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秋鋼  作者: MTL2
399/600

始まりと終わり

軍本部


地下5F演習場


「あぁ、いらっしゃいましたか」


だだっ広い空間に、神無とシヴァの姿が見える

案内された織鶴、火星、彩愛は歩を進め、彼等の前まで進む

火星と彩愛は彼等に一礼するが、織鶴だけは依然として立ち尽くしたままである


「……織鶴!」


「…」


「いえいえ、構いませんよ」

「知らない仲ではありませんから」

「…蒼空君はいらっしゃらないのですか?」


「べ、別件でして」


「…で、何の用件かしら?」

「貴方達が居る、って事はただの業務連絡じゃないでしょう?」


「……流石、察しが良いですね」

「今回の件は全く関係ありません」

「ですが、重要な話です」


神無は織鶴達に着席するように促し、シヴァが椅子を持つ

火星と彩愛は申し訳なさそうに椅子に座り、織鶴は不機嫌そうに座る


「…お、織鶴さん」


「…で?」


「あぁ、はい」

「実は、皆さんには言っておかなければならないと思いまして」

「…創世計画について」


「創世計画、ですか」


「神無ァッッッッ!!」


織鶴の怒号

周囲の空気が振動し、猛り狂う殺気が周囲を圧する


「…織鶴さん」

「彼等の仲間である以上、知っていて貰わなければなりませんよ」


「知る必要!?」

「そんな物はないだろうがッッ!!」


「…いいえ」

「知らなければないらないのです」


シヴァが視線で織鶴を制する

織鶴の憤怒の眼光が彼を捕らえるが、シヴァは首を振る


「創世計画……」

「それは、命を[創世]する計画です」


「命を…?」


「…えぇ、はい」

「その計画には私を含め、数人の人々が関わっていました」

「そこには、蒼空 波斗君のご両親も」


「「!?」」


「ッッ……!!」


「この際です」

「ハッキリ、言っておきましょう」

「……蒼空君は人間ではありません」


「…どういう、事ですか?」


「創世計画……」

「……その計画の唯一の成功体」

「それが蒼空君なのです」


「ちょ、ちょっと待ってください!!」

「彼が人間ではない!?どういう事ですか!!」

「彼は、彼は人間以外の何だと言うのですか!!」


「つくられたもの、でしょうね」

「造形物でもなく、創造物でもない」

「ただの、化学生物でもない」

「……人間、でしょうね」


「ですが!人間ではないと!!」


「…落ち着きなさい、彩愛」


「……っ!」


「神無総帥」


「…火星さん、でしたね」

「何ですか?」


「…その計画、とやらは」

「成功したんですよね?」


「えぇ、そうです」

「……その代わりに多くの犠牲を出しました」

「12人の別体の成功体」

「1人の[原形を留めた]失敗体」

「そして数千万の[原型を留めなかった]失敗体」


「それ程の犠牲を出して、漸く13人の成功体ですか」


「……私達の技術力不足」

「いえ…、私達の技術力がありすぎたが故に」

「成功してしまった」


「…どういう事ですか?」


「人が踏み込んで良い、領域ではなかったのです」

「ですから、私達は早々に手を引くべきだった」

「ですが、それは出来なかったのです」


「元老院からの重圧、ですか」


「いえ…、確かにそれもありました」

「ですが、それ以上に」

「蒼空君のご両親の意思があった」


「…意思?」


「…蒼空君は、未熟児だったのです」

「蒼空君のご両親は、生まれるはずが無かったご自身のお子さんを実験体としたんです」


「…そんな事!」


「私も、当時はそう思いました」

「あまりに残酷だ、と」

「だけれど…、ご自身の子の為ならば」

「両親は鬼にもなるのでしょう」

「…だからこそ、私は彼等に協力する事にした」


「それは恩ですか?情けですか?興味ですか?」


「…恩、はあります」

「彼等には何度も何度も救われ、教えを受けた」

「ですが、違う」

「情け、もあります」

「彼等の姿はあまりに見るに堪えなかった」

「ですが、違う」


「…興味ですね?」


「えぇ、そうです」

「私とて研究者」

「…非道でしょうし、不謹慎でしょうが」

「興味が勝った」


己の過去を悔いる男の目は、酷く曇っていた

隣に立つ男も目を伏せ、ただ静かに立ち尽くす


「……私、奇怪神さん、そして藤登」

「…いいえ、院長は彼等に協力しました」


「あの2人まで…」


「…そして、神の領域を越してしまった」

「成功してしまった」

「死した体を、復活させてしまったのです」


「…それが、創世計画」


「えぇ、そうです」

「ですが……、この話には続きがある」


「続き?」


「…能力者狩り」

「知っていますよね」


「…はい」


「あれは軍の狂行です」

「恥…、いいえ、汚点でしょう」


神無は悲しそうに目を伏せ、拳を強く握りしめる


「しかし、あれですら創世計画の一部だった」


「!?」


「あの計画の目的は2つ」

「能力者の魂をある者に喰らわせること」

「もう1つは蒼空君のご両親の抹殺」


「…どうして、蒼空君のご両親を?」


「…彼等は、逃げたのです」

「軍から」


「裏切った、と言う事ですか?」


「…はい」

「元老院は蒼空君を利用しようとした」

「先に述べた12人の成功体の抑制剤として」

「だが、しかし…、彼等は自分の子供を利用されることなど、耐えれなかったのでしょう」

「…当然のこと、でしょうけれどね」

「そうして、お2人は……」

「……言うまでも、ないでしょう」


「…もう1つ」

「ある者に喰わせる、とは?」


「……先程申しました、原型を留めた失敗体」

「元老院の、最終兵器とも呼べる人物です」


「…No,1ですか?」


「いいえ、違います」

「不死…、にして」

「黒衣を纏う、悪魔」


「…黒衣?」


「…鉄珠 忍」

「そういった方が正しいでしょうか」


「……鉄珠?」


「彼は江戸時代より」

「…いえ、正しい文献が残る遙か前よりかも知れませんが」

「その時から歴史の裏で暗躍し続けた」

「[隻眼の男]です」


「…隻眼?」

「鉄珠が……?」


「…織鶴さん」

「そうなんですか…?」


「…」


彩愛の問いに、織鶴が答える事はない

ただ酷く眉をしかめ、憤怒の眼光を光らせ神無を睨んでいる


「……真実です」

「そして、彼の見張りとして」

「元、元老院直属部隊の織鶴 千刃に万屋という店を建設させ雇わせた」

「尤も、これは彼女の要望でしたが」


「…本当なのか?織鶴」


「……」


「織鶴!」


「彼女は元No,4であり」

「元、元老院直属部隊であり」

「身体強化系最強であり」

「…何より」

「そんな彼女だからこそ」


神無は立ち上がり、手を掲げる

その瞬間、織鶴達を元老院直属部隊達が囲む


「依り代に相応しい」


火星の脚と腹部を貫く銃弾


「がぁっっっ!?」


「火星ッッッッ!!!」


椅子から転げ落ちた火星の首に刀身が当てられる

彩愛の頭部にも銃口が当てられ、さらに織鶴の眼前にはシヴァが立つ


「どういうつもりだァ!?神無ァッッッッ!!!」


「時は来たのですよ」

「全ての五紋章が揃い、準備は完了した」


神無は微笑み、織鶴の頬に手を沿わせる


「貴方を依り代にする準備も、ね」


「創世計画はッッ…!!」


「元老院の老害を操作し、行ったんですよ」

「尤も、発案は私では無い」

「計画は乗っ取らせて貰っただけです」

「餌集めの能力者狩りも同様に老害を利用した」

「何、コヨーテ君の能力を使えば難しい事ではありませんでしたよ」


「テメェ……!!」


「さぁ、選んでください」

「仲間を見殺して死ぬか」

「仲間を救って依り代になるか」


「ッッッ……!!」


「駄目だ…!織鶴!!」

「駄目だ!!!」


「…火星っ」


「…織鶴、さん」

「ずっと黙ってたんですか?」


「…彩愛?」


「鉄珠が、隻眼という事を」


「…それは」


「……ずっと」

「騙してたんですか?」


「っ……」


「…そうですか」


己に突き付けられた銃口を払いのけ、彩愛は神無の元へと進む

驚愕に見開かれた織鶴の目を見つめ、静かに言葉を吐き出す


「…私は、万屋を」

「秋鋼を辞めます」


「彩愛っっ!!」


「もう、信じられない」


「……貴女の情報力は素晴らしい」

「是非とも、歓迎しますよ」


「…どうも、ありがとうございます」


「彩愛…!」


「仲間に裏切られるたぁ、無様だねェ?」


パチパチと手を打ち合い、モルバは笑みを浮かべる

火星の目が怨恨を持ち、彼を鋭く睨み付ける


「怖いねェ」

「さっさとやっちまえ、総帥」


「…えぇ、そうですね」

「シヴァ」


「了解しました」


「シヴァッッ……!!」


「だから、言ったのだ」

「もうこれ以上は関わるな、と」


「くっ……!!」


紅色の、血の塊

球体のそれは赤黒く、血その物の様な

闇色の、紅


「憑神の魂だ」


シヴァは織鶴の喉を掴み、閉め上がる

微かに開いた彼女の口に手を突っ込み、無理矢理こじ開ける


「……さらばだ」

「織鶴よ」


「かっ…!ぁっっ…!!!」





「織鶴」

「俺が嬉しかったのはさ」

「お前を護れることなんだ」




織鶴の口に向けられていた手は、火星の腹へ引っ張られる

己の傷口に、闇の塊を当てて火星は微笑む


「ごめんなぁ」

「スウィーツ買う約束、無理みたいだ」


闇は、火星の体へと吸い込まれていく

静かに、音も無く

ただ、風が吹くように

人が息を吸うように

当然の様に


体の中へと



「…じゃぁな」

「大好きだよ」


シヴァの手から離れ、火星は地へと堕ちる

いつもの、優しい笑顔のままで


「…ひ」

「ぼ……し……」


「……己から吸収したと言うのですか」

「常人には耐えられるはずのない…!高純度エネルギー体を…!!」


「火星…」

「う」

「あぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


シヴァの身体が宙を舞う

彼を撃ち上げた女の咆吼は空気を振動させる


「あぁあああああああああああああああああああああッッッッッ!!!」


「抑えてください!!アウロラ!!オシリス!!」


「「了解」」


織鶴へと迫る巨躯の拳と白刃の剣


「うわぁあああああああああああああああああああああ!!!」


アウロラの視線の端に映っていた男は白壁とへ衝突する

白壁がひび割れ、オシリスは臓腑からの出血で紅く染まる

一瞬の視線の横行

アウロラが再び織鶴を見たとき、彼女の刀剣は弾け飛んでいた


「しまっ…」


顔面を織鶴の拳撃が直撃

オシリスと同じく白壁へと激突する


「止まれ」


織鶴の両腕が制止する

血の混じった唾液を吐き捨て、シヴァは立ち上がる


「その能力は厄介だ」

「信じられん程にな」

「…無型を有するが故に」

「貴様の発動条件も、無効化される」

「それがバレなかったのは…」

「今まで仲間を騙し続けてきたからか?」


「シヴァぁああああああああああああああああ!!!」


ドスッ


「……え?」


織鶴の腹部を貫く切っ先


「…何で」


槍の先端を血液が伝い、やがて男の手へと滴る


「…火星?」


愛した男の手へと

己の血が滴り落ちていく

だが、その男の眼は紅く

血の色に染まっていた


「火…星…」


槍が引き抜かれ、彼女の腹部から血が吹き上がる

織鶴の伸ばした手を火星が取ることはなかった


「…まさか」

「成功、したと?」


喫驚に喉を詰まらせ、神無は立ち尽くす

信じられない、と


「無能力者に適応したというのですか…!!」

「なんと言う事だ…!!」


次第に神無の表情は喫驚から歓喜へと移り変わる


「……」


火星

いいや、火星だった者は神無の前へと進み膝を突く

彼を主と崇めて


「…はははっはははっははは!!素晴らしい!!」

「成功!成功ですよ!!」

「長き時を経て!!漸く!!」

「陰陽全てを兼ね揃えた!!!憑神が生れたッッッ!!」




「俺達は[失敗作]か」

「悲しいねぇ、お父さん?」



「!!」


白壁を突き破り、演習場へと降り立つ男

凜と啼く黒翼を背負い、その地に降り立つ


「祭峰…」


「よぉ、久しぶりだなぁ?お父さん」

「復讐に来たぜ」



読んでいただきありがとうございました

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