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秋鋼  作者: MTL2
420/600

行方

45F総督執務室


「……」


神無は目を掌で覆い尽くす

表情を読まれまいと、己の弱さを見せまいと

それでも拭いきれぬ悲哀が彼の頬を伝い、机に落ちる


「神無様」


「……いえ、大丈夫です」

「申し訳ない」


悲哀を拭い去り、神無は机に手を突いて立ち上がる

白月は彼へと頭下を行い、資料を手渡す


「内通者の処理は神無様の手によって完了しました」

「布瀬川 蜂木、並びに十逆トオザカ 藤登フジト

「内通者である両名を処分完了しました」

「ですが、それでも外部に情報は漏れ続けています」

「可能性のある人間…、ですが」

「セント・和歌島、セント・グランディス」

「布瀬川 蜂土、奇怪神 怪異」

「ウェスタ・ガーデイアン、ソルナ・キューブ」

「そして、彩愛 真無」

「各名が容疑者として上がっています」


「秋鋼に関係を持ち、データベースにアクセスできる権限を持つ人達ですね」


「その通りです」

「布瀬川 蜂木を除く人物は連絡を取ることが可能ですが、如何しましょう?」


「蜂土君は出来ないのですか?」


「彼はアメリカ支部出張中です」

「連絡は取ることはできますが、時間が掛かります」


「……いえ、そうでしたら構いません」

「で、容疑者ということは……」


「はい、まだ情報錯乱妨害は続いています」

「以前より量は減少していますが、確実に」


「…そうですか、解りました」

「隻眼捜索はどうなっていますか?」


「依然として進展はありません」

「内通者による情報錯乱妨害は減少しました」

「ですが、いざ足取りを掴めると言った所で妨害を受けます」

「多くの情報がより的確になっていますね」


「解りました」

「では、彼女に協力を仰いでください」


「了解です」


「それと、Noに言伝を」

「残党狩りも良いですが隻眼捜索にも専念するように、と」


「はい」

「では、失礼します」


白月は深く頭を下げて、執務室を後にする

神無は白月から渡された資料に目を通し、一人の人物に目を付ける


「……貴方も」

「裏切り者なのですか……」




38F特設電子機器操作室


百は超えるかという電子機器に囲まれ、眼鏡を画面の光に反射させる女性

何日も、その部屋から出ていないのか

彼女の周囲には多くの簡易食品物や器具が転がっている


「失礼します」


「何ですか?」


規則的なキーボードを叩く音が止む

椅子を回転させて振り返った女性の目には深い隈が出来ている


「彩愛 真無さん」

「神無総督より命令です」


「命令、ですか」

「自立型兵器に衛星砲のデータ編成の上、まだ何か?」


「隻眼、鉄珠 忍の追跡を」


「……解りました」

「情報撹乱はどうなりましたか」


「裏切り者である十逆 藤登を処分しました」

「他にも何名か居る可能性がありますが、大部分は処理可能ですので」


「そうですか」

「ですが、彼が電子機器を使用しなければ電波発信源は特定できません」

「その上、彼は私がその行為を行える事を知っている」

「未だに彼が前と同じ連絡手段を行っているとは思えない」


「目撃情報は多い」


「それら、全てが撹乱ですよ」


「…まさか」


彩愛は画面へと向き直し、キーボードを叩く

幾千のデータが表示されては消えていく

それを何度も何度も何度も繰り返し、やがて一つの画面が飛び出てくる


「隻眼は目撃されていない」

「移動もしていない」

「見つけるのは不可能ですよ」


「……気付いていたのですか?」


「いえ、気付いたのは先刻です」

「情報錯乱が無くなったので、片手間で」


「流石、と言わせていただきます」

「では、この事は神無様に報告します」


「序でにこれもお願いします」


彩愛は電子機器と紙束の山を漁り、一つの資料を取り出す

白月は放り投げられたそれを受け取り、目を通す


「……驚きましたね」

「衛星砲の軌道順、並びにデータ変換値まで……」


「それは全て仮定です」

「良くて骨組みですので、専門家に見せないことには何とも」


「いえ、充分かと」

「後は自立型兵器ですが……」


「モルバ・ゾバットとの共同開発は遠慮願いませんか」

「彼は苦手です」


「そうは言われましても、彼は自立型兵器に応用できる能力所有者です」

「協力していただかないと自立型兵器の量産には……」


「……仕方ないですね」

「了解しました」


白月は彼女に一別し、暗い部屋に差し込む光へと歩いて行く

扉を閉めようと手をかけるが、再び彩愛の方向を向く


「再度、聞いておきます」

「護衛は不要ですか?」


「何度も言いますが、不要です」


「しかし、貴方は秋鋼に勤めていた」

「その上に隻眼の仲間で、今は総督側近にも近い権力を誇っている」

「言いたくはありませんが、目の敵にされるのは当然です」

「あまり良い扱いを受けていないのも事実では?」


「えぇ、確かにそうですね」

「現に私はここに引きこもっている」

「ですが、それで結構です」

「騙され続けた私の咎でもありますから」


「……そうですか」

「では」


光が失われ、再び暗室に規則的な音が響く

眼鏡を反射させる彼女の表情は悲しい物に見える

だが、それでも彼女の打つ規則的な音に変化はなかった




地下14F特殊実験施設


「モルバさん、実験データ出ました」


「さっさと寄越せ」


研究員から資料を奪い取るモルバ

研究員は彼へ一礼し、そのまま所定の持ち場へと戻っていく


「……変化なし、か」

「チッ、どうなってやがる」


「やっぱり無理じゃないのー?」


「……卯琉か」

「お前、神無総督に着いてるはずだろうが」


「暇だから来ただけなんだけど?」


「暇だからってお前……」

「……まぁ、良い」

「処理、手伝えよ」


不機嫌そうにモルバは眼前に広がるガラスの壁へと近付いていく

卯琉は彼の背後に着くように歩いて行き、ガラスの壁の向こう側へと視線を落とす


「へぇ、失敗作?」


「あぁ、そうだ」


白い壁に囲まれた部屋の中に転がる幾千の人形

いや、人形と言うにはあまりに美しく蠢き

あまりに醜く呻いている


「生きてるんだ?」


「人間みたいなモンだからなァ」

「脳みそ以外は全部、そうだ」


「へぇ」

「処分しないの?」


「だから、手伝えって言ってんだろうが」


「焼却しちゃえば良いじゃん」


「あの量じゃぁ、多すぎる」

「焼却しきれねぇよ」


「あんなに溜める前に燃やせば良かったのに」


「馬鹿言え」

「大量生産が目的だぞ?」

「大量の自立型兵器に伝達信号が届くかどうかの実験だ」


「あ、それで失敗したんだ?」


「仕方ねぇだろうが」

「やっぱ、俺だけじゃ難しいしな」


「ふーん」

「で、どう処理するの?」


モルバは手を払うように振り、小さく笑う

呼応するかのように卯琉は小さく頬をつり上げて、優幼の笑みを浮かべる


「こっち?」


「そっちだ」


白い、失敗作の山の部屋へと続く階段に卯琉は足を踏み出す

玩具を買いに行く子供のようにスキップしながら、彼女はその部屋へど辿り着く


「上に上昇させられるー?」


卯琉の問いに電子声が鳴り響く


『出来るが、落として良いのか?』


「よろしくー!」


万弁の笑みを浮かべる彼女にすり寄る失敗作達

それを害虫を見るかのように見下し、卯琉は山の上へと蹴り上げる


「あ……ぅ……ぁ…」


呻き続ける失敗作達はクレーンによって部屋上部に位置する網へと積み上げられていく

全ての失敗作が泥を掬うように積み上げられ、白い部屋の地面には卯琉のみとなる


『良いか?』


電子声の問いに、卯琉は陽気に返答する

それから数秒後に網の留め具が解放され、失敗作達は地面へと落下し始める


「時雨」


少女の声と共に鳴り響く斬撃音

肉を切り裂くような、爽快な音が白い部屋に反響する


「終わり、っと!」


少女は刀剣を鞘へと仕舞い、失敗作達に背を向ける

刹那、失敗作達は人の形をした肉塊から原形を留めない肉塊へと変貌する


『手間が省けたぜ』


嫌らしい笑い声が電子声として部屋に鳴り響く

少女は陽気に階段を駆け上り、ガラスの壁にへばり付く


「けっこー、綺麗だね♪」


全ての肉塊が等分に切り裂かれ、血の海に沈む

まるで地獄の釜の様な光景に研究員達は吐き気を催すが、モルバと卯琉は嬉々としてそれを見つめる


「これで燃やせるぜ」

「おい!血を流せ!!」


モルバの指示に従い、部屋の排水溝が全開する

赤黒い血が排水溝へと吸い込まれていき、やがて部屋には肉塊だけが残る


「燃やせ」


その一言と共に、排水溝が全閉

そして部屋に薄黒い油が流し込まれ、火が投下される


「良い光景だね」


うっとりとした惚悦の表情で、少女はガラスの壁に手を添える

焼け焦げ、灰へと化して行く肉塊をモルバと卯琉は楽しそうに眺めていた




読んでいただきありがとうございました

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