然の感情だな」


ギルは一歩、一歩と樹湯に接近していく

樹湯は壁に沿うように足を崩し地面にへばり付く


「頼るべき者が為す術無く封ざれたのだからな」

「恐怖に打ち拉がれ、沈むのは当然と言わずして何と言おうか」


「……」


「だがしかし、言葉を失われては困る」

「貴様には目的を話して貰わなければならん」

「それに、我等の裏切り者もな」


彼の腕が樹湯の首元へと伸びていく

同時に樹湯の眼前には銀の刃が出現する


「苦痛に口を開くか」

「己から口を開くか」

「選べ」


「どちらも却下」


ギルの背中を斬撃が襲う

苦痛の声を漏らすよりも前に、彼は斬撃の正体を確認する


「……何」


己の目に映ったそれを信じられないと言った表情で絶句するギル

彼の背後を斬りつけたのは、雅堂に頭部を粉砕されたはずの部下だったからだ


「貴様は…」


「その体じゃ、俺はお前に瞬殺されるだろうな」

「だけど、こっちなら話は別だ」


「……貴様か」

「今まで我々から情報を引き出すべく潜入していた能力者は」


「やっぱり、気付いてたのか」

「それでも敢えて泳がせてたのは何故だ?」


「貴様に説明する必要などない」


執行人の頭部を貫く刃

同時に両手両足が地面へと縫い付けられる


「まだだな」


同じくして、もう一人の執行人は地面へと縫刀が行われる

樹湯の体は微塵も原型を残さず切り刻まれ、血肉を散らす


「……この者の能力が無生物への精神移写ならば、これで活動できる事はなくなった」

「故に」


爆炎の中より這い出る灰塊

その鋭き眼光のみがギルを睨み付けている


「再び、灰となるか」

「それとも鉄球に擂り潰され続けるか?」


灰を擂り潰すべく、灰塊の上に出現する数十の鉄球

それでも灰塊の眼光は揺る得る事はない


「貴様等の仲間も、すぐに送ってやる」

「さらばだ」


灰塊を潰す鉄球

表面の焼け焦げた肉が飛散し、ギルの頬にへばり付く

鬱陶しそうにそれを投げ捨て、再びギルは灰塊に目をやる


「悲しいな」

「あれほど息込んでいた者共は無惨にも、無力にも敗した」

「その程度か?雅堂よ」


「その程度、か」


灰塊の腕が動き、立ち上がる

全身を引きずるかのように、屍のように

そうして立ち上がった灰塊を塵が包み込む


「……ここじゃ、立ち止まれねぇ」


彼の焼け焦げた皮膚が塵と化していく

生々しく身肉を剥き出しにした体は、やがて皮膚を形成していく


「先に進まなきゃならねぇんだよ」


「俺を殺して行けば良い」

「尤も、貴様の仲間は死んだがな」


「……どうだろうな」


雅堂の言葉を遮り、刀剣が彼の頭部を貫く

続いて右手右足左手左足が刀剣によって地面に縫い付けられる


「無駄な抵抗はよせ」

「先に行った貴様の仲間も、今頃は部下達によって抑えられてるだろう」


「……ここじゃ、立ち止まれねぇんだ」


四肢を縫い付けられてもなお、雅堂は立ち上がろうとする

あきれ果てたようにギルは手を翳し、雅堂の四肢にさらに刀剣を放つ


「貴様が何と言おうとも、ここから出す事はない」

「死ねよ、囚人」


雅堂の全身を刀剣が貫いていく

最早、彼の体が見えぬほどに

貫いて貫いて貫いて貫いて貫いて

心臓も胃袋も肝臓も肺も肋骨も鎖骨も腕骨も足骨も頭蓋骨も眼球も爪も指も

全てを貫く


「いや、不死だから死ねないのか」


嘲笑を浮かべ、ギルは小刀を引き抜く

再びそれを粉砕して、彼は掌をゆっくりと開ける


「……貴様が何故に不死なのか、など微塵も興味はない」

「ただ、俺は貴様等を表に出すワケにはいかん」

「それだけで貴様を殺すには事足りすぎる」


「そりゃぁ、良い」

「それ程までに解りやすければ悩む事も、躊躇する事もない」


刀剣が塵と化し、雅堂の腕に纏われていく

身体に幾百の虚ろをも物ともせず、彼は立ち上がる


「立つ、か」

「一体、貴様は何度殺せば事足りると言うのだ」

「これでは手間が掛かりすぎる」


「舐めるなよ、ギル・フォーレン」

「何度でも殺せ」

「俺を殺し尽くしてみろ」


雅堂の虚ろから塵が漏れ出し、彼の腕に纏われていく

全身から溢れ出す塵が彼を覆い尽くし、やがて、それは


漆黒の鎧と化す


「処断者・塵裁」


黒く、深淵の如く

その鎧は[鎧]と呼ぶには余りに禍々しく


「……今更、身を守るべき術を持つというのか」

「悪あがきか?」


「悪あがき、かも知れねぇな」


雅堂が腕を振った瞬間、彼の手元には刀剣が召還される

鎧と同じく禍々しい黒を放つそれを持ち、雅堂は静かに歩み出す


「樹湯は、戦闘において有能とは言いにくい」

「能力も偵察に向くし、決して優秀とは言えない」

「だが、奴は」


ギルの足下が震動し、地面に亀裂が走り出す

その亀裂から光が溢れ始める


「決して馬鹿じゃない」


地面から出現する宝珠

太陽が如き輝きを放つそれに引き続き、亀裂から少女が姿を現す


「……ノリット?」


呆然と、ギルは眼前の光景を見つめる

曾ての部下だったはずの少女が、今

己に宝珠を向けているのだ


「さて、ギル・フォーレン」

「悪あがき、見せてやる」



読んでいただきありがとうございました

今話を持ちまして、100万文字突破しました

物語も最終章

皆様、どうか最後までお付き合いくださいませ

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