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秋鋼  作者: MTL2
391/600

BOXとシーサー

軍本部


45F総督執務室


「…懐かしい、椅子だ」


哀愁に満ちた表情で、神無は黒い椅子を撫でる

過去に己が腰を預けた黒椅子

もう、座るはずの無かった椅子に


「御復帰、おめでとうございます」


「やめてください、アウロラ」

「…私はここに座るべきではないのに」


「それを言われるのでしたら、私もここに立つべき人間ではありません」

「白月 霙のほうが適任でしょう」


「そちらはクォンに任せています」

「彼なら安心でしょう」


「…無礼を承知でお聞かせ願いたいのですが」


「何です?」


「軍病院の院長と、ロ・クォン」

「そして神無様のご関係は?」


「…過去を詮索しますか」


「私の興味本位です」

「無礼を承知を上ですので、ご機嫌を損ねたのならば何なりと処断を」


「いえいえ、まさか」

「…そうですね」

「気分を紛らわせる意でも、少し昔話をしましょうか」


神無は椅子に腰を沈め窓の方を向く

瓦礫が撤去され、再建が行われている地下街を眺めて唇を動かせる


「…孤児院がありましたよ」

「私と藤登はそこで出会いました」

「貴方達とも、ね」


「…はい」


「初めて会った彼は、酷く変質的でしたよ」


「やはりですか」


「え、えぇ、まぁ…」

「しかし、人としては立派な物でしたよ、彼は」

「学業面でも私が勝てた事はありませんでしたから」


「…それは意外ですね」


「おや、彼は素晴らしい頭脳の持ち主ですよ?」

「…性癖は反比例しますが」


「…そうでしょうね」


「私と彼は軍学校へ入学しました」

「そこでクォンに出会いましたね」

「彼は長い歴史を持つ六天崩拳継承者です」


「六天崩拳ですか」


「体術専門ですね」

「いやはや、模擬戦で彼に勝てた事は一度も無い」

「…機械系統は圧勝でしたけどね」


「彼は機械に弱いですね」


「軍学校に来るまでは、ずっと山籠もりで修行していたそうなので」

「何もかも全てが手作業だったそうですよ」


「では、どうして軍学校に?」


「軍への戦力としての加入を依頼されたそうですね」

「彼等は戦闘専門の門派でしたから、そこに目を付けられたのでしょう」


「なるほど」


「私は指揮学科に、院長が医学科に、ロ・クォンは戦闘学科に進みました」

「それぞれが好成績を収め、それなりに仲も良かったのですよ」

「最近は皆が忙しく、呑み合う暇すらありませんが」

「…偶には皆で呑み合いたいですね」


「…際ですか」


「と、まぁ」

「こんな所でしょう」

「私の昔話なんて平凡な物ですよ」


申し訳なさそうに神無は苦笑する

アウロラは一礼し「ありがとうございました」と呟く


「おっと、それよりも仕事です」

「白月が帰ってきた時に楽が出来るようにしないといけませんね」

「アウロラ、資料を」


「はい、承知しました」


神無へと渡される1枚の資料

そこにはある男の顔写真が載っていた


「…これは」


「裏切り者と思しき男です」

「証拠は軒並み揃っています」

「ご判断を」


資料へ目を通し、その男の罪状を見ていく

ため息をついて資料をアウロラへと戻し、小さく呟いた


「…彼の、処遇は」




軍病院


待合室


「……」


「…BOXか」


柱にもたれ掛かるBOXに、シーサーは声をかける

雨雲の件での傷は殆ど治っており、手には丸められた雑誌が持たれている


「シーサーではないか」

「どうしたのだ?」


「…能力検査の為に、外出許可を取りに来た」

「…尤も、順番待ちだが」

「…貴様の方は、どうした」

「…珍しく沈んでいる様だが」


「…うむ」

「私は弱い、と思ってな」


「…弱い、か」

「…確かに貴様は弱い」

「…戦闘力は秋鋼の火星と同等だ」

「…いや、総合的には遙かに下だな」


「…あぁ、そうだろう」

「私は彼のような技術はない」

「ただ、愚直に殴打という行為しかとれない」


「…確か、貴様は元傭兵だろう?」

「…少しぐらいの兵器は使えるのではないか」


BOXは手袋を外し、シーサーに掌を見せる

生々しい焼け跡と縫い傷

とても、人の手とは思えない惨状だった


「…そういう事か」


「とても兵器を扱える状態では無いのだ」


「…貴様は、正義と言っていたな」

「…正義とは何だ?」


「正義とは、正しい義と書く」

「正しく誰かを思いやり、守る」

「道徳心であり高潔心であり大義心である」

「それが正義だ」


「…では、何故に貴様は正義のヒーローと名乗る?」


「それを最も簡単に表しているが故に、私はヒーローと名乗っているのだよ」

「老若男女、誰にでも通じるが故にな」


「…ふむ」

「…随分と奇妙だな」


「奇妙?」


「…貴様は、過去に幾人も殺しただろう」

「…それでいてヒーローを名乗るのか」


「…その通りだ」

「過去の過ちは消せない」

「だが、未来の過ちならば回避できよう?」


「…ふむ」

「…過去は関係無い、と」


「関係なくなどはない」

「ただ、それを気にしても仕方が無いというだけだ」


「…貴様らしい、答えだ」

「…何処かの青二才にも聞かせてやりたい物だな」


「む?雨雲は青二才ではないぞ!」


「…別段、奴を青二才と言った覚えはないがな」

「…貴様自体がそう判断してくれるのならば嬉しい話だ」


シーサーは低く静かにククッと口元を緩める

腹黒い笑いを前に、BOXは肩を落とす


「貴方はもう少し、冷静な人間かと思っていたのだがな」


「…俺ほど、感情に溢れる人間が他に居るか?」


「貴方が感情溢れる人間ならば、世界中の人間は感情が大洪水だ」


「…何だ、こんなジョークも真に受けるのか」


「貴方がジョークを言うとジョークに聞こえん!!」


「…そうか」

「…ふむ、この本は役に立たんな」


「何を持っているかと思えば…」

「…そんなに語学の勉強がしたいのかね?」


「…いや、何」

「…言葉はコミュニティーを築く物だろう」

「…俺も、少し学ぼうかと思ってな」


「いや、だがしかし…」

「…その雑誌は間違いだろう?」

「若者向けの雑誌ではないか」


「…西締に勧められたのだが」


「確実に騙されていると思うぞ!?」


「…あの女狐め」

「…磔にしてくれる」


「お、恐ろしい事を言うのだな…」


「…いっつあめりかんじょーくだ」


「…少なくともアメリカンではないと思うぞ」


「…ジョークなど面倒なだけだな」


シーサーの片手前に黒い穴が出現

ゴミ箱に捨てるように、彼は雑誌をその中へと放り込む


「ご、ゴミ箱か?」


「…この穴は俺の能力で生み出した物だ」

「…中には巨大な倉庫が有る」

「…そこに兵器や機器を入れている」


「…ゴミなど捨てて、大丈夫なのか?」


「…年末は大掃除だ」


「それこそジョークだな…」


「…ふむ」

「…なるほど」


「メモ用紙など、いつ用意した?」


「…四次元ポケッ」


「それ以上はいけない」




読んでいただきありがとうございました

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