終戦
会議会場
正門
「…恐ろしいな」
「よく言うぜ…」
「恐ろしい怪物だろ、お前」
「本当の本当に無能力者か?」
「あぁ、そうだ」
「無能力者には体を鍛えるしか脳がないのでな」
「筋力には自信がある」
「筋力ぅ?」
「筋力付けたら弾丸も素手で受け止められるってか?」
「別に止めたんじゃない」
「前へと向かう弾丸の方向性を上からの衝撃でねじ曲げた」
「飛ぶ鳥の頭上から石を落とすのと同じ原理だ」
「…頭も回るのか」
「クソ面倒くさくなってきたな…」
「何、その能力ほど面倒ではない」
「物質の速度を変える能力、ほどな」
「…気付いてたのか」
「当たり前だろう?」
「お前が投げた石礫が弾丸の様なスピ-ドで飛んできた」
「速度は威力にもなり得るからな」
「チッ…」
「…その武器は投げないのか?」
「布で巻いた棒は」
「あぁ?投げねぇよ」
「槍投げなんざ得意じゃねぇ」
「ほう、そうなのか」
「…つ-かよ、テメェは良いのか?」
「チンタラ会話しててよ」
「目的はお前の足止めだ」
「むしろ、有り難い」
「違ぇよ」
「この戦いの時間を聞いてるんじゃねぇ」
「お前の時間を聞いてるんだ」
「…勘が良いな」
「戦闘中に殴ってもねぇトコを抑えられたら嫌でも気付く」
「癌、か」
「体中に移転しているそうだ」
「軍に追われているとロクに医者にも行けん」
「…そうか」
「何故、悲しそうな顔をするのだ」
「敵だろう?お前は」
「よく言うぜ」
「お前は敵だが、強ぇからな」
「病気で殺すのは惜しい」
「なら、お前が殺すのか?」
「い-や、病気で苦しんでる野郎をブッ殺すのは気が引ける」
「…だからこそ、死ぬ前に聞きてぇ」
「何だ?」
「どうして軍を裏切った」
「…」
「耐えられなかった、の意味が解らねぇ」
「何に耐えられなかったんだ?」
「お前は軍を裏切って私欲に走るような人間じゃねぇ」
「軍の規則に耐えられなかったワケじゃねぇだろ」
「どうして、そう思う?」
「…街」
「む?」
「街を攻めて、住民を人質に取れば良いんじゃねぇのか」
「そうすれば軍は手出し出来ねぇ」
「何故、そうしない?」
「元は軍に居たテメェなら百も承知のはずだ」
「それに日本で能力者が暴走したときも、五眼衆の連中が暴走した能力者を止めていたと報告が入ってる」
「何が目的だ?何の為の行動だ?」
「軍への復讐にしては遠回りし過ぎじゃねぇのか」
「…お前は知らないんだな」
「十数年前、軍はある計画を立てた」
「計画だと?」
「…最悪の計画だ」
「殺し殺される計画」
「その計画に耐えられなかったんだ、俺達は」
「…詳しく聞かせろ」
「別に構わないが…、条件が2つ有る」
廃墟前
路地裏
「委員長!しっかりして!!」
「嘘…、ボスが…、父さんと母さんを…」
「雅堂は…、知って…」
「委員長!!」
「嘘…、嘘…」
(クソッ…!!)
どうなってるんだよ!?
何で俺は委員長を庇って逃げてるんだ!?
敵だろ!?五眼衆の幹部だぞ!?
なのに…!何で…!!
「蒼空 波斗!!」
「!?」
目の前にはベルアと大勢のロンドン支部員達
「大丈夫ですか!」
「総員!構るのです!!」
大量の銃口が森草に向けられる
「撃っ…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
「な、何なのですか!!」
「早く退いてくださいです!!」
「当たっても知らないのですよ!?」
「こ、この人は俺の友人なんですよ!!」
「敵じゃない!!」
「いいえ!彼女は五眼衆の一員です!!」
「デ-タの顔とも一致したのです!!」
「え、えっと…」
「敵を庇うのですか!?蒼空 波斗!!」
「反逆と見なしますですよ!?」
「ち、違…」
「どうするのですか!?」
「そこまでだ」
「!?」
「全員、撤退しろ」
「ゼロさん…?」
「No,3…!!」
「し、しかし!」
「命令が聞けんのか?」
「No,3の権限を持って命令する」
「撤退だ」
「…ッ!!」
「全員!撤退です!!」
「…ゼロさん、どうして」
「気にすんじゃねぇよ」
「森草 蜜柑」
「…」
「…テメェはロンドンに旅行に来ていた」
「そして、偶然にも軍と五眼衆の事件に巻き込まれていた」
「そうだな?」
「え…?」
携帯電話を取りだし、電話をかけ始めるゼロ
「ロンドン支部、会議会場はどうなった?」
『はい、事態は収拾しました』
『五眼衆幹部、混沌のファグナはMr,テツダマが処理』
『ボスは貴方が処理しましたね』
「あぁ、そうだ」
「ボス…ッ!!」
『---…、連絡が入りました』
『今し方、憤怒の雅堂を捕縛したと』
「そうか、解った」
パタンッ
「皆が…、そんな…」
「五眼衆は壊滅だ」
「お前は五眼衆ではなく、普通の女として生きていけ」
「以上だ」
「ま、待ってよ!!」
「…何か、まだ聞く事が有るのか?」
「何で私は…!!」
「私も五眼衆の幹部よ!?」
「違う」
「お前は日本の九華梨高校の生徒だ」
「どうして!?何でそんな…!!」
「…頼まれた」
「お前の所のボスに」
「ボスが!?」
「お前を五眼衆から解雇するそうだ」
「尤も…、それは数年前から決まっていたそうだがな」
「お前は[偶然にも]五眼衆と一緒に居ただけの女」
「始末する必要が有るか?」
「何で…」
「…お前のボスからの伝言だ」
「生きろ、と」
「…私の両親は!?」
「私の両親はどうして殺されたの!?」
「…能力者狩り」
「能力者狩り…?」
「…コレ以上は言えん」
その場から歩き去るゼロ
「能力者狩り…?」
「何よ…、それ…」
「何…」
「委員長…」
森草の肩にそっと手をさしのべる蒼空
「触らないで!!!」
「ッ!」
「触らないで…、触らないでよ…」
「父さん…、母さん…」
「ボス…、雅堂…」
「皆…、皆…」
「私は…」
「い、委員長…」
「私には…」
「何も…」
「無い…」
「こんなに苦しいなら…」
「死んだ方がまし…」
「…死ぬなんて言うなよ」
「貴方に何が解るの…?」
「全部なくした…」
「失った…」
「全部、全部…」
「私には…」
「何も無いの…」
「何も無いんだから…」
「生きてても…」
「意味なんて無い…」
パァ---…ン
路地裏に渇いた音が響く
「…ッ」
「---!!」
波斗の手が森草の頬を打っていた
「…何だよ」
「無くしたからって…、なんだよ」
「無くしたからって!死んで良いはず無いだろ!?」
「無くした物は幾ら嘆いても帰ってこない!!!」
「無くしたんだ!!全部!!!」
「現実から目を背けるなよ!!!」
「何も無くなっても!!」
「生きろよ!!!」
「死ぬなんて言うな!!」
「私は…」
「…見つけろよ」
「委員長は馬鹿じゃないだろ?」
「見つけれるよ」
「無くした物の変わりとまではいかなくても…」
「きっと…、大切な物が」
「だから…」
「だから、死ぬなんて言わないでくれ…」
「わ、だし…」
委員長の目から大粒の涙がこぼれてくる
「ボスが与えてくれたのに…!!」
「死ぬなんて…!!」
「う…ぁああ」
「うわぁああああああああん!!」
その場に崩れ、目を押さえ
叫び、泣く委員長
路地裏に響く少女の泣叫ぶ声
「…委員長」
波斗はそっと委員長を抱きしめ、彼女の涙を拭った
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