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秋鋼  作者: MTL2
370/600

少女の決意


カランカラーン


「…えっと?」


「あ…、お邪魔してます…」


「どうも…」

「あの、織鶴さんは?」


「10分ぐらいフリーズした後、お店の奥に…」


「あ…、そうでしたか」

「夕夏さん、でしたね?」


「は、はい」


「今日は何のご用件で?」


「あ、そうでした」

「蔵波が見つかったのでご報告に」


「…あぁ、見つかったんですか」


「それで、その」

「御礼金をですね…」


「要りませんよ」


「え?」


「蒼空から聞いた話では、見つけたと言うより戻ってきたのでしょう?」

「私達の行いは直接的には関与してませんし、料金はいただきません」

「…と、織鶴さんなら言うでしょうね」


「で、でも…」


「その机上にあるのは?」


「…ケーキです」


「では、それが料金ですね」

「ご利用ありがとうございました」


「…良いんでしょうか?」


「良いですよ」

「これからもご贔屓に」


「…ありがとうございました!」


「いえいえ」

「今日はお1人で?」


「桜見ちゃんと来てたんですけど…、火星って人と出て行っちゃって」


「出て行った?」


「えぇ、織鶴さんと火星さんのキ」


「ストオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッップ!!!」


「あ、織鶴さん」


「ストップ、ストップよ、夕夏ちゃん」


「…あ、はい」


「何がです?織鶴さん」

「「火星とキ」って何を?」

「………まさか」


「違う!違うわよ!?」

「KILLしようとしてたのよ!?」


「殺そうとしてたんですか!?」


「いつもの事です」


「いつもの事なんですか!?」


「まぁ、キスなんて初めてですがね」


「キスじゃないわよ!!」


「あ、火星」


「ふにゅっっ!?」


「…」


「…」


「う」

「うわぁあああああああああああああああああああ!!」


「「あ、逃げた」」







森草の家


prrrrr


「…」


「どうですカ?」


「駄目、繋がらない」

「馬常さん何処に行ったんだろう…」



ピンポーン


「お客さん?」


「私が出てきまス」


玄関へと駆けていくセント

彼女が扉を開けた瞬間、影が彼女を覆い隠す


「失礼する」


「エ?」


高身長の男が家の中へ上がり込む

セントの隣を通り過ぎ、森草の前へと進む


「森草 蜜柑だな?」


「え、えぇ、そうです」


「俺はソルナ・キューブ」

「ロンドン支部よりウェスタ・ガーディアン支部長の使いで参った」


「ソルナ・キューブって[守護神]ノ!?」


「今は使いで参っただけだ」

「立ち位置は気にしなくて良い」


「え、っと」

「そのソルナさんは何のご用で…?」


「支部長から伝言だ」

「覚悟して聞いて欲しい」


「…はい」


「わ、解りましタ」


「「こちらで独自に調査し、ゼロの件を全て調べ上げた」」

「「その結果、俺自身も信じたくないのだがゼロは裏切り者で確定することになる」」


「ッ…!」


「「総督の件よりも以前に奴は軍の最上級秘密事項を詮索していたんだ」」

「「これで過去何人の軍関係者が消されたかは言うまでもないだろう」」

「「さらに、総督暗殺時にゲートを開いたのは」」

「「試験時にゲートを開いたコードはNo,3のものであるという事が確定した」」

「「能力や痕跡、全てからして…、No,3ゼロが裏切り者という事は間違いない」」

「「これからして、本格的にNo,3対策本部が始動する」」

「「同住人であった君達にも被害が及ぶかもしれない」」

「「充分に注意して欲しい」」

「…と、こんな所だ」


言葉を失う森草

絶望の色が脳内に渦巻き、彼女を苦しめる


だが、彼女以上に苦しんでいる存在があった


「…セント、さん」


「……」


苦痛と、悲嘆と、失意


3つの絶望が入り交じり彼女を深淵へと突き落とす


「…言いにくい事だが」

「裏切り者の関係者は、あまり良い目では見られない」

「ましてや直属部下や同住人となるとな」

「それに、今回は事が事だ」

「総督暗殺や大量の被害者を出した試験時も関わってくるとなると…」


「ソルナさん!!」


「…事実だ」


苦々しくソルナが言い捨てる

森草は言い返せず、ただ俯く


「今まで、関係者が裏切り者の恨みを向けられた事も珍しくない」

「その点に関してはお前達には馬常 轡や元No,4率いる秋鋼もいる」

「心配ないとは思うが…」


その言葉を最後に、彼女達に沈黙が訪れる

かつて、この家に住んでいた男が

自分達が頼ってきた男が


裏切ったのだ


「っ……」


胃の奥底から、不快感が上がってくるのが解る

自分が、この現実を受け入れられていないのも解る


だからこそ


「それでモ」

「私は信じまス」


信じよう

私は彼を信じる


「…己を苦しめるだけだぞ」


「構いませン」


「No,3を信じる者は少ないとは言えない」

「彼は今まで軍を支えてきた人物だからな」

「だが、それ以上に彼を恨む人間も多いはずだ」

「総督は軍のトップだったし、皆からも慕われていた」

「ゼロを信じるのは…、勧めない」


ソルナの表情も苦々しく歪む


「苦痛を自らを享受するのか」


「私が愛して人が罪を成すのなら、私はそれを享受しまス」


少女の決意をソルナは感じ取る


「…」


頑固として動かない岩を動かすのは愚行、か

だが、この少女はどれ程までに苦しむのだろう?


己の意思は堅い

堅く、己を支え、導く


然れど、それが崩れれば

何も己を守ってくれない


「…苦痛は」

「その苦しみは、いつかお前自身を襲う」

「それに耐えられるのか?」

「いいや、耐えたとしても…、生きていけるのか」


「それが、私の人生なラ」


動くことはない

この少女を動かすのは、例え最たる戦士でも不可能だろう


「…突き通す、か」

「強固だな」


「信念ですからネ」


「…はぁ、そうか」

「全く…、どうして、こう女という物は…」


一瞬、フロラの顔が頭に浮かぶ

疲労の色を露わにして頭を振り、その光景をかき消す


「…そろそろ、軍に戻らなければな」

「何か、困ったことがあれば連絡してくれ」

「人手が足りないというのであれば、ベルアやクロルをそちらに寄越す」


「あ、ありがとうございます」


「俺は天之川討伐があるから、もうここには来れない」

「何か聞いておきたい事はあるか?」


「いえ、特にハ」


「…あの」


「何だ?」


「天之川討伐は…、どうなってますか?」


「…No,5、No,4、茶柱 栗東、火星 太陽」

「そして俺が討伐対として任命された」

「勝てるか、と言われれば難しいが…」

「相手も決して無傷ではいられまいよ」


「…そう、ですか」


「どうした?」


「…いえ」

「ありがとうございました…」


力無く、森草は項垂れる

その光景を妙に思いながらも、ソルナは森草の家を後にした




読んでいただきありがとうございました

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