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秋鋼  作者: MTL2
429/600

脱獄径路

支部長執務室


「……」


無線機を耳に当て、瞼を堅く閉ざすゴルドン

外の吹雪の音すらも彼の耳には届かない

ただ、無線機から流れる雑音に耳を傾けている


『………し……う』


「!!」


微かに聞こえた声に耳を澄まし、彼は目を見開く


『支部……長』

『支部長!支部長!!』


「ギル!ギルか!?」


『応答を……!支部長……!!』

『応答をお願いします……!!』


「……クソッッ!!!」


彼は机に拳を叩き付け、椅子を蹴り飛ばす

その衝音の中でも、無線機からのギルの声は続く


『この声が届いている、と信じます!』

『こちらの状況は圧倒的に有利です!!』

『しかし、バムト・ボルデクス、雅堂、蒼空 波斗、樹湯 永、牙の五名が脱獄!!』

『他執行人は崩れた外壁から逃亡しようとする囚人の圧制に移行しています!!』

『銃を流した事が裏目となって、苦戦している模様です!!』

『脱獄した五名はリム部隊と私の部隊で追跡を開始!!』

『現在の被害は……』


彼の言葉が最後までゴルドンに届くことはなかった

彼は無線機を投げ捨てて扉を乱暴に開けて退室していった





地下4F


「現在が地下4Fだ」

「このまま直進すれば、3Fへの通路にたどり着ける」


疾駆しながらも、波斗達はバムトの言葉に相槌を打つ

彼等が地下4Fに侵入してから約半時間

まだ執行人と遭遇せず、順調に進んでいる


「バムト、上で内通者は準備してるのか?」


「あぁ、そのはずだ」

「奴等の行動がバレるのも時間の問題だろう」

「だからこそ、急がねばならない」


彼の言葉が終わるとほぼ同時に波斗達の目に階段が映る

全員が視線を合わせ、さらに速度を上げる


「蒼空」


階段の一段目を踏んだバムトが振り返り、歩を止める

波斗もそれに反応して歩を止めるが、雅堂達は構わずに先へ進む


「……何だ?」


「防げ」

「壁で通路を遮断するんだ」


その言葉は、最も耳にしたくなかった言葉だった

それはつまり、鱗と翼を見捨てると言うこと


「解っているはずだ」

「奴は初見とは言え、俺の頭を吹き飛ばす程の能力者」

「良くて相打ち、悪ければ瞬殺されている」


解っている

このバムトの強さも、それを瞬殺にも等しい形で殺した女の強さも


解っているのだ


「……見捨てろ、ってのか」


「ここを防がなければ、監獄街に居る執行人共に追撃を許す」

「幾ら俺や雅堂でも奴等を相手に持つかどうかは解らん」

「それに、奴等が生きている可能性は無に等しい」


「……っ」


「俺がここを破壊して防ぐのは不可能だ」

「上も壊しかねない」


拳に汗が滲む


解っている


彼等が生きている可能性など、ない事に


解っている

解っている


「小僧、覚悟を決めたんだろう」


親指を口元に当て、牙歯を立てる

噛みきった皮膚から血液が溢れ出し、彼の衣服に血痕を残す


「……おい?」

「発動条件は……」


「黙ってくれ」


静止しようとしたバムトを止め、波斗は拳を握りしめる

血が滲み、彼の爪元や指先へと血液は広がっていく


「創造」


岩壁が生成され、通路は完全に遮断される

バムトはそれを拳で軽く叩き、厚さを確認する


「……上等だ」

「だが、何故に指を噛みきった?」

「もう発動条件が必要ない事は解っているだろう」


「ケジメ、だ」


「……ケジメ?」


「きっと、あの人達は俺よりも何倍も何十倍も苦しんでる」

「だから……」


「……それを貴様が味わう理由はないだろう」


「馬鹿らしいかも知れない」

「だけど、今の俺にはこれしか思いつかなかった」


指先を伝い、血液が地面に落散する

肉皮の覗く親指を波斗は見つめ、再び拳を握りしめる


「……行こう」

「先に」


「……あぁ」





地下3F


階段を駆け上がってくる波斗とバムト

彼等の視線に映ったのは雅堂達の後ろ姿だった


「……どうした?」


「どうやら」

「読まれていたらしい」


笑みながらも、雅堂の頬を一筋の汗が伝う

武器を構えた牙、そして銃を構えた樹湯が雅堂の左右に立つ


「先生ぇ……!」


「情けねぇ声出してんじゃねぇよ」

「たかが、数十人だ」


通路を埋め尽くす執行人達

彼等の先頭に立つ腰に六の小刀を携えた男は手を掲げる

それと同時に数十の銃口が波斗達に向けられる


「ッ……!!」


「止まれ、囚人共」


男は手を掲げたまま、声を発する

その声に反応し、雅堂は静かに唇を開く


「執行人部隊隊長……、ギル・フォーレン」


「俺の名を呼ぶな、罪人」


腕が振り払われるのを合図に弾丸が発射される

幾百と降り注ぐ弾丸の嵐

それに対し、雅堂は腕を突き出して塵を散らす


「塵滅ッ!」


弾丸は塵と化し、風に去り行く

雅堂は疾風が如く弾丸を塵と化させていくが、弾丸の嵐が止むことはない


「ぐっ……!!」


段々と、彼は弾丸を滅し漏らしていく

雅堂の頬を擦り、腹部を擦り出し始める


「あ、蒼空!!」


樹湯が叫ぶよりも前に、波斗は岩壁を生成する

強固なる防壁が弾丸を弾く音が鳴り響く


「大丈夫か!?雅堂!!」


「テメェに心配されるほど、落ちぶれた覚えはねぇよ」


頬の傷口から滴る血を拭い取り、雅堂は舌打ちをする

眼前の岩壁を凝視し、彼は拳を握りしめる


「ギル、か」

「厄介な相手だ」


「お、俺の器もあの野郎に殺されたんだ!!」

「一瞬の事で何が何だか解らなかったけど……」


「アイツは物資の瞬間転移が能力だ」

「俺が知る限りじゃ、一度に移動できる数は一つだがな」


「……詳しいな、雅堂」


「野郎とは、一度殺し合った事がある」

「ここに来て間もない頃にな」


「貴様が監獄の酒場で飲んだくれていたのを考えれば……」

「勝敗は聞くまでもない、か?」


バムトの言葉に眉をしかめ、雅堂は岩壁に近付いていく

それと同時に弾丸が跳弾される音がやみ、静寂が訪れる


「……野郎との決着は俺が付ける」

「積年の恨みでもねぇが、束の間の恨みはある」


雅堂の掌が鈍々しく鳴り響く

静かなる憤怒を孕んだ彼を、誰も止める事は出来ない


「……あ、あの」

「先生ぇ」


恐る恐る、手を挙げる樹湯

雅堂の眼光が彼に向けられ、樹湯はびくりと体を震わせる


「お、俺も残ります……」


「不要だ、失せろ」


「そ、そうじゃなくてですね」

「先生はここで止まってちゃ駄目なんじゃないか、と……」

「先生の目的はここには無い…、と思う……、んですが……」


途切れ途切れに、歯切れの悪い言葉を樹湯は並べる

雅堂は酷く不機嫌そうに彼を睨みながらも、視線を岩壁へと戻す


「……蒼空」


「な、何だよ」


「俺が合図したら、通路を出来る限り掻き回せ」

「無茶苦茶に変形させろ」


「は、はぁ!?」


「やれ」


問答無用で、彼は波斗へと命令する

波斗自身もワケが解らずともやるべきだろう、と岩壁に向かって構える


「……この防壁は、かなり厚く作ってる」

「そうそう簡単には…」


「言っただろう」

「執行人を舐めるな、と」


岩壁に亀裂が生まれる

生えた様に銀の刃が現れ、亀裂を増す


「来るぞ」


雅堂が呟いた瞬間、防壁は崩壊する

轟音を掻き分けて突き立てられた刃を雅堂は拳で弾き飛ばす


「やれッッッッッッッッ!!」


雅堂の豪声に反応し、波斗は創造を発動

通路が怪奇迷路の様に変化し、道は回転廊のようにねじ曲がる


「後れを取るなよ、雅堂」


「先に行くぞ」


バムトと牙は態勢を崩した執行人達の群れに突貫していく

波斗も後に続こうと走り出すが、一瞬だけ歩を止める


「……絶対、追いつけよ」


「誰に向かって物ォ言ってやがる」


「任せろ!」


雅堂と樹湯の言葉を聞き、再び彼は走り出す

二人の眼前に迫る執行人の長

彼等は彼に眼光を向け、戦闘の態勢を取る


「足手まといになるなよ」


「……尽力はします」



読んでいただきありがとうございました

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