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秋鋼  作者: MTL2
393/600

自己犠牲の守護

馬常の部屋


夜遅く、時計の針が三時を回った頃

布団に潜った馬常は異変を感じた


「…んー、違和感」


べろんと布団を持ち上げ、視界に入ってくる小動物


「…なんで?」


「にゃむぅ…」


「……」


このままでは、確実に森草ちゃんとセントちゃんに疑われるんだよね…

…って言うか、何で入って来てるんだろ


「…寝よう」


眠いし……




時計の針が七時を回った頃

森草家を絶叫が突き抜けた


「なな、なななななぁあああああ!?」


「うるさいなぁ…、もう…」


「何してるんですかぁあああああああああああ!!!」


「ふみゃぁ…」


「きゃぁああああああああ!レウィンちゃんがぁあああああああア!!」


「朝だから…、近所迷惑だから…」

「俺…、低血圧……」


「レウィンちゃん!起きて起きて!!」

「何もされなかった!?変な事されなかった!?」


「あと五分寝かせてぇ…、千両ぃ…」


「ショックのあまり…!幻覚を…!!」


「君達は勘違いをしている…」


「何が勘違いですか!!」

「年端もいかない女の子を部屋に連れ込んで!!」


「いや…、何か布団に入ってたんだけど…」


「嘘でしょう!?」


「本当でしょう…」


「もう駄目でス!森草さン!!」

「レウィンちゃんは私達で保護しましょウ!!」


「勿論よ!!」


「何だろう…、この免罪感は…」






軍病院


特別治療室


「……!」


「目覚めたか」


「…師匠?」

「ここは……」


「軍病院だ」

「お前、遺体治安所でぶっ倒れてたぞ」


「……そうですか」


「何してんだ、情けねぇ」

「馬鹿か?」


「……そうかも知れません」

「あの人を護れなかった」


「一人護れなかっただけでウジウジと」


「護れなかった…?」

「一人、護れなかっただけ?」

「…ふざけないでください」

「あの人を!!護れなかった!!」

「それが!どれ程の事だと!?」


「…うるせぇよ」

「それはテメーが無力だからだ」

「それを俺に突っかかるんじゃねぇよ」

「俺はテメーに基礎を教えただけだ」

「それ以降はテメーの責任だろうが」


「……っ!」


「神無から頼まれたのはお前を自立できる強さまで鍛える事だ」

「それ以上はしなかったし、それ以下もしていない」

「お前には六天を教えてはないが、それの理由も言ったはずだ」


「…私が、自己犠牲に陶酔しているから」


「そうだ」

「いいや、正しくは陶酔じゃねぇな」

「従尽だ」


「……私が死んでも、あの人を守らなければならない」

「それが、私の生きてきた証です」


「自己犠牲で誰かを守れると?」

「お前が自己犠牲で死んだら、誰が守るんだよ」


「…それは」


「結局、自己満足だ」

「下らねぇ」

「そんなんだから布瀬川も守れなかったんだ」


クォンは立ち上がり、ベットに横たわる白月へと近付いてく

白月は隈で追われた光のない目で彼を見上げる


「答えろ」

「貴様が死なせたのは誰だ」


「……」


「答えろ」


「…布瀬川様です」


反響する打骨音

クォンの振り抜かれた拳が白月の頬を撃ち抜く


「がぁっ……!?」


彼女の鼻腔や唇からは血が噴出し、白いカーテンに赤い斑点を散らす

ベットが倒れ、彼女の身が壁へと叩き付けられる


「誰を、死なせた?」


「……布瀬川様です」


白月の腹を抉る脚撃

臓物の潰れる音と骨の軋む音が部屋に響き渡る


「ぁっ……!っごぁっ……」


吐瀉物が地面に零乱し、胃液が異臭を放つ

呼吸できなくなった白月は悶絶し、地面をのたうち回る


「答えろ」

「貴様は、誰を、死なせた?」


「…う゛ぜっ……が……わ…」


白月の右肩に当てられる靴底

驚愕に見開かれる彼女の目と対極に、クォンの目には冷酷な火が灯る



ごきんっ




院長室


「院長!!」


「何だ、うるせぇな」

「患者の容態が悪化したか?」


「ち、違います!」

「特別治療室の患者が…!!」


「…白月か?」

「アイツは栄養失調と体調不良だ」

「点滴打って寝かせときゃ良いだろ」


「暴行を受けて…!瀕死の重体に…!!」


「…現状を説明しろ」

「警備に連絡!!俺もすぐ向かうッッ!!」


「は、はい!」





特別治療室前


「どうなってる!?」


「院長…!」

「ま、まだ中には白月さんと不審者が…」

「前を通った者が悲鳴を聞いて、その……」


「今!中に居るのか!?」


「は、はい」

「しかし…、あまりに危険で…」


「どけッッ!」


院長はナースの制止を無視し、扉を蹴破る


「…!」


彼の目に映ったのは、目を見開きのたうち回る白月

そして、それを踏みつけるクォンだった


「クォン……!!」


「…騒がしいと思ったら、院長か」

「何の用だ」


「……おい、軍警備に連絡するのは止めだ」


「し、しかし!!」


「止めだ、っつてんだろ!!」


「ひっ……」


「……お前等は下がってろ」

「コイツとは俺が話をする」


「…き、危険です」


「良いから下がってろ」

「減給するぞ」


「っ…」


恐る恐る、ナースや野次馬達は下がり、やがて扉が閉められる


「…やりすぎだ」


「これが俺のやり方だ」


「…もう、お前が面倒見なきゃなんねぇガキでもねぇだろ」

「そいつを殺す気か?」


「死んでも構わん」

「どのみちだ」


「…お前」


「コイツは、もう生きてる意味がない」

「魂のねぇ木偶人形だ」


「…だが、生きてる」

「お前の教育だが何だか知らんが、俺の目の黒いうちは患者を殺させるのを許すつもりはねぇ」


「……教育、か」

「教育は見込みのある生徒にするモンだ」

「人形に教育するほど、俺は甘くねぇよ」


「……じゃぁ、何でここに居る」


「神無に頼まれただけだ」


「…神無に?」


「白月を救ってやってくれ、とな」

「アイツが頭を下げに来る程だ」

「俺も、やってみようとは思ったが…」

「…まさか、人形の教育を頼まれていたとはな」


「…人形に暴行してんじゃねぇよ」

「新手の趣味か?」


「自分の生んだ不細工品は自分で片す」

「それだけだ」


「……出て行け」

「俺がテメーの片付け方にブチ切れねぇ前にな」


「…貴様は昔から、甘い」

「決断力に欠ける」


「人間性に溢れてんだよ」


「…フン」


クォンは振り返ることなく、特別治療室を去って行く

院長は目元を掌で覆いつくし、ただ静かに俯いていた



読んでいただきありがとうございました

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