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秋鋼  作者: MTL2
408/600

古建ビルでの会談

「蒼空はどうしてる」


「今は寝ている」

「まだまだ、再生に時間を要するようだな」


「慣れてねぇんだろ」

「…それより、コイツ等の事を聞いときたいんだがな」


「あぁ、牙と翼、そして鱗」

「ここで拾った」

「お前にも部下がいる様だが?」


「コイツも拾っただけだ」

「ま、情報を知った一般人なだけだがな」

「……それよりも、この三人」


「言いたい事は解る」

「化獣の事だろう」


バムトは牙、翼、鱗を隣に呼び寄せ、顎を深く引く

三人は深く目を閉じ、その異形の姿を露わにする


「……そうか」


「コイツ等からすれば、小僧は己の運命をねじ曲げた元凶だ」

「名を知って殺した事は許してやってくれまいか」


「別に構わん」

「このガキは死なねぇだろ」


雅堂は波斗の頭を踏みつける

樹湯が慌てて制止しようとするが、バムトと視線が合い動きを止める


「…樹湯と言ったか」


「は、はいぃ!!」


「そう恐れるな」

「俺とて、無駄な争いは好まん」


「よく言うぜ」

「国一つ滅ぼそうとした奴がよ」


「フン、昔の話だろう」

「俺のような老害が今も尚、現役だと思ってくれるな」


「…現役、か」

「そう言えばノアが死んだらしいな」


「ほう……、貴奴が」

「一度は手合わせしたかった物だが」


「今更だな」

「……さて、話を戻そうか」

「このクソガキだが」


雅堂の足が前後に揺れる

それに合わせて蒼空の頭が地面に擦れて音を立てる


「執行人が東西の争いに目を付けた」

「今、動くのはマズい」


「…東西、か」

「勝手に祭り上げられただけだがな、俺は」


「それでも、この監獄街内では西のボスとして認識されてる」

「今になって違うと声を張り上げても意味はねぇぞ」


「…あぁ、解っている」

「さて、では計画通り蒼空を戦争に放り込んで鍛えるワケにはいかんな」


「…バムト様」


「何だ、鱗」


「どうして、そこまでこの小僧に拘るのです?」

「烏滸がましいですが、戦力としては我等の方が上かと」


「あぁ、解っている」

「だが……、お前等も見ただろう」

「この小僧の再生能力を」


「…はい」


「それに、この小僧は希望だ」

「これから俺達が行う計画の上で外せない希望なのだよ」


バムトの眼差しが深刻そうに影を含む

彼の視線は間抜けな寝顔で寝息すら立てている蒼空へと向けられる


「……所詮、俺達は出来損ないだ」

「この小僧が俺達を殺そうとすれば殺す事が出来る」

「完全に不死身、というワケではないのだ」


「…この小僧は不死身なのですか」


「いいや、小僧にも限界はある」

「喰らった命の分だけな」


「……喰らった?」


「曾ての、貴様達と同じ処分された化獣」

「それに実験が成功しなかった数々の失敗作の命が、この小僧には宿っている」

「だから何億何万何千何百何十何回と殺せば死ぬ」


途方も無い数を前に、鱗達と樹湯は言葉を失う

それに反してバムトと雅堂は平然な表情を保ち続けている


「……不死、ではないですか」


「本当にそう思うか?」


「え……」


「お前達、コイツを殺すのに何秒かかった?」


「そ、それは……」


「そういう事だ」

「本体がコレでは話にならん」


「故に、鍛錬を……」


「内面は俺達ではどうしようもない」

「[核]か[躯]に任せるしかないだろう」


「それだがな、バムト」


「何だ?」


「[躯]が死んだらしい」


雅堂がその一言を放った刹那、周囲の空気が凍り付く

バムトの腕元より闇紋が出現し彼の体を覆っていく

殺意の深塊が他の者達を圧迫し、樹湯や牙達は膝を折って地面に伏す

雅堂ですら額から一筋の汗を流し、その眼光を鋭く唸らせる


「……あの、小娘が……?」


深淵の様な、深く暗い闇の声

夜影の如き眼が誰と無い周囲を見渡す

建物が泣き叫ぶかのように悲鳴をあげる


「落ち着け……、バムト……」


雅堂の絞り出した様な声

殺意などと曖昧な感情では表せぬ驚異

余りに圧倒的な殺意の象徴を前に、彼ですら恐怖する


「彼女の死に…、貴様が怒るのは解る……」

「だが……、ここで怒り狂っても意味は無いだろうが……!」


「……すまんな」

「すまん……、だが」

「この怒りを俺は何処に捨て去れば良い……?」


バムトは徐に立ち上がり、外を眺める

彼の目には巨大な外壁が映り、それを眺めている


「バムト…、様……?」


「外壁、か」


バムトは古建のビルより飛び降り、地面に着地

外壁の元まで歩み寄り、静かに手を触れる


「[闇帝の右腕]」

「[闇滅]」


外壁に一線の割れ目が生まれる

一線の割れ目は外壁を周回し、ついに一筋の円を生む


「……ふむ」


バムトは首を慣らして外壁に背を向ける

彼の体躯から闇紋は消え去り始め、やがて元の姿へと変化する


「すまんな、まだ俺も未熟だ」


「……何をしてきたんだ?」


「八つ当たり、と言った所か」

「とはいえ老害の身、大した威力も無いが」


「……だと良いがな」

「で、どうする」


雅堂は椅子に深く身を沈める

両の手を組み合わせて胸の上に置く


「小僧が起き次第、牙、翼、鱗に稽古を付けさせる」


「バムト様!?」


「俺では殺しかねないし、雅堂でもそれは同じだ」

「樹湯は戦闘に適していないだろう?」


「お、俺の能力知ってるんですか……」


「雅堂から話は聞いている」


「話…?」


「良い偵察人材が居る、とな」

「貴様の能力は大いに役立っている、と」


「せ、先生!!」


「戦闘では役立たずで居ない方がマシな程だが」


「……ははっ」


苦笑いしながら樹湯は窓から見える人工太陽を眺める

彼の瞳には涙が潤っていた


「…さて、だ」

「樹湯は外の情報を集めに」

「俺と雅堂は少しばかり話がある」

「牙、翼、鱗はそいつを鍛えてやれ」


「……手加減、できませんな」


「せんでも良い」

「だが、問答無用では殺すな」

「遠距離、中距離、近距離」

「全ての戦闘をこなせるように鍛え、さらに能力を使用できるようにもさせろ」

「今の高々、物質の形を変化させるだけの能力では話にならん」

「小僧の能力は創造」

「全ての原点にして頂点の能力だ」

「使いこなせれば大きな戦力になる」


「……しかし」


「二度は言わん」

「やれ」


「…了解しました」


「さて、十字路……、狭いな」


雅堂は己の顎に手を添え、無精髭をなぞる

思いついたように手を離して牙達を指さす


「広場でやってこい」


「あの場所はたまり場だ」

「たまっている連中をどうしろと言う」


「掃除しろ」

「薬に酔った連中だ、難しくはねぇだろ?」


「……ふむ」

「この者を殺すにしても、回数は抑えた方が良いか」


「別に?どうせ同じだ」


「…死なぬから、か」


「いいや、違う」

「憑神はコイツを殺せるんだよ」


「…憑神?」


「陽の光が陰を消す」

「時に陰が陽の光を消すこともある」

「陰陽を兼ね揃えた憑神ならば…、蒼空の陽の光を消す」

「無論、俺等の陰もだ」


「……っ!」


「不死など存在しねぇんだよ」

「単に寿命が長いか、頑丈なだけだ」


「で、でも先生ぇ…」


「何だ?」


「蒼空に不死がどうとかって言ってませんでしたっけ…」


「無駄に死を恐れて動かなくなっても困る」

「どうせ殺せるのは憑神だけだ」

「ならば、その時まで知らせなくても良いだろ」


「お、鬼ですね…」


「天使の間違いだろうが」

「恐怖を知らねぇ人間は何でもするぜ」


「…は、はぁ」


「と、言うワケだ」

「頼むぜ、牙、翼、鱗」

「壊した武器は……、どうするかな」


「心配せずとも、替えはある」


雅堂は波斗を蹴り飛ばし、三人の前まで転がす

彼等は互いを見つめ、渋々頷く


「そういう事だ」

「コイツを頼んだぜ」


「「「……了解」」」


「そうと決まれば、後は話は早い」

「樹湯、お前は執行人共の行動を掴め」


「は、はい」


「…あと」

「酒持って来い」


「えっ」


「喉が渇いた」


「わ、解りました…」

「というか、先生」


「何だ?」


「ずっと蒼空の頭、踏んでたんですね」


「踏み心地が良いからな」


読んでいただきありがとうございました

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