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秋鋼  作者: MTL2
372/600

奪った命

「未熟児…?」


「…白羽さんと、美穹は夫婦でした」

「蒼空 白羽さんと秋雨 美穹さん」

「2人は籍を入れて蒼空となりました」


「…秋雨、って」


「そこまで知っているのならば、話は早いですね…」

「…過去に、昔話の事ですが」

秋雨アキサメ 紅葉アカバという少年が居ました」

「それが…」


「憑神を依り代にした少年、ね…」


「そういう事です」

「秋雨 美穹さんと布瀬川 蜂木さんは遠い親族に当たりますね」


「…なるほどねぇ」

「で、未熟児ってのは?」


「…白羽さんと美穹さんには子供が居ました」

「しかし、美穹さんはお体が弱く子供を産めなかった」

「それでも院長の協力もあって、どうにか産めたのですが…」

「……出産、数分後に息を引き取りました」

「あまりに、体のパーツが少なすぎたのです」


「…聞きたいんだけどさ」

「どうして、それと創世計画に関係が…?」


「…2人は、本来元老院に与えるはずだった[陽]の力を蒼空 波斗に与えたのですよ」


「それって…」


「えぇ、無断です」

「元老院としても許しがたいことだったのでしょうね」

「本来、12人の実験台を抑えるための力を盗まれたのですから」


「それで裏切ったと…?」


「えぇ、そうです」


「…でも、さ」

「研究者とは言え、所詮は一般人…」

「普通…、そんなのやった時点で処罰されるでしょ…」


「軍転覆事件」


「…あぁ、そういう事ね」


「そうです」

「彼等からすれば、蒼空君は家族です」

「そして白羽さんと美穹さんは両親に等しい」


「だから、協力した…」


「…私や院長、神無総帥も無視状態でした」

「そして、虚漸さんはその時同じく裏切った」


「…虚漸」


「貴方も、過去に別の研究で協同的に作業を行ったはずです」


「…まぁね」

「彼の強さも、優秀さも知ってるから…」


「その、軍転覆事件では12人の憑神の依り代が反逆した」

「全てを超越する力を持った12人に、能力者が勝てるはずも無い」

「[夢喰][闇紋][塵滅][空飛][模範][絶壁][透目][正悪][全知][掌脚][拒絶][斬撃]」

「これ等が陰の12の能力です」

「Noは全滅させられ、他の兵士達も同じく壊滅に追い込まれた」

「しかし…、11人目である現No,1が裏切った」


「…どうして?」


首を振る奇怪神

馬常は肩を落とす


「そして、失敗作も出てきて、3人を覗く9人は死亡した」

「白羽さん、美穹さん、虚漸さんは逃亡しました」

「そして3人のバムト、雅堂、祭峰も同じく逃亡したのです」


「失敗作、って誰?」

「No,1が強いのは解るけどさ…、流石にバムトと祭峰を倒せるとは思えない」


「[不死]」


「…?」


「それが、彼の能力なんです」


「死なない、って事?」


「ええ、そうです」

「その部分では13人目である蒼空君も同じですが」

「他の12人も[無型]があります」

「不死に近しいと言っても過言ではないでしょうね」


「…だけど、失敗作は完全に[不死]なんだ?」


「そうです」


「それで…、どうして失敗作なの?」


「…目、ですよ」


「目?」


「隻眼なのです」


「…[隻眼]って」


「失敗作は[不死]故に、ずっと生きています」

「いつから、かは記録すら残っていない程に」


「…強い、んだよね」


「えぇ、強い」

「私も直接、見た事はないですが…」

「…今までの要人を消して来たのは彼です」

「無論、蒼空君の両親をも」


「…そっか」

「じゃぁ、能力者狩りってのは彼等を殺す為に起こしたカモフラージュ?」


「そこまでは解りません」

「私も、あれが始まる前に軍を抜けましたから」

「だけれど、それだけの目的の為にあんな騒動を起こすとは思えない」

「何か、裏が有るはずです」


「ふーん…」

「失敗作とNo,1」

「そして能力者狩りか…」

「裏切りの理由も知っておきたい所だねぇ…」


「…馬常さん」


「ん?」


「恐らく、貴方はもう目を付けられています」

「元老院でなくとも過去を隠蔽したい者は多い」

「これ以上の行動を起こせば…」


「解ってるよ…」

「…解ってる」


「貴方まで、ゼロさんと同じ運命を辿るのですか!?」

「もう!これ以上、私は死者を増やしたくない!!」


「逃げるんだねぇ…、そうやって」


「………っっ!?」


「過去に君は何人殺したのかな…」

「13人の実験台とは言うけれど…、それは成功した数だよねぇ」

「それに…[化獣]」

「これも知ってるはずだけど?」


「ッッッ……」


奇怪神の表情が酷く歪む

唇を噛み締め、手が赤く滲む程に握る


「あの子を育ててるのは…、罪滅ぼし?」

「化獣を産みだし続けた貴方の罪を滅ぼす為かな…?」


「…その話は、関係無いでしょう」


「うん…、結局は創世計画の[オマケ]だからねぇ」

「人体に、人工的に混合能力を埋め込む実験…」

「しかも、それは幼児にしか出来ないんだよね…」


「…えぇ、そうです」

「体が出来ている状態では、能力が馴染まない」

「ですから、体の組織が不安定な幼児か胎児でなければ実験できません」


「非人道的なんてレベルじゃない…」

「…ま、実験なんてそんな物かな」

「貴方はその実験の総責任者だったんでしょ?」


「えぇ、そうです」

「創世計画に関わる計画の総責任者は私でした」


「…何人、犠牲にしたの?」

「その創世計画全般でさ……」


「…6000です」


「6000人かぁ…」


「…いいえ、違います」

「6000万人です」


馬常の目が驚愕に見開かれ、喉元から息が漏れる

酷く悲しそうな奇怪神を見て、再び目を細める


「…それは、驚いたね」


「各国から罪人や、戸籍を持たない人間を集めました」

「方法までは知りませんが…、彼等は何も知りませんでしたよ」

「泣き叫び、喚き散らし、絶望して死んでいった」

「あの光景は…、今でも夢に見ます」


「…あの子は」

「狼亞ちゃん、だっけ」

「どうして生きてるのかな…」

「化獣となった子供は全て処分されたんだよね…」

「…創世計画で人ならざらぬ物となった人達も」


「…狼亞は、私が引き取りました」

「唯一の成功体ですから」


「成功体?」

「それでも、完全にはコントロールできてないみたいだけど…」


「それが、化獣を実用化に至らしめなかった理由です」

「彼等は不安定だった」

「身体面での性能は人体の技術と動物の攻撃力で、素晴らしい物でした」

「しかし、それ相応のリスクも含んだのです」

「…当然、と言えばそうなのかも知れない」

「本来は1人1つである能力を2つ混ぜて体に入れるのです」

「身体面の強化は出来ても、それに人体が耐えられるはずも無かった」

「況してや、能力を慣らすためとは言え幼子」

「能力による病気などに対する免疫も無く…、次々と死んでいきましたよ」

「母胎も、ね」


「…その実験に抵抗は?」


「私は…、あの時」

「人道よりも己の探求を優先したのです」

「その結果がこれだ」

「逃げて山奥でひっそりと暮らす」

「自己満足の生活を送り、常に逃げ続けている」

「良い笑いものだ」


奇怪神の目に自責の色が灯る

さらに俯いて、両の手を強く合わせる


「…俺は笑うのが得意じゃないけどね」

「笑えるなら大笑いしてるよ…」


馬常は無表情に答える


「解ってるんだよね…、全部」

「自己満足だって事も、非情だったって事も、自分の愚かさの事も」

「全部解ってるんだよね…」

「…だからこそ」

「タチが悪い」


眉を歪め、眉間に皺を作る

声は重々しさを増し、憎悪を含む


「それならば…、何も知らず、何も感じない悪人ならば良かった」

「全てを己の為に費やす外道なら良かった」

「気の狂った狂者なら良かった」

「だけど、貴方は」

「善人で道徳者で正常者だ」

「だからこそ…、タチが悪い」


「…えぇ、そうですね」

「私は多くの人を殺した」

「それなのに、のうのうと笑って生きている」

「私は、何なんでしょうね」


「さぁ…?俺に聞かないで欲しいかな…」

「ただ、貴方は愚か者だって事ぐらいしか解らないよ…」


椅子を引いて馬常は立ち上がる

奇怪神は俯いたまま、彼に問いかける


「…どうするつもりですか」


「どうにも」

「バレたらそこまでだよねぇ…」


「…命が」

「惜しくはないのですか?」


「…生憎、ね」

「俺は自分が生きてるなんて思ってないんだ…」

「…和美を殺したあの日から」


「…続けるのですか」

「探求し続けるのですか」


「勿論」

「もう…、捨てても良い命だ」


「捨てて良い命などない!」


「殺して良い命はあるんだ?」


「ッッ……!!」


扉が開き、馬常が外光の中へと消えていく

奇怪神はただ、己の過ちを悔いていた



読んでいただきありがとうございました

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