選択の森草
ロンドン支部
支部長執務室
「…説明してくれないか」
机の上には3つのコップ
それぞれ香ばしい匂いの紅茶が湯気を立てている
「…」
「黙って居ても解らないだろう?」
「…どうしてもか」
不機嫌そうに眉を顰めるゼロ
「当たり前だ」
「特例なんてレベルじゃない」
「そこのモリクサ ミカン…、だったか」
「彼女を見逃せ、と?」
「確かに彼女は人を寄せ付けないと言う能力上、人を殺しては居ない」
「だが!五眼衆に協力所か、幹部だったんだぞ!?」
「認められるか!!」
「…幹部?」
「コイツは五眼衆と偶然一緒に居ただけの女だ」
「幹部なんかじゃない」
「何を言ってる!?ゼロ!!」
「いや…、軍最高戦力No,3!!」
「貴様は立場を忘れたか!!」
「…あぁ?」
「俺は軍と立場と信念に逆らった覚えはねぇぜ?」
「森草が本当に五眼衆の幹部だったっつ-証拠は有るのか?あぁ?」
「何を馬鹿な…!!」
「おい!デ-タを持って来い!!」
「了解しました」
バタン
「デ-タです」
「おう」
「コレに載っているだろう!!」
「今回の戦闘で明らかになった森草…」
「…何だと?」
「有るのか?デ-タが」
「うん?」
「…無い!?」
「おい!全部のデ-タを持って来い!!」
「は、はい!!」
バタンッ!!
「ハッハッッハッッハ!!!」
「どうしたぁ!?ウェルタ!!!」
ニヤニヤとにやつくゼロの顔は完全に悪意に満ちている
「馬鹿な…!!」
「デ-タにアクセス出来る権限を持つのはデ-タ管理局の人間と総督だけのはず…!!」
「…ん?デ-タ管理局?」
顎を抱え、唸るウェルタ
「…布瀬川ァアアアアアアアアアア!!!」
「俺の勝ちだなァ!!!」
「貴様ぁ…!!」
「デ-タと確証が無い以上、下手に手出しは出来ねぇだろ?」
「それに、そろそろ届く頃だ」
「何が?」
「ゼロさ-ん!お届け物で-す!!」
「おう、ナイスタイミング」
「森草、コレに判を押せ」
「判は俺が用意してる」
「え?」
「早くしろ」
「は、はい!」
ポンッ
「よし」
「ウェルタ、見ろ」
「?」
「…おう」
書類に目を通していくウェルタ
その表情が段々と汗ばんでいく
「…おい」
「何だ、コレ」
「どうしたんですか?」
「読んでみろ」
「『本日、この日時をもって私はこの書類に同意し』」
「『No,3直轄の部下となる事を契約します』…」
「!?」
「No,3の直轄部隊の部下だ!!」
「コイツの所有権は俺にある!!」
「お前等所か、総督すら簡単には手出し出来ねぇだろ!!!」
「やりやがったな…!!」
「やりやがったよ!!」
「…どういう事ですか?」
「つまり、だ」
「この野郎はお前を直轄の部下にした」
「直轄の部下って事は責任は全てゼロに行く」
「って事は部下の責任を取って殺されるのはゼロって事だ」
「そんな!!」
「私の為に…!!」
「流石だろ?」
「我ながら良いアイディアだ」
「駄目です!!!」
「絶対!!!」
「こんな書類…!!!」
書類は破り裂かれ、ゴミ箱に放り投げられる
「あぁ------!!!」
「おいおい…」
「最低ですよ!!」
「私の為に誰かが犠牲になるなんて…!!」
「そんな…!そんな…!!」
「人の話を最後まで聞け!!!」
「ッ!」
「俺はNo,3だ!!」
「軍の最高戦力の1人で在るし、戦績もそれ相応に上げてる!!」
「つまり、軍からすれば俺が居なくなるのはデメリットでしかない!!」
「そのデメリットに比べれば罪人を1人見逃す程度、安いモンなんだよ!!」
「それに、直接的に関わってないしデ-タにも無い以上、立証される可能性は無い!!」
「そ、それじゃぁ…」
「誰も犠牲になんかならねぇ」
「テメェの早とちりだ」
「よ、良かったぁ…」
「良かねぇよ!!!」
「!?」
「この書類申請が通らずデ-タの残留痕でも見つかってみろ…」
「即抹殺だぞ!?馬鹿野郎がぁああああ!!」
「ご、ごめんなさい!!!」
「…部下と上司には見えねぇ」
「まぁ、2枚目も用意してるんだが」
「用意周到だな、オイ」
「コイツが書くまで書かせるからな」
「何枚でも用意するさ」
「へいへい、そ-ですか」
応接室
「…」
「落ち着けって、蒼空」
カタカタと膝を揺らし、波斗の視線は左に行ったり右に行ったりと忙しなく動いている
「あの娘なら大丈夫だと思うぜ?」
「ゼロも馬鹿じゃねぇし、ウェルタだって融通は効かねぇけど馬鹿みたいな石頭じゃない」
「あの娘ぐらい見逃してくれるって」
「だと良いんですけど…」
ガチャッ
「あの…」
「委員長!!!」
「!」
「委員長!どうだった!?」
「ぜ、ゼロさんの御蔭で…」
「私はお咎め無しだって…」
「よ…」
「良かったぁ~~~~~~!!」
大きく安堵のため息をつき波斗はソファに倒れ込む
「良かったじゃん、森草ちゃん」
「いえ…、ありがとうございます」
「ゼロさんは?」
「お礼が言いたいんだけど…」
「ゼロさんなら途中で帰っちゃったわ…」
「そうなんだ…」
「にしても、何でゼロの奴は君を助けたんだ?」
「ゼロと君には何の関係も無かっただろ?」
「…実は」
数十分前
廊下
「…ゼロさん」
「何だ」
「どうして私を…」
「…テメェの所のボスと約束してな」
「約束…、ですか?」
「今回の計画の全貌と俺が知りたい情報を教えてやるから、代わりにテメェを護れ、だとよ」
「私を…」
「…教えてください」
「あ?」
「どうしてボスが私の両親を殺したのか」
「聞いたのなら解るはずです」
「…頭の良いガキだ」
「後悔するなよ」
「…はい」
「能力者狩り」
「軍に属してない能力者を全て消すっつ-計画が十数年前に軍で持ち上がった」
「あの頃は軍の規制も甘かった」
「能力さえ悪用しなければ能力者は軍公認じゃなくても許されたんだ」
「…だが、能力を悪用する能力者が増加しすぎたんだ」
「だから、一斉に狩りが始まった…」
「狩りなんざ聞こえの良い戯れ言だ」
「一方的な戦闘だったらしい」
「…」
「…俺もその狩りには参加してた」
「だが、その任務は名目上「能力犯罪者の一斉検挙」だ」
「え…?」
「解るか」
「お前の両親は犯罪者なんかじゃない」
「表向きの名目は「能力犯罪者の」だ」
「だが、本来の目的は「全能力者の」だった」
「…どうしてゼロさんは知らなかったんですか」
「知ってたら計画ごと軍を潰してるさ」
「んな理不尽でクソみてぇな計画、認めるワケにはいかねぇ…」
「…だが、それは軍も察知してた」
「俺には表側の仕事をさせ、裏方の仕事は暗殺特務部隊と五眼衆にやらせたんだ」
「…それでボスは」
「お前の両親を殺した」
「…」
「そして、そこにはお前も居たんだ」
「ガキだったお前は何が何だか解りこそしなかったが、目撃者は消さなきゃならねぇ」
「両親が能力者なら、娘のお前だって可能性は有る」
「消すべきだったんだろう」
「だが…、奴は出来なかった」
「お前を殺せなかった」
「…ボス」
「お前を保護し、軍から隠れてお前を育てた」
「そして、その非道な軍を裏切ったんだ」
「…そうだったんですね」
「酷かも知れねぇが、コレが真実だ」
「…ありがとうございます、話してくれて」
「頼まれた事だったからな、気にすんな」
「…はい」
「ゼロさんは…、今の軍を潰そうとは思わないんですか?」
「あぁ?思うかよ」
「過ぎた事は仕方ねぇし、どうにもならねぇ」
「だが、軍の行為を忘れるワケでもねぇ」
「今は保留だな」
「保留…」
「…お前はどうなんだ」
「軍を恨まないのか」
「恨みます」
「許さない」
「…刃向かうのか?軍に」
「いいえ」
「恨むし許しません」
「だけど…、そんな事はしない」
「私にも大切な人が居ますから」
「…そうか」
「見た目以上に強ぇな、お前」
「え?」
「こっちの話だよ」
読んでいただきありがとうございました