忌まわしく
九華梨病院
395号室
「いやー、はっはっは」
「まさか通り魔に襲われるとはなー」
「うっせぇ馬鹿!!」
「本気で心配したんだぞ!!」
「いやな?桜見が好きそうなモン探して一人旅してたんだ」
「携帯が途中でぶっ壊れちまってよ-!」
「やっとの思いで帰ってくりゃコレだぜ!!」
「いやぁ!大変大変!!」
「うるせぇ…、馬鹿ぁ…」
「本気で…、私っ…、ぇぐっ…、心配した…」
「な、泣くなよ!」
「俺はお前の泣き顔よりも、笑った顔の方が好きなんだから」
「うるせぇよ…、馬鹿ぁ……」
「泣くなってば」
「綺麗な顔に宝石は蛇足だ」
「うるせぇ……ぇぐっ、ひぐっ」
「ほら、お前の好きなストラップ」
「兎ちゃんだ」
「こんな所で出すなぁああああああああああ!!!」
病室外
「…この夫婦漫才、いつ終わるの?」
「「さぁ?」」
軍本部
45F総督執務室
「…さて」
「皆に集まって貰ったのは他でも無い」
「天之川討伐についてじゃ」
総督椅子に座るノアの眼前には重暗な表情を浮かべる面々
腕を組んで椅子に腰を沈める昕霧
その隣で姿勢を正す茶柱
同じく姿勢を正すソルナ
そして、ソファに座す火星だった
「…何だ、この面子は」
「私と茶柱は解るが、火星はなんだよ」
「あぁ、俺は無理言って加えて貰ったんだ」
「火星は戦闘面はともかく、情報面や白兵戦にも使える」
「戦力としては申し分なかろう?」
「…ま、そりゃそーだがよ」
「織鶴さんは加えなかったのですか?」
「うむぅ、断られてしもうてな」
「昕霧に響 元導を呼ぶようにたのでおいたハズじゃが?」
「連絡着かねーんだよ、うっせーな」
「そ、そんなにイラつかないでください、昕霧様」
「…淑女としての品格に欠けるな」
「うっせーよ、ソルナ」
「何でテメーが居んだ」
「支部長が私を寄越した」
「向こうは防衛準備が整ったのでな」
「…チッ、そうかよ」
「…お前等」
「良いか、五紋章争奪戦でNoは疲弊」
「総督の件もあって、軍は今人手が圧倒的に足りぬのだ」
「今回の火星とソルナの参戦には感謝したい」
「…ノア」
「テメー、その腕は天之川とやって負傷したっつーじゃねーか」
「勝てんのか」
「…勝てる、と断言は出来ぬ」
「いいや、勝率は低かろうな」
「私はお前よりもNo順位は上だ」
「だがな、私よりもお前の方が勝率は高い」
「…うむ、解っておる」
「…えっと、だな」
「話し中、悪いんだが」
恐る恐る手を挙げる火星
全員の視線が彼に向く
「天之川の相手をだな…」
「俺に任せてくれないか?」
深海のように音が止む
全員が目を点にして、口を開ける
「…あ、あの?火星さん」
「聞き間違いでしょうか」
「いや…、聞き間違いではないかなー…?」
「…火星」
「貴様は能力者だったか?」
「いや…、無能力者だ」
「…あー、何だ?」
「ついに、あのクソ織鶴のせいでおかしくなったか?」
「まだ大丈夫だろ…、多分」
「…何故じゃ?火星」
「俺さ、天之川が蒼空君と一緒に居た頃に会ってるんだ」
「なんて言うか、その…」
「改心させたい、などとは言うまいな?」
「奴を軍に帰した所で処罰は免れぬ」
「その仲間も等しく、じゃ」
「いいや、違う」
「俺の手で消したい」
「…ふむ」
「彼は、ずっと蒼空君を騙してた」
「どうしてなのか、それを聞きたい」
「はっきり言うぞ」
「無駄死にだ」
「解ってる」
「対策はしてるけど、無意味に近いかもしれない」
「…何故、そこまでするのですか?」
「私には到底、理解できません」
「理解してくれ、って方が無理かも知れないな」
「だけど…、これは」
「…うむ」
「皆、少し席を外してくれぬかのぅ?」
ノアは立ち上がり、背を伸ばす
皆が視線を交差させ、部屋から退出する
「…さて」
「火星、お前の言い分は解った」
「だが…、勝算はあるのか」
「…難しい、かな」
「院長に頼んで、避雷弾を作って貰ってる」
「だけど、気休めでしかならない」
「…お前」
「知ったな?」
「…流石」
「ノアには敵わないな」
火星は自らを嘲笑うように苦笑する
ノアの視線が火星を捕らえ、酷く睨み付けている
「何処で知った?」
「何を得た?」
「総督代理の前では言えないよ」
「…案ずるな」
「ワシも知っておる」
「表面上、だがのぅ」
「…お前」
「何、少し知れば残りは自ずと知れてくるというもの」
「簡単な事じゃ」
「…そうか」
「大方、アレについて天之川から聞き出そうとしておったのだろう?」
「…ま、否定はしない」
「阿呆め」
「奴が答えるはずがなかろう」
「だよなぁ…、あはは」
「まぁ、良い」
「どのみち奴の相手はさせぬ」
「あの事を聞くのはワシじゃ」
「…良いのか」
「目を付けられるぞ?」
「もう遅いわ!!」
ノアは豪快に笑う
火星はため息をつき、机上の珈琲を啜る
九華梨病院
395号室
「…蒼空か」
「丁度、良かった」
「お前に会いたかったんだよ」
病室のベットで半身を起こす蔵波
その隣には重々しい表情で立つ波斗と森草が居た
「…蔵波」
「見たのね?」
「…これからすると森草も、か」
「ったく、どうなってんだ」
くしゃくしゃと頭を掻きむしる蔵波
苦々しい表情で森草は彼を見つめる
「お前等、2人とも」
「熊谷について知ってんだな?」
「…あぁ」
「何なんだ、アレは」
「ずっと調べてた」
「アイツと行った場所も、何もかも」
「全部調べてたよ」
蔵波の手に握られたシーツが皺を作る
彼の眉間にも皺が浮かび、酷く困惑した表情になる
「写真も、学校の成績も、クラス名簿も」
「全部全部全部、偽装だった」
「偽装されてなかったのは、あの写真だけだったよ」
「…あの、幼稚園で見つけたのか」
「そうだ」
「誰も信用できなかったから、連絡は絶ってた」
「…悪い」
「苦労…、かけた」
「別にお前のせいじゃねぇだろ」
「それよりも、何だ?」
「お前達は何なんだ」
「あの、前にあった事件の時と同じなのか?」
「奇病っていう…」
「…詳しくは、言えない」
「だけど…、深くは関わりすぎない方が良い…」
「…はぁ、そうかよ」
「お前達はいつでもそうだな」
「背負い込みすぎだろ」
「…っ」
「俺も、アイツに貫かれた時は死ぬかと思った」
「そりゃー、怖ぇさ」
「だけどな」
「俺はお前達が誰も知らないトコで死ぬのが、もっと怖い」
「…俺も、お前に死んで欲しくないんだ」
「桜見も、親父さんも残して死ねないだろ?」
「テメーの友人を見捨ててまで生きたいと思う馬鹿が居るかよ」
吐き捨てた言葉は波斗の胸を貫く
彼が友人と呼ぶ人間は、今から殺し合いをするのだから
「…蔵波」
「連れて帰ってくるわ」
「…!」
「私が、責任を持って」
「連れて帰ってくる」
「…あの馬鹿」
「帰ってきたら説教だ」
「…えぇ、そうすると良いわ」
「委員長!!」
(良いのよ)
「…!?」
(私が、全ての責任を被れば良い)
(私が悪になれば良い)
(でも、それは…!!)
(…貴方に耐えれる?)
(…っ!)
(あの時の恩返し)
(だから、気にしなくて良いの)
(だけど、だけど…!!)
(…誰かが被らなきゃ駄目なの)
(それが、私だっただけ)
森草はそう言い、部屋を出て行く
ただ、残されたのは何も知らぬ少年と
無力な少年だけだった
読んでいただきありがとうございました