生への執着
「んな馬鹿デケー銃で[狩り]?」
「笑わせてくれるじゃねーか」
「やってみなくちゃ解らんだろうが」
「狙撃銃ってのはな、狙撃するから狙撃銃なんだ」
「テメーのは大砲だろーが」
「狙撃銃は遠距離から獲物を一発で仕留める銃だ」
「確かに、これは大砲かもな」
「だが…、大砲の威力に狙撃の正確さが加わればどうなる?」
「…馬鹿か?」
「確実に狙いを定める暇を与えると思ってんのか」
「与えて貰わなきゃ困る」
「俺はこれを運ぶことも、持ち上げる事も出来ないんだからな」
「ハッ!それで、どうするってんだ」
「そこから撃つのか?」
「ご名答」
HD-2513の銃口が発光
小児ほどの弾丸を噴出し、反動を受ける
反動により刻の体が数十cm後退する
「ッッッッッッカッ!!」
昕霧は弾丸に向かって[音槍]を発動
巨大な弾丸に亀裂が走るが、構わず昕霧へと突貫する
「[音砲弾]ッッッッッッッッ!!」
[音槍]を遙かに上回る威力の砲撃
弾丸は拉げ、爆発する
「なっっ!?」
破壊された弾丸より、さらに数百を超える鉄球が噴出
咄嗟に[音防御]を発動するが、数発が二の腕、太ももを掠める
「装填速度は3秒」
「全手動だからこその速さだ」
刻の両端に設置された弾丸
何十発と、巨壁が如くそびえ立つ
「予め仕込んで置いた甲斐があった」
「さぁ?どうする」
「No,4」
「避けりゃー良い話だろーが!!」
昕霧は急速に右方に逃避
それを待っていたと言わんばかりに刻は懐から別の銃を取り出す
「しまーーーーーー…ッッッッ!!!」
「[狩り]は能を使ってやるもんだ」
「実技学習はタメになったか?」
発砲される銃弾
昕霧は咄嗟に[音防御]を発動するが、弾丸は音の壁を貫通する
弾丸は昕霧の左肺を貫通
彼女の口から血が吐き出され、酸素が急速に減少する
「おぉあああああががっがあああっっ…!ァアアアア!!!」
「お前の能力発動条件は解ってる…」
「肺を破壊すりゃ良いだけだ」
「っっがはぁ…!!」
迂闊!
迂闊だった!!
銃を使う、と言う点でNo,2直属部下の唄巳と同じと思っていた!!
だが違う!断じて違う!!
刻と唄巳の決定的な違い
それは能力者か、そうではないか
そして
生への執念
唄巳は能力があるが故に何かしらの薬を使用した
脅威だった、アレは
無限能力の発動
だがしかし、所詮は捨て身
No,4である昕霧を殺す為の犠牲
己は死んでも良いという特攻
その決意こそが徒となって昕霧を生かした
だが、刻は違う
能力はなく、身体能力もない
ただ、銃
それだけ
戦っていて解るのだ
奴の生への恐るべき執念を
口先?
恐怖?
道徳?
違う
そんな物ではない
恐らく、何人よりも超越した生への執念
戦場における、最大の武器
たった一発の弾丸すら致死に至らしめるため
たった一発の弾丸すら必殺の技術とするため
たった一発の弾丸すら生命を絶するするため
確実に、集中し、絶対的に
生への道へ
死への道へ
「死ねるか」
「こんな所で」
己の絶叫にかき消されるはずの、小さな声
それを確実に昕霧の耳は捕らえた
「俺は、まだ」
「教え子達を残してんだ」
「口先だけで言っても、やっぱり諦めらんねェ」
「アイツ等ぁ残して死ねっかよ」
「まだ卒業証書すら渡してねぇんだ」
数百の弾丸
刻の轟々たる咆哮と共にHD-2513が回転
昕霧に向けられる
「装填」
「[無]ッッッッ!!」
「撃ィィィィイイッッッッッッッッ!!!!!」
お化け屋敷前
--------ンッッ
「な、な!?」
「…凄い爆音、ですね」
「どうしたんでしょう?」
「鉄珠さんと大家さんの居る所から、じゃないですね…」
「ジェットコースターの方から…?」
「…」
(あの方向は昕霧様の居る……)
「…茶柱さん?」
「…いいえ」
「急ぎましょう」
「早く、ノアさんの援護に行かないと」
「は、はい!」
広場
「…全く持って」
「理解できない」
「しろよ…、馬鹿じゃないんだから」
鉄珠の四肢を壁に縫い付ける刃
ぶらんと宙吊りにも等しい形で貼り付けられ、喉元に白刃を突き付けられている
「これでもう、邪魔はできまい」
「…そう思うか?」
「だろうな」
「お前はこの程度ではない」
「ったく、悪い冗談だ」
「俺に戦闘能力ないの知ってんだろ-」
「邪魔するからだ」
「何故、邪魔をした?」
「ま、色々とね」
「…良い機会だ」
「目的は何だ?」
「何の事だか?」
「恍けるな」
「貴様が我々の仲間の振りをしているのは百も承知」
「それを[核]が庇うから今まで捨て置いただけだ」
「…あー、道理で」
「お前の視線が熱いと思ってたんだ」
「妙な言い方をするな」
「貴様は何者だ?」
「軍の人間か?秋鋼の人間か?俺達の仲間か?」
「…うーん、答えに悩む」
「…蒼空は、観察対象だ」
「貴様が常に守ってくれいた」
「それについては感謝もしているし、俺も疑いはない」
「だからこそ、先は邪魔するなと願ったのだ」
「だが、それでも貴様は俺の前に立ちはだかった」
「戦闘の意思も無しに」
「時間稼ぎのために、だ」
「…流石、鋭い」
「世辞は良い」
「目的は何だ、と聞いている」
「…目的ねぇ?」
「俺の邪魔をしたのも」
「今回、蒼空をここに連れてきたのも」
「貴様が俺達の仲間として居続けたのも」
「何かの目的の為だろうが」
「言って、どうする?」
「決死の覚悟でここに来てんのに」
「決死、か」
「果たしてそうか?」
「…やっぱ、か」
「…決死など、下らん」
「俺は生きたい」
「刻も、ハアラも」
「そして多分……、天之川も」
「はぁ、生への執着はハンパないのね」
「当然だ」
「真実を知って、俺は生きる」
「生への執着だけで真実を?」
「お前の知っている……」
「解っているさ」
「俺が知っているのは所詮、過去だと」
「これからは知らない」
「それに、俺が真実を知りたいのは生への執着からだけではない」
「興味からでもある」
「興味だけで知る、と?」
「忘れたのか」
「俺は元々、研究者だ」
「…はぁ」
「どうしてこう、研究者ってのは…」
「…全く」
「フン、俺は貪欲だからな」
「だなぁ」
ずぶっ
「…なん」
「無駄口を叩くな」
「貴様の立場は解っているのか?」
「きっっっ……!!っさまぁ……!!」
驚愕に見開かれた目が、自身の腹に視線を落とす
細い腕に貫かれた腹からは、臓物と血液が大量に落下していた
「虚漸っ……!!」
「ど…う!して…!!」
「貴様が来ると言うからだ」
「目的は達成したがな」
「じゅっうぃ…ちにん……!め……!!」
「No,……ァ…1…ンンン……!!」
読んでいただきありがとうございました