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秋鋼  作者: MTL2
397/600

No,7

「その生き様…、見事だったよ…」

「暗殺特務隊長補佐、クラウン所属」

「……千両 梓蝋」


頭部が地へと落ち、ぐしゃりと脳髄を撒き散らす

体はゆらゆらと揺れ、やがて地面に身を沈める


「……ごめんね」


もう、後には戻れない

いいや、元よりそんなつもりはない

もう駄目なんだ


俺は罪を償わなければならない

己の探求欲を満たさなければならない


その為には、誰でも


殺すしか無い



「クラーケン」



馬常を覆い尽くす巨大な影


「……これは」


海より出現せし、異様の怪物


「潰せっっ!!!」


少女の絶叫と共に、怪物は巨腕を馬常目掛けて振り下ろす


「ぐっ……!!」


無論、馬常はそれを受けなどしない

素早く右方に回避する


「よくも…!よくも!!!」

「千両を!之乃消を!!」


「……No,7のお出ましか」


分が悪い

あの子の能力は余りに協力だ

だが、余りに不安定だ


「殺せぇええええええええええええっっっっ!!!」


怪物の八脚が馬常目掛けて振り下ろされる

左右方、前後方、上方から


(これは避けきれないーーーーっっ!!)

「鉄解輪廻!!」


馬常の周囲に転回される幾千の鋭鉄

高速回転により、馬常を守り、害物を切り裂く縦となる

八脚が高速回転する鉄の刃に切り裂かれ、脚は空高く跳ね上げられ、消える


「……そうだったね」

「これは幻術」

「幻だ……」


「ーーーーーッ!」

「ウェールズ!サクソン!!」


切り裂かれた怪物の背後より現れる赤龍と白龍

口から轟々と燃え盛る業炎を漏らし、その殺戮の意を示す眼光を馬常へと向ける


「燃やして!燃やし尽くせ!!」


彼女の狂声にも似た豪声に、双龍は反応する

双の口から吐き出された業火は馬常の鉄の壁を溶かし、彼へと迫る


「がぁっっ!!!」


馬常は咄嗟に顔を隠す

轟々と燃え盛る炎が彼を覆い尽くし、彼自身の背後は全て焼灰と化す


「噛み砕けぇっっ!!」


赤龍は馬常の頭を、白龍は体を

それぞれ、その鋭利なる剛牙で喰らう


「ぅぅううううううおおぉおお!!」


鋭鉄が赤龍の頭を貫き、顎を切り裂く

豪声と共に馬常は赤龍の顎から腕を引き抜き、顔面を喰らっている白龍の顎の間に手を擦り込ませる


「っっっっっっっかァ!!!」


ばつんっ、と肉を千切る音がレウィンの耳に届く

白龍の顎と頭が離れ、その中から鮮血を浴びた男が姿を現す


「はぁー…、はぁー…」


「……ッ!」


恐怖に目を見開く少女

しかし、後退する事も恐れる事もない


「ヘルハウンドぉ!!」


馬常の頭上から襲いかかる黒犬

赤色の眼光を向け、馬常へと喰い掛かる


「鉄尖槍」


傘の先端から手元までを鋭鉄が覆い隠し、巨大な槍と化す

馬常は頭上へとそれを突き上げ、黒犬の口から尾尻まで貫く

その身に鮮血を浴びて、その目と同じ色に染めて


「ひっ……!!」


少女は、己の口から出た恐怖の言葉に嫌悪する

恐れるな、恐れるな、と

しかし眼前の、恐怖にどう対応しろと言うのか

勝てないのではないか


「……これで終わり?」


冷淡な声

それは、つい先刻までの優しかった男の声では無い

人殺しの、殺戮者の声


「う、ウロボロス…!!」


彼女の怯えた、虚勢に幻術は反応しない

高度な技術である幻術を精神力と才能だけで補ってきた彼女

その彼女の能力は、どちらかが欠けては発動しないのだ


「……所詮は幻術だ」

「そんな物なんだね」


「……ウロボロスッ!」

「出てきてよぉ!ウロボロス!!」


「……」


この子は、弱い

強いけれど、だけど弱い

心だ

心が弱いんだ

だから、これほどの才能を持ちながら

これほどの力を持ちながら7という数字を背負ってるんだ


「……君の、お兄さん」

「居たよね」


「……え?」


「ウェルツ…、だっけ」


「……それが、何?」


「No,2の直属部として雇われてた時の名前は狗境だったよね……」


「何を……」


「……能力は糸を伸縮させる事」

「そうだったよね……」


「…何で、知って」


「当然だよ…」

「彼を殺したのは……、俺だから……」


「…えっ?」



心が弱いのなら

それを爆発させたらどうなるのかな?



「彼が…、謝ってたよ…」

「死に際に……」

「多分……、君を残していった事じゃないかな……」


「…嘘」


「嘘じゃない……」

「俺が殺したんだ……」


「殺したの……?」

「馬常が……、殺したの?」


「そうだよ…」


悪寒


「……あぁ」


全く、また己の探求心のせいで嬉々とした危機を迎えた

自業自得とは言え、これほど嬉しい業はない


これが、暗殺特務部隊隊長

これがレウィン・マーデン


これが



No,7




全てを喰らうべく

全てを破壊すべく

全てを滅すべく


その怪物達は


あまりに、幻術とは思えぬほどに


鮮明すぎた



「う゛ぉ゛ぉおぉおおお゛お゛ぉ゛お゛オォォォオオオオオオぉおおお゛ぉぁ゛ああ゛ぁ゛ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぁァアアアァウゥアウウゥアアアアアアアォオオオオオ!!!」



この世の物ではない

幻術だ、幻だ、偽物だ


然れど、然れど


余りに、余りに、余りに


これは……



「……リアル、過ぎる」



馬常の

四肢を食いちぎり

首をもぎ取り

眼球を潰し

指をはね

臓物を引きずり出し

脳髄を啜り

爪を剥がし

肉を剃り

骨を折り砕き


「てっ……!!」


全ての鋭鉄は食い尽くされ、噛み砕かれ


「ーーーーーーーー…………殺せ」


少女の冷淡な声と共に、馬常の全ては食い尽くされる

跡形も無く、全てが


「壊して!!壊して!!」

「全部全部全部全部全部全部ぅ!!!」


鼻腔から、唇から、眼孔から出血し

それでも尚、幻術を止める事はない


「壊してぇええええええええええええええーーーーーーっっ!!!」


眼前の男を壊すために

全ての現実から逃げる為に


止める事はない






「……ははっ」


小さく、笑う

嬉しいからではなく

悲しいからではなく


虚しいから


「…私は」

「ピクニックに来たかっただけなのに……」

「千両がうるさいからぁ…、ちょっと抜け出してきただけなのにぃ……っ」

「どうして…!どうして……っ!!」


「……それは」

「ここに居る時点で解ってた事でしょ…?」


彼女を、大きな影が覆い尽くす


「……!?」


「死ねないんだよね、この体はさ……」

「やっぱり罰当たりな事はするモンじゃないね……」


「ひっ……!!」


「……ごめんね」


静かに馬常は目を伏せ、レウィンへと切っ先を向ける

能力の過多使用により、彼女は動くことができない


「…ばいばい」


ぶつっ


「……がっ」


「…?」


突然、馬常は膝を突き蹲る


「かッ……!かァ……!?」


しまった

まさか、こんな所で


「っっぁああア……!!!」


拒絶反応がッ……!


全身を内部から引き裂かれるような痛み

体内で肉が潰れ、骨が軋むのが解る

生き地獄だ


「……ぁっ」


馬常の目に映ったのは

小さな、その手で

銃を構える少女だった


「千両のっ…!之乃消のっ…!!」

「お兄ちゃんの!!!」


「…ははっ」


あぁ、そうだろう

解った


俺も、あの時


こんな目をしてたのかなぁ






銃声が鳴り響き

男は崖下へと落ちていく


少女は力無く項垂れ

やがて、力尽きた










読んでいただきありがとうございました

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