創世計画
アパート
波斗の部屋
「…で?」
「俺の悩みを聞いてくれるんだって?」
「急に態度でかくなったな…」
「…まぁ、良いけれども」
「鍵も閉めたし、窓も閉めた」
「これで逃げられねぇだろ」
「わ、私に何をするの!!」
「えっちな事!?」
「いつもみたいに逃げるだろ」
「…」
「…聞かせてくれ」
「俺は何だ?」
「大雑把な質問だことで」
「答えるけども」
茶菓子の袋を開け、口へと運ぶ
ボリボリとかみ砕いて茶で流し込む
「…昔、な」
「ある男が実験を行った」
「ほら?漫画とかで有るでしょ」
「人間を生き返らせる、ってな」
「それを行ったのがー…」
「…創世計画」
「そうそう」
「俺もお前も、それの実験体だ」
「…アンタも、ツクラレタモノなのか?」
「いいや?俺は違うよ」
「俺は元々人間でさ、妹を追っていったら捕まっちゃってさー!」
「彼女には嫌われるわ存在は消されるわ殺されそうになるわで…」
「…!?」
「…ん?どったの」
「彼女…!居たのか…!!」
「あぁ、お前のよく知ってる」
「彩愛がな」
波斗の口から祭峰の顔面に勢いよく茶が噴出される
びっしょりと濡れ、半切れ気味の祭峰は立ち上がり「帰る」と呟く
「待て!俺が悪かった!!」
「って言うか!お前は変なこと言うからだろ!!」
「だって事実ですしー」
「…マジ?」
「マジ」
「…うわ」
「ま、今じゃ別れたけどな」
「俺が死んだんだから当たり前か」
「…死んだ?」
「そう、死んだ」
「俺達はその[人間を生き返らせる]計画の実験台だ」
「そんで俺は5人目」
「軍のNo,1が11人目で…」
「…お前が最後の13人目だ」
「予定外の、例外だ」
「…どういう事だよ」
「No,1まで…!!」
「…雅堂、って覚えてるか?」
「…雅堂?」
「雅堂…」
「…五眼衆の?」
「そう、憤怒の雅堂」
「奴は3人目だ」
「そしてお前がロンドンで戦ったバムト・ボルデクス」
「奴は2人目」
「…そして、お前が夢で会った女」
「奴が1人目」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
「何で俺の知ってる奴ばっかり…!?」
「解らないのか?」
「…え?」
「俺もそうだ」
「No,1も、雅堂も、バムトも、あの女も…」
「お前に会ったんだぞ?」
「…偶然、じゃない?」
「全ては仕組まれた事なのさ」
「お前が織鶴と会ったことも、能力に目覚めたことも」
「時は、動き出した」
「どういう事だ!?」
「俺達は血縁者なのさ」
「昔話のカミサマの血のな」
「カミサマ…?」
「憑神さ」
「生命を操るカミサマ」
「だから、生き返らせるって事か…!」
「そう、ご明察」
「俺達は[無型]っつ-、血を体ン中に入れられてるんだ」
「治癒力もそのせいだ」
「何か、覚えがあるだろ?」
「…治癒は」
「だけど…、人は?」
「人は生き返らせる事が出来るのか?」
「…それは解らない」
「俺とお前は違うからな」
「陰と陽、か」
「…何で、そこまで知ってる?」
「俺の…、知り合いに」
「…虚漸」
「いいや、査阿か」
「…お前、知ってるな?」
「まぁねー」
「それも悩みの原因か」
「…あぁ」
「その話は…、後だ」
「今は何よりも、創世計画について知りたい」
「…ま、良いぜ」
「俺もその為に来た」
「…教えてくれ」
「俺は人間なのか」
「それともバケモノなのか」
「バケモノだ」
「っ!」
「…気にしてるんだろ」
「…あぁ」
「気になんかしなくて良い」
「お前がバケモノだったとして、何だ?」
「お前の周囲はお前がバケモノだからって離れていくのか?」
「違うだろ?」
「…あぁ、そうだ」
「皆…、良い人だから…」
「…だったら止めろ」
「…え?」
「3日後」
「天之川が九華梨テーマパークで反乱を起こす」
「!!」
「止めろ」
「今のお前なら止められる」
「…無理だ」
波斗はズボンの強く握る
爪が布に食い込むほど、鈍々しい痛みが走るほどに
「俺は…、弱い…」
「能力だって…、落とし穴を作るぐらいで…」
「そりゃ、お前が馬鹿だからだ」
「お前の能力は始祖だぞ?」
「[創造]は始祖の能力だ」
「…どう使え、ってんだ」
「お前の中に、有るだろ?」
「本来は存在しない力が」
「…力」
「拳、出してみろ」
「…?」
波斗は恐る恐る祭峰に拳を突き出す
その拳を掴み、祭峰は小さく呟く
「…出て来い、バカ妹」
閃光が波斗と祭峰を包む
眩いそれは全てを包み込み、視界を染め尽くす
「っ…?」
「はい、お疲れさん」
「…何だったんだ?今のは」
「お前は俺達と会う度に能力を増す」
「それは扉を開けるからだ」
「扉…?」
「…その、創世計画でな」
「[元]となった女は望まなかったんだよ」
「その計画を」
「だからこそ、逃げる為に時限式にした」
「…お前の、妹さんか?」
「あぁ、いや?」
「俺の妹は1人目だから」
「で、その女は全てを無に帰すために」
「全てを無かった事にするために策を講じた」
「それが俺達の計画だ」
「…計画、か」
「俺はずっと…、蚊帳の外だったのか?」
「今は中じゃん」
「俺がどれだけ…」
「…お前の両親から頼まれてんだ」
「文句言うな」
「…あぁ、制作者か」
「違う」
「両親だ」
「…俺は人間じゃないんだろ?」
「言っただろ」
「人間かどうかなんて、どうでも良いんだ」
「…お前の記憶は偽物か?」
「…作られたんだろ」
「いいや、違う」
「お前の両親が殺されたのは…、軍を裏切ったからだ」
「どうして…?」
「…そりゃぁ、お前」
「自分らの息子可愛さにだろ?」
「言ってたっけな」
「親の愛情に敵う物はない、って」
「…俺の両親?」
「俺の両親でもある」
祭峰は真っ白な歯を見せて微笑む
まるで親しい友人に微笑むように
まるで親しい家族に微笑むように
「…っと、来たか」
窓を開け、外をのぞき見る
重武装の兵士達が周囲を包囲し、突撃の準備をしているのだ
「時間だから帰るわ」
玄関のドアノブに手をかける祭峰
扉を開けようとする彼を波斗が呼び止める
「ま、待ってくれ!」
「何だ?もう時間がねーんだけど」
「最後に!最後に教えてくれ!!」
「何で、お前は俺に情報を…!?」
「…そりゃー、お前」
吐きかけた言葉を戻し、祭峰は小さく微笑む
「…じゃぁな」
「愚弟」
閉まる扉
外からの銃声の後、祭峰の大笑い声が響く
「…愚弟、か」
家族
居たのか…、俺に
「…なーんだ」
悩んでた俺が…、バカみてぇじゃないか…
読んでいただきありがとうございました