雷神
最早、臓物の詰まった肉袋となった男からNo,1は手を引き抜く
血が奔出し、鉄珠の黒衣を赤黒く染めていく
「虚漸ッ……」
「テメェ!No,1ン!!」
「何だ?何か問題があったのか」
「コイツを殺しても、我々の計画には何の支障もあるまい」
「だからって…!コイツはお前の生みの親なんじゃねぇのかよ!!」
「それを!こんな簡単に…!!」
「…何か、勘違いをしていないか」
「コイツは親とは言え、子を捨てた」
「そんな親に同情する子供が何処に居るという」
「でも親だろ!?」
「お前の家族だろうがッ…!」
「家族?家族!」
「笑わせてくれるなよ!!」
「コイツは所詮高々、逃げた人間だ!!」
「何も守らず!全てを見捨て!逃げた!!」
「弱い人間だ!!」
「捨てたと言うのなら!!」
「あの人達もそうだって言うのか!!」
「…あの人達は」
一度は口を開くが、彼は物悲しげに唇を閉じる
鉄珠に背を向けて、ただ小さく呟く
「俺の…、唯一の家族だ」
「あの人達のためなら、俺はなんでもする」
「あの人達が……、俺にとって最も大切な人だ」
「過去も現在も」
「……未来も」
「ならば……!」
「…!」
「生きていたのか、虚漸」
「ならば…!貴様はッ…!」
「どうして…!軍につくっ……!?」
「…それを」
「あの人達が望んだからだ」
地面が陥没し、ひれ伏していた男は灰燼と化す
驚然に駆られる鉄珠を後に、No,1は雷柱を破って外へと歩んでいった
観覧車
「ぬえぇえぇえええええええいっっぃいいぃぃいいいああああああッッッ!!」
豪声と共に、天之川の全身に衝撃が走る
ノアの雷を纏った巨拳が天之川を直撃し、彼の小柄な体を吹き飛ばしたのだ
「ごぁあっっっっ!!」
鉄骨に跳ね、跳ね、跳ねる
華奢な体の骨が折れ曲がり血が噴き出て鉄骨に叩き付けられる
「やはり、青い」
「今まで能力に頼ってきたか?」
剛雷を発する男を前に、天之川は態勢を立て直す
しかし体が思うように動かず、地面に這いつくばってしまう
「ぐっぁっ……!!」
おかしい
俺の攻撃が当たってないワケじゃない
タフネスなどでは説明できないほどの耐久力
この男は痛覚が無いのか!?
いや、痛覚が無いにしろ、有り得ない
俺の攻撃で体の各部を貫通している
筋肉を焼き切っているんだ
動ける事自体が不可思議極まりないはず
…いや、待て
どうして動ける?
筋肉は能力で強化しているとして説明が付く
神経は?
能力強化にも限度はある
神経伝達信号が途中で途切れるはずだ
ならば何故、動ける?
…伝達
神経信号?
「…そういう、事か」
先程までの苦痛の叫びが嘘のように、天之川は立ち上がる
ノアの目に驚愕の色が現れる
「驚いたのぅ」
「まさか、理解したのか」
「簡単な事だ」
「神経伝達信号も、所詮は[信号]」
「ならば雷で応用すれば良い」
「それを実行するとは驚きじゃな」
「まぁ、楽しめて良い」
いつもの豪快な笑いが鉄骨の回転車を振動させる
不機嫌そうに天之川が眉をしかめ、掌に雷電を溜める
「雷道ッッ!」
ノアまで直線的に伸びた雷の道
天之川は鋭く、低く屈み込む
直感
長く、戦場で生きてきた男の直感
(ーーーーーーー……来る)
「雷尖!!」
視界情報を断絶
光を置き去りにした雷速
ノアは不動
否、動けない
「ーーーーーーッ」
感覚神経の神経伝達速度を急激に最大まで強化
残像程度で捕らえた男は、己の腹に掌を添えている
(捕らえたーーーーー……ッッ!!)
確実な感触
ノアと同じように強化した己の掌撃は、斬撃にも等しい
幾ら鍛えた体だろうと、属性強化した体だろうと
質は俺の方が遙かに上
貫けぬハズが無い
「取ったッッ!!」
「否、取った」
べぎんっ
己の右腕が弾け飛ぶ
眼球が空を舞う腕を追うが、やがて視界から消え失せていく
「…ッ!」
「不動雷塊」
「貴様は己のスピードで腕を折り」
「さらには振り抜いた事で千切り取ったのじゃよ」
冷徹な、老兵の目が天之川を見下す
それは先の陽気な老兵ではなく戦場の化け物
命を喰らう化け物の目だった
「片腕を失った」
「さて、どうする?」
激痛に満たされた天之川の表情
しかし、彼の食い縛られた唇は次第に緩んでいく
「経験など」
「才能の前には無意味」
ノアの肉臓物を貫く雷撃
「がァっっっ!?」
天之川からは発せられていない
完全な背後からの攻撃
「覚悟の前には無意味」
ノアの血走った眼球が雷撃を発した正体を捉える
先程、天之川より千切り取られた片腕が雷撃を発していたのだ
「片腕を犠牲にしてまでっ…!?」
「否!千切り取れた片腕さえもッ…!!」
「貴様の行いは全て」
「無意味ィイイイイイイイ!!!」
天之川の右肩より、雷で生成された歪な腕が生まれ出る
元来の腕を遙かに超した規模の雷腕は乱喜に満ちた天之川自身の顔を照らす
「[天光雷神]ッッッッッ!!!」
発狂にも近い絶叫
天之川の雷腕の規模が数倍、数十倍、数百倍へと跳ね上がっていく
「何じゃとォ……!?」
「どうして俺が、ここを戦場に選んだと思うゥ!?」
「理由は簡単!至極簡単ッッ!!」
「この!九華梨テーマパークこそが!」
「九華梨町全ての電気コードを通しているからだッッッッッッ!!」
背後を顧みるノア
九華梨町の電気がドミノ倒しが如く消えていき、全てが鉄骨の回転車を通して
1人の男へと集まっていく
「電力を全てかき集めたか…!」
「どうするッ!?ノア・ゼルディギスッッッ!!」
「No,5ゥウウウゥウウウウウウウウ!!!」
雷神が如き
否
雷神が己の腕を振り下ろす
それは最早
技にあらず
攻撃にあらず
雷撃にあらず
純粋な
一撃必殺
「天雷破轟拳」
それを迎撃するノアの拳撃
恐らく、鉄骨の回転車など一撃で吹き飛ばすであろう威力
だがしかし、それでも
天之川の天光雷神には匹敵せぬ威力
「クハハッハハハハッハハハッハハハァアアアアアアアアアア!!」
狂乱狂気狂騒
少年の面影は無く
最早、化け物と化した男の狂笑
振り下ろされる雷神の一撃は全てを破壊圧砕崩滅
止めることなど敵わぬ、一撃
「ならば止めぬ」
ノアの拳は撃ち抜かれるのではなく
その雷腕を受け止める
「無駄だァッッッ!!」
「止めれると思うのかァアアアアアアアアアア!!!」
「止めぬのだ」
轟音
全てを破壊し、大気を揺らし、鼓膜を裂く程の轟音
それと共に天之川の天光雷神は消え失せた
「…はっ」
「終わりじゃよ、小僧」
振り抜かれた拳
天之川の内蔵を抉り抜いた一撃は
背後の湾境すらも打ち抜いた
読んでいただきありがとうございました
早いことで、もう一周年になります
物語も終盤に入って参りました
これからも、ご愛読のほど宜しく御願いします