雷柱
九華梨テーマパーク
「聞こえるか?」
『あぁ、聞こえるぜ』
『同じく聞こえます』
『こちらも聞こえるぞ』
『聞こえている』
闇夜に反響する5つの機械音
テーマパークの門前で銃弾を装填する火星は、観覧車の上に人影を捕らえる
「皆、テーマパークの中には潜入したな?」
『あぁ、全員、間違いなくのぅ』
「12時…、00分」
「…これより、天之川 夜空討伐作戦を開始する」
悲歎の混じった声に「了解」と返信が帰ってくる
鉛の銃弾を飲み込んだ道具が火星の手に収まった
九華梨湾付近
「外部は守護、ね」
「…織鶴さん」
「何?彩愛」
「あの…、この前は失礼しました…」
「はぁ、気にしなくて良いわよ」
「らしくないわね」
「…いえ、織鶴さんに失礼な口を」
「だから気にしなくて良い、ってば」
「確かに鉄珠の行動は誰にも明かしてないから、疑われても仕方が無いからね」
「…あの、鉄珠は」
「初めて秋鋼に入ったんですよね?」
「そうだけど?」
「どうして…、入れたんですか」
「…それは」
織鶴達、外部守護の耳を貫く轟音
振り返った織鶴の目に映ったのは天を貫く巨大な雷柱
「なんっっ…!?」
雷柱は巨大な外壁となり、テーマパークと外界を断絶する
周囲を日昼が如く輝かす光の柱が織鶴達の視界の色を白くする
「雷柱…ッ!」
「こんなの、能力で産める代物じゃないでしょう!?」
「あまりに巨大すぎる!!」
「…彩愛」
「勘違い、しちゃ駄目よ」
織鶴の目が雷柱を睨み付ける
「敵は天之川 夜空」
「天才と呼ばれた属性系統、雷属性使い最強の男よ」
九華梨テーマパーク
入り口門前
「…っ!…っ!!」
火星の背部分が焦げる
ぷすぷすと空気の抜ける音と焦げ臭い匂いは放ち、服は黒く染まっている
「嘘だろ…?こんな広範囲に、この威力で…!?」
「この壁は彼が死ぬまで消えませんよ」
「!」
「つまり、誰にも邪魔できず」
「誰も出られない」
「ハアラ・パピヨン…!」
「貴方の相手は私です」
「お手柔らかに」
ジェットコースター付近
「デケー雷柱だな」
「あぁ、全く」
「末恐ろしいガキだ」
「末恐ろしくなんかねーよ」
「どうせ、今日ここで死ぬ」
「調子に乗ってくれるなよ、No,4」
「教え子を殺させる教師が居ると思うかね?」
「来いよ、刻 海渉」
「裏切り者は裏切り者らしく消してやる」
「面白い」
「期待して良いんだな?」
刻は背より巨大な銃を取り出す
そして腰元からは巨大な銃の3分の1もないような小型の銃を
「行くぞ、No,4」
「[鷹]の狩りを見るが良い」
広場
「…始まった、か」
「えぇ、そのようで」
自らの頬から滴る血液を袖で拭う茶柱
「貴方と当たるとは思ってもみませんでした」
「査阿さん」
「昔の名だ」
「今は虚漸という」
「名前なんて、簡単に変える物じゃないですよ?」
「これは恩人から貰った名前でな」
「前の名は咎と共に捨てた」
「咎?」
「あぁ、そうだ」
「人を殺め続けた俺の咎だ」
「…そうですか」
「他人の信条に口出ししても無駄だという事は私もよく解っているので、詳しくは聞きませんよ」
ため息混じりに茶柱は息を吐く
信念を宿す人間など、腐るほど見てきたのだから
「それにしても、貴方を相手取りたくはなかったですね」
「無能力者にしてはあまりに厄介すぎる」
喋りながらも、ナイフを懐から取り出し、虚漸へと向ける
それに対し虚漸は柄の無い刀を取り出す
「いざ[銃剣]虚漸」
「参る」
-----------!
「…何です?」
「何?」
--------ぁああ
「何か、聞こえませんか」
「何を…」
「ああああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!」
ガシャァアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!
「「!?」」
2人の間に、割って入るように影が降ってくる
地面を砕き割った影はのそりと起き上がる
「死ぬかと思った☆」
「馬鹿だ!アンタ馬鹿だろ!!」
「いやさぁ?あんな壁が出来るとは思わなかったし」
「あのまま、あそこに居たら灰だぜ?」
「そうだけど!なんで飛ぶんだよ!?」
「死ぬだろうが!!」
「死ななかったから良いじゃん?」
「馬鹿かッッッッ!!!」
波斗の首筋に走る冷感
冷気を帯びた金属の刃が、彼の頸動脈へと当てられる
「…どうして、来た?」
「今までの家賃を払いに来ました…!!」
「何を馬鹿な…」
「帰れ!貴様の来る所ではないッッ!!」
虚漸の手から刃が弾き飛ばされ、地面へと落ちる
白い歯を見せて笑う鉄珠の手には短刀が握られていた
「まぁ、そう言うなって」
「折角テーマパークに来たんだ」
「遊ばせてやろーじゃねぇの?」
「どういうつもりだッ…!鉄珠ァ……!!」
「別に?」
「茶柱-!コイツは俺が相手する!!」
「ノアの加勢に行ってやってくれ!!」
「し、しかし!」
「貴方だけでは…!!」
「大丈夫大丈夫!」
「死にそうになったら逃げるから!!」
軽快に笑う鉄珠
茶柱は迷いながらも、踵を返す
「行きましょう、蒼空君」
「…ちょっと、待ってください」
波斗は立ち止まり、虚漸の方を向く
真っ直ぐな瞳で彼を見つめ、口を開く
「まだッッ!恩返しさせて貰ってませんからねッッッ!!」
「死んだら許しませんよッッッ!!!」
「鉄珠さんも!死んだら命令無視のこと、織鶴さんにチクりますからねッッッ!!」
広場に響き渡る叫び声
鉄珠と虚漸は目を丸くして、ただ呆然と立ち尽くす
「いいいいいいいいい以ぃ上ッッッッッッッ!!!!」
最後の雄叫びを残し、波斗は茶柱と共に走り去っていく
残された2人は暫くの制止のあと、互いに顔を見つめる
「…ぷっ」
「くっく」
「「くはははっはははっはははっはははは!!!」」
愉快な笑い声
2人は涙が浮かぶほど笑い、息を切らす
「全く…!笑わせてくれる…!!」
「ぎゃははっははははっはは!腹痛ぇええええ!!」
長く笑い転げ、2人はようやく笑うのをやめる
「…良い、子供だ」
「よく育ってくれた」
「全く…、将来はお笑い芸人かねェ?」
「…鉄珠よ」
「俺は、あの子を止めなければならない」
「…」
「あの子が進めば、必ず絶望を味わってしまう」
「希望を失ってしまう」
「俺には…、それが耐えられないんだ」
「…駄目だな」
「俺はお前を行かせられない」
「どうしても、か?」
「あぁ、どうしても」
「…そうか」
「残念だ」
虚漸の両の手に握られる剣
柄の無い刀に鉄珠は違和感を覚える
「…銃剣、か」
「本気だな」
「あぁ、本気だ」
「貴様はもう仲間ではない」
「…そうだな」
「こっちも、本気でいこうか」
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