太陽の宝珠
「おい、どうする気だ?バムト」
外壁へと向かって疾走する波斗達
しかし、彼等が走っている方向は唯一の上への道とは真逆の方向である
「上る」
「あの高さをか!?」
「お前だけならまだしも、俺達にそこまでの跳躍力はないぞ!?」
「必要ない」
「俺は[上る]と言った」
バムトは岩壁を見上げる
曾ての彼の一撃によって作られた一筋の亀裂
それは少し、しかし確実に
その亀裂から破片を零していた
「……まさか」
「しっかり防げよ」
闇の拳が外壁に激突する
凄まじい轟音と共に亀裂が分岐
分岐、分岐、分岐
そして崩壊する
「蒼空ァッッッ!!」
「解ってる!!」
「創造!!」
波斗の能力により、巨大な防壁が生成される
落下してくる岩盤を雅堂とバムトはそれ等を破壊、塵滅して防御する
牙と樹湯は波斗の背後に隠れ、防壁によって岩盤を防御する
「……行くぞ」
岩盤の雨が止み、外壁は完全に崩れ去る
塵の霧を纏う雅堂と岩壁の残骸の上に立つバムト
彼等が振り向いたとき、視線には巨大な岩繭が映る
「瞬時に、あの岩盤を防ぐ程の高度を作り出したか」
「身体能力の向上か、それとも精神面の向上か」
「どちらの要因にせよ、能力が成長したのは間違いないな」
「……だろうな」
岩繭が崩れ、中から汗を滴らせた波斗が現れる
彼の背後には樹湯と牙が岩繭の残骸を払いのけている
「先生!無事でしたか!!」
「当然だ」
「…だが、こんな方法で外壁を崩すとはな」
監獄街を囲んでいた外壁は完全に崩壊
積み重なった岩盤が上へまでの道を作り出している
「あの時、岩壁に亀裂を作り出したのは布石か」
「……あぁ」
「急ぐぞ、時間を無駄には出来ん」
「解った」
古建のビル前
「……生きているか」
「どうにか……」
石段にもたれ掛かり、翼と鱗は眼前を眺める
己等に歩み寄ってくる太陽を背負う少女
ゆっくりと、全ての生物を焼き尽くす宝珠を背にして彼女は歩み寄ってくる
「強いな」
「…強いね」
「俺達よりも……、何倍も……」
「……左腕は?」
「もう……、動かない」
東の者共によって銃撃を受けた鱗の左腕が動くことはない
それでも鱗は石段を掴み、己の皮鎧を軋ませて同じく立ち上がる
呼応するかのように、翼も刀を支えに立ち上がる
「…煙草」
「一本だけ、ある」
「……一本だけ?」
「吸うか?」
「…いや、翼が吸うと良い」
「俺は……、良い」
「だが、火が無い」
「……ここにマッチがある」
「新聞の切れ端も」
翼の手に持たれた新聞の切れ端
そこには幸せそうに笑うある家族の写真が貼られていた
「……これは?」
「…解らない」
「だけど、お守り」
「何だか……、幸せそうだったから」
「……そうか」
鱗は煙草を咥え、顔を前へと突き出す
鱗の手に持たれたマッチが煙草に着火し、白煙を立ち上らせる
「……!」
「どうした?翼」
「……いや」
「……あの女、厄介だ」
「周囲を旋回する珠に当たると、問答無用で焼き尽くすらしい」
「俺の銃弾程度では話にならん」
「回避するしか無い……、か」
「…牙の回避訓練、俺達も受ければ良かったかもしれんな」
「だね……」
「しかし、奴はどうやって珠を操っている?」
「今の状態で少なくとも九の珠を操っているはずだ」
「精密さから考えても、自動操作とは思えない」
「……確実に、俺達を狙ってきてる」
「何か、目印を施しているのか……?」
「……」
翼は珠を凝視し、長考に入る
しかし、それを許さないかの様に宝珠が回転を始める
「暇は与えてくれない、か……」
銀の刃と黒き銃口が太陽に照らされる
少女は掌を前へと突き出し、宝珠を密集させる
「解」
宝珠は散開し、二人に襲いかかる
翼は左に、鱗は右に
双方が回避したのを追跡するように宝珠も方向を転換する
「追跡型か!!」
「……ッ!!」
翼は回避を断念し、方向をノリットへと変更する
宝玉もそれに対応し方向を変更させる
「翼!?」
「……試す」
「当然、無駄」
ノリットは翼へと宝玉を放つ
正面と後方より迫る宝玉
翼は刀身を肩に当て沿い、宝玉に対し迎撃の姿勢を取る
「無駄、防ぐ、不可能」
六方より襲いかかる灼炎の宝珠
前方、右前方、左前方の宝珠を恐れる事なく翼は突進する
「翼ッッッッッッッ!!!」
鱗が絶叫した刹那、宙を小さな灯火が舞う
翼の左後方より迫る宝玉はその灯火を焼き尽くすべく方向を変更する
「なっ…!」
「……そういう事か」
灯火は宝珠にかき消され灰と化す
翼は突進を停止し刀身を掴握
速度を回転に転換し、極限まで体を捻る
「ーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!」
廻嵐が如く振回する刀身
全ての宝珠に刃を激突させて、それを弾き飛ばす
「まだ」
頭上より堕撃する宝珠
回転し切り、完全に隙を見せた翼に回避の術はない
「ッッッ………!!」
「舐めるな小娘ぇぇぇえええええええッッッッ!!!」
宝玉に衝突する物体
それは宝玉ごと地面に叩き付けられ、灼炎の中へと消えていく
「……鱗!!」
「構うな!行けッッッッ!!」
損失した左腕を押さえ、鱗は叫ぶ
翼は彼の言葉に応える様に刀剣を構えて走り出す
「……手強い」
「けど」
ノリットの掌より生み出される宝玉
灼炎の塊同士が衝突し、火花を散らす
「無策、過ぎる」
幾百の宝玉が周囲の残骸より飛出
さらに、彼女より放たれる宝玉までもが翼を狙い、噴出される
「ーーーーーーしまっ」
回避方向など無い、完全な包囲
避ける事など、不可能
「燃え、尽きろ」
「ーーーーー……翼」
鱗の眼前で、翼は灼炎へと飲まれていく
炎から逃れる事も許されず
幾千の宝珠に包まれて、消えていく
「翼ーーーーーーーーーーーッッッッ!!!」
鱗の絶叫を制するかのように、灼熱の中の眼光が彼を睨み付ける
踏み出した足を止め、鱗はその眼光のみを視界に映す
「……そうか」
「解った」
決意を固め、彼は銃を握る
走り出した彼に掌を翳し、ノリットは宝玉を操作する
「次、貴様」
宝玉が鱗へと襲いかかり、彼の血肉を抉り燃やす
肉の焦げる匂いが周囲に立ち籠める
それでも、鱗が速度を緩める事はない
「ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!」
狂獣の咆吼
同時に、黒光の銃口が少女に向けられる
「無駄」
銃口より、銃弾が発射される事はない
鱗の右腕が弾かれ、彼の腹部を宝珠が貫通する
「……くそ、が」
腹部を失った異形の怪物
力無く項垂れ、彼は頭を地に打ち付けた
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