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秋鋼  作者: MTL2
424/600

壁を壊すために

監獄街


古建のビル



「……どうする」


「決まっているだろう」

「脱獄するしかない」


新たな煙草を口に加え、バムトは火を点す

雅堂は日本の新聞を広げて詰まらなそうに見つめている


「面白いのは四コマ漫画だけだな」


「それは同意しかねるな」

「四コマが面白いのは認めるが」


「……脱獄、か」

「執行人共め、裏を掻いたな」


「岩壁は囮」

「それは見抜かれても、大丈夫なはずだった」


「あぁ、そうだ」

「奴等が東西の闘争を恐れて解体すれば、俺達はその隙に脱獄」

「逆に解体しなければ東西の闘争が始まる」

「奴等が手を出せないからこそ、俺達は行動できる」


「はずだった」


新聞の角が折れ、雅堂の疲労した視線が覗く

畳まれた新聞の山に、その新聞が放り投げられ、雅堂は立ち上がる


「それを、執行人共は東の連中に武器を流して闘争を開始させた」

「いや、闘争と言うよりは一方的な殺戮でしかない」

「奴等が恐れるは[闘争]」

「俺等が恐れるは[殺戮]だ」


「闘争でなければ奴等は介入する必要性はない」

「そもそも、東西の線引きは曖昧だ」

「ならば情報を持つ人間が東に逃げれば良い」

「だが、闘争の場合はそうも行かないだろうな」

「双方の闘争間では逃げるのも容易ではない」

「……つまり」


「このままでは俺達の脱獄に影響がでる」

「そもそも、何故に奴等は俺達が脱獄する事を……」


「誰であろうとも関係ない」

「奴等は上がり来る虫を潰すだけだろう」


「……そういう事か」

「執行人にも頭が回る奴が居るみたいだな」


「こちらに居ないだけだろう」


「そう自分を卑下するなよ、糞兄貴」


「言うな、愚弟め」


煙草を大きく吸い込み、灰が白を浸食する

バムトから吐き出された煙が雅堂に掛かり、彼は噎せ返る


「何しやがる……」


「すまん、悪かった」


「…ったく」

「だが、だ」

「どうして核からの連絡がない?」


「奴自身も、未だに行動が取れていないんだろう」


「半身である躯が死んだんだから、当然か」


「……そうだろうな」

「蒼空の内面は成長し切れていない」

「外面も不十分ではあるがな」


「能力、か」

「結局、小僧の能力は何処まで可能なんだ」


「始祖、とされる少年」

「秋雨 紅葉……、とか言ったかな」

「彼の能力には寸分となく劣る」

「だが、それでも原型は始祖の能力だ」

「始まりの終わり、終わりの始まり」

「万物を創造する能力だ」


「その、創造とやら」

「何処まで可能なんだ?」


「生命の操作」


重々しく放たれた言葉

それは有り得てはいけない、有り得るはずのない言葉


「とは言え、あくまで小僧は血をコピーされたに過ぎん」

「能力として、そこまで完全ではないはずだ」


「だが、自身は……」


「俺はともかく、貴様等は無型が体の一部にしか無い」

「回復速度としても能力併用でなければ治るのは遅いだろう?」


「あぁ、そうだな」


「……そして、だ」

「これは祭峰の所にいる科学者が立てた仮説だ」

「俺達、実験体達が持つ能力は始祖の能力なのではないか、と」


「どういう事だ?」


「13……、いや14の能力」

「それは始祖の能力が基礎となり分断された能力ではないのか、と」


「つまり、一つの能力の派生系だと?」


「そうなるだろうな」

「一つの器から零れた水滴のように、砂糖から砕かれ落ちた破片のように」

「大樹から振り下ろされた枯葉のように」


「……それを言うのならば、始祖は複数の能力を持っていた事になるんじゃないのか?」


「いや、違う」

「万物の始祖だ」

「全ての能力の集合体」

「全ての能力の結果論」

「全ての物質を創世へと変換する」

「それの意思など関係無く、強制的に」

「言うなれば……、そうだな」

「[強制変換]と言った所だろう」


「随分と妙な名前だ」

「それよりも、俺が聞きたいのは蒼空の能力威力だ」

「生命創造は不可能だとしても、それ以外はどうなんだ」


「万物変様」

「だが、それを得るにはあまりにも遠いだろうな」


「……どうすべきなんだ」


「壁を壊す」


「壁?」


「そう、壁だ」

「何故、俺等は憑神を恐れる?」


「……俺達を殺す術を持っているから、だろう」

「その強大な力もそうだがな」


「そうだ」

「つまり、俺達も殺す術を得れば良い」


「……殺す術?」


「俺やお前、祭峰、核、失敗作と蒼空との違いは何だ?」


「陰と陽、だろ」


「あぁ、確かにそれもある」

「だが、もう一つ」

「元が人間ではない、という事だ」


「人間じゃない?」

「蒼空は未熟児だったが、それでも人間だろうが」


「元が、と言った」

「半分……、いや、それ以上が人間ならざる物で形成されているはずだ」


「だとして、どうなる」

「壁を壊すのは内面だ」

「それは核に任せる他ない」

「それにしても、壁を壊してどうなると言うんだ?」


「言っただろう」

「人間でない状態で陽に適合した蒼空だぞ」

「陽に適合できたと言う事は、陰にも適合する事が出来るはずだ」


「憑神と同種にするつもりか……!!」


「そうでなければ、奴は殺せない」

「俺達は適合した上で、あまりに時間が経ちすぎた」

「光を取り込めないほどに、闇に染まりすぎた」


「……蒼空は、どうなんだ」

「アイツは年齢なら11人目より上だろう」


「能力使用の回数にも関わってくる」

「蒼空が能力に気付き、本格的に使用しだしたのは元No,4に出会ってからだ」

「まだ陽には染まっていない」


「だから、か」

「適応するのは良い」

「だが、暴走する可能性もあるだろう」

「記憶と自我を失い可能性が」


「……記憶は能力だ」

「失えば、あの憑神のように全てを失う」

「秋鋼の、火星 太陽の様に」


「……保険は掛けてるんだろうな」


「血は俺達のが幾らでもある」

「だが、記憶は保険が必要だ」


「どうするつもりだ?」


「創世計画では、一つだけ」

「たった一つだけ、個人で行われていた計画があったのを覚えているか?」


「……そう言えば」

「しかし、あの計画は俺達の脱走で頓挫したと聞いたが」


「その計画の被験体が祭峰の元にいる」


「また祭峰か」


「アイツは創世計画や軍の実験の犠牲者を仲間にして集めて回ってるらしい」

「何かと言って、奴が最も情に深いのかも知れんな」


「あの祭峰が、な」


「それはそうと、その被験体だが」

「元は双子だったが、それを強制的に一つの体に封じたらしい」


「どういう意味だ?」


「半身を、それぞれ縫い合わせたのさ」

「つまり双子を一人にしてしまったワケだ」


「相変わらず狂ってるな」


「結果、その被験体は一人で二人分の記憶を持つようになったらしい」

「能力も二つになった」


「……まさか、それを蒼空に転用しようなんて言わないよな?」


「そのままは、な」

「だが注目すべきは[記憶]だ」


「どうするつもりだ?」

「偽物の記憶でも用意するのか?」


「いいや、違う」

「居るだろう?蒼空の中に一人」


「……まさか」


「そうだ、憑神だ」


「ふざけるなッッッ!!」


雅堂の怒声がバムトに向けられる

平然と煙草を吸う彼の口から立ち上る煙の流れが少しだけ歪む


「奴は過去からの記憶を持っている」

「それこそ、人間として成立するような記憶だ」

「いや、憑神の記憶が奴の創造を作っているのならば」

「蒼空の記憶を使えば良い」


「そうやって壁を壊させる気か……!!」


「小僧の中に、もう既に憑神は居ない」

「ならば好都合だ」


「蒼空の既存の記憶を使うのか!?」


「そうはならん」

「憑神を使えば良かろう」


「憑神を……!?」


「憑神も、過去の亡霊に過ぎない」

「死を望む化け物だ」


「貴様はッッ!!」


「雅堂」


「ーーーーー……ッッ!!」


「二度も三度も言わせてくれるな」


「バムト……!!」


「奴がそれで世界を救えるのならば、それで良い」


煙草が燃え尽き、灰が地面へ落ちていく

バムトは宙を舞う灰を握りつぶし、地へと投げ捨てる


「俺達は悪でも何でも良いんだ」

「解れ、小僧」


「……畜生が」


灰を踏みにじり、雅堂は立ち上がる


「何処に行く?」


「蒼空の……、所だ」


己の心も何もかもを


目的の為に踏みつぶして


彼は歩んでいった



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