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秋鋼  作者: MTL2
405/600

遮断の岩壁

十字路


「西の野郎共が、妙な動きをしてるらしい」


煙草を持った男が、周囲の男達へと語りかける

十字路端の箱に座ったその男は口からもくもくと煙を立ち上らせる


「西のボスは動きを見せてねぇんだろう?」


「ボスは、な」

「だが、あの雅堂って野郎が動いてる」


「あぁ、あの飲んだくれか」

「野郎ォ、この前に酒場の酒を盗もうとした仲間を殺しやがった」


「飲んだくれも、そこまで行くと気狂いだな」

「酒で頭が狂ったかぁ?」


ゲラゲラと笑う男達

刹那、箱に座っていた男の頭部が脚撃により切り裂かれる


「誰が飲んだくれだ?」


「……!!」


雅堂は両の手を広げ、左右の男の胸に手を当てる

男達の臓腑は灰燼と化し、胸と口から血を吐き出す


「東の者共」

「テメェ等のボスに伝えな」


ぽっかりと穴の空いた男達の胸を雅堂の腕が貫通する

そこから心臓を取り出し、唯一生き残った男へと放り投げる


「戦争だ」




屋上


「ふー…、ふぅー…」


呼吸を整えろ

出来る、俺なら出来るはずだ


波斗の眼下に広がる監獄街

点々と小粒の様に散らばる人影がうごめいている

両手を重ねて、波斗は更に深く息を吸う


「ふぅーー……」






「良いか?計画は簡単だ」

「街を分断する」


「……分断?」

「どうやってだ?」


「分断だ」

「そうすれば西と東が明確に別れ、殲滅しやすくなる」

「簡単だろうが」


「だぁからぁ!!どうやって分断するんだよ!!」

「街を半分に分けるのか!?」


「あぁ、そうだ」


「……は?」


「お前の能力は何だ?思い出せ」

「創造…、万物を創造する力だ」


「でも…」


「でもも糞もあるか」

「やれ」




「…あの野郎」

「覚えてろよ…」


地面に手を突き、大きく息を吐く

精神を集中して眼前を見つめる



己の力だ

誰かを守るために

強くあるために


俺は、この力を持っていた

奇跡の力として持っていた


初めて能力を発動したのはいつだっけな

もう、忘れてしまった

いいや……、初めてなんてなかったのかも知れない

だけど、それでも俺は構わない

今、こうして地面に足を着けて生きてるんだ





創造クリエイト




悩む暇があったら、俺は真っ直ぐ生きる

正しくなくても、間違っていても真っ直ぐに


生きるんだ




十字路


「…ほぉ」

「流石だ、蒼空」



街を遮断する岩壁は天井の光まで届くほどに高々と君臨する

全てを断切する岸壁を監獄街の人々が見上げる

形成されたそれを唖然と見つめる人々は次第にざわつき始める


「なんだ…、あれ…」


「壁……、だよな…」


「壁…?」


東側に残った人間達は茫然自失といった表情でそれを眺めている

しかし、彼等を眼前の出来事に引き戻す悲鳴が巻き起こる


「何だ!?」


男達の遙か眼遠で何かが起こっている

彼等は警戒し、各々が武器を取る


「来るぞ……!」


巻き上がる粉塵の中に一人の人影が見える

双方の掌で噴煙を裂き分け、その者は姿を現す


「よぉ、戦争の始まりだ」


雅堂の双腕に噴煙が纏われる

灰色の煙は悪魔の腕が如く、禍々しく変貌する


「塵喰魔腕」


噴煙に覆われた悪魔の腕を掲げ、雅堂は歩み進む

男達はそれぞれに武器を構え、彼へと襲いかかる


「殺せぇえええええっっ!!」


悪魔の腕に武器が触れた瞬間、それらは例外なく全てが灰燼と化す

男達の表情が恐怖に引きつるが、時は既に遅い

勢い付いたまま振り抜かれた腕が悪魔の腕に触れた瞬間

彼等の血肉全てが灰に化す


「ぐぁああああああああ!!」


「無に帰せ」


振り抜かれた悪魔の腕

男達の頭部が灰と化し、彼の腕へと取り込まれていく

灰燼を喰らって増大する悪魔の腕

その風貌をさらに禍々しく変貌させ、双腕は猛威を振るう


それでも尚、悪魔を前にしても尚


恐怖に狂ったか

戦闘に狂ったか

薬毒に狂ったか


狂気の者共は雅堂へと襲いかかる


「去ね」


振り上げられた悪魔の腕

腕からは灰燼の刃が生み出される


「塵灰斬刃」


男達の半身が地に落ち、灰と化す

宙を舞う上身を悪魔の腕が喰らい、さらにその風貌が禍々しさを増す


「うぉおおおおおおおおおお!!」


彼の殺戮を前にしても、まだ

狂い狂った男達は彼へと襲いかかっていく


「……片付けるか」


悪魔の腕が合わさり、一つの刀身と化す

否、刀身とは呼べぬ悪獄の代物に


「滅し塵と化せ」


悪魔の双腕に、一点の陰りが生まれる

陰りは大きく大きく変化していく


「…そこまでだ」


「!!」


雅堂の頭上より降り注ぐ刀剣

彼は技の発動を中止し、刀剣を塵と化させる


「出たか」

「隻眼の執行人め」


雅堂の前に降り立つ男

片目の眼帯と足下まで届くコート

あまりに特徴的な風貌と、胸に刻まれた看守の証


「…暴れすぎだ、雅堂」

「…幾ら無法街とは言え、ここまで暴れられると捨て置けん」


「フン、ここの執行人である貴様が出てくるとは余程の自体か?」


「……余程、か」

「…あれほど天高くそびえる岩壁を作り出しておいて良く言う」


「作り出したのは俺ではないがな」


「…どの道だ」


「…そうだな」

「貴様が邪魔するというのならば、排除するだけだ」


雅堂は右足を踏み出す

腰を低く落とし、構えを取る


「…次空転換」

「…参式」


執行人の背後に現れる次空間

二つの刀身と一つの銃口が現れる


「…滅してみろ」


「上等」


雅堂の眼球に迫る弾丸

しかし、それは彼の皮膚に触れるか触れまいかという所で消滅する


「舐めてくれるなよ」


光を散らす、塵の嵐

執行人の臓腑を狙ったそれを、執行人は飛翔して躱す


「…捌式」


次空間は数を増し、さらに武器も数を増す

雅堂に四の刀身と四の弾丸が襲いかかる


「塵滅地獄ッッッ!!」


雅堂周囲の地面や建造物が消滅し、彼の腕へと取り込まれていく

やがて彼の腕は増大を止め、収縮してゆく


「…どうした?限界か」


「ンなはずねぇだろ」


彼が腕を振った瞬間、悪魔の腕は斧へと姿を変える

余りに禍々しく、この世の色ならざる色彩を放つ斧へと


「断罪者・塵戒」


巨大な斧を持ち、雅堂は再び姿勢を低く構える

薙ぎ払う形に構えた彼に対し、執行人は距離を取る


「…それでどうするつもりだ?」


「やれば解るだろ?」


無音

先まで悲鳴と絶叫、そして轟音が反響していた空間の音が消える


「……」


「…」


双方が動くことはない

彫刻の様に全身を固め、指先すらも動かさない




監獄街を闇が覆い尽くす


「「!?」」


二人は硬直を解き、周囲を見渡す

暗闇の中で視界が封じられ、全てが黒く染まってしまった中では何もかもが目視できない


「…何だ」


数秒後、光が灯る

人工の夜が明けた瞬間、二人の間には鎌を有する女が立っていた


「ストップ」


女は執行人の元へと歩み寄り、腕を下げさせる

執行人は酷く不機嫌そうに女に問いかける


「……何故、邪魔をする」


「彼を殺す気?的な」

「私達は看守で彼等を殺す事が役割じゃ無い的な」


「…全力でやらなければ、俺が殺されるだけだ」


執行人は衣服を正し、雅堂に背を向ける

雅堂は斧を解除し、塵を散らす


「じゃ、やり過ぎ厳禁!的なぁ~」


女は執行人を連れて、外壁の階段を上っていく

雅堂は二人の背中を見つめ、小さく呟いた


「……執行人」

「鎌斬、か」



読んでいただきありがとうございました

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