手紙
アパート
「大家さーん、ただいま戻りましたー」
「外が何かジメジメしてて、喉がカラカラ……」
「…って居ないし」
波斗がアパートに戻ったときには、もう大家は居なかった
ただ家のポストに自宅の鍵
そして、大家が書いた物であろう手紙だけが入っていた
「…何々?」
波斗は手紙を手に取り、水を飲みながら目を通していく
「「蒼空君へ」」
走り書きで書いてるから、読みにくいかも知れないけれどごめんね
少し急いでるんだよ、勘弁してね
「…確かに見にくいけど、まぁ見えるか」
実は急用…、だけど大切な用事ができてね
すぐに出て行かなくちゃならなくなったんだ
蒼空君の家の鍵はポストに、住宅の資料とかは私の部屋にあるからね
それで、これが本題なんだけど
君の両親について記しておきたい
「!」
波斗の手に思わず力が入り、紙が歪む
慌てて手を離し、紙を慎重に伸ばして続きを読む
君のお父さんは良い人だったよ
君とは性格が似ているかも知れないね
冗談好きで、よく周囲を笑わせる人だ
まぁ、偶に怒られることもあったけどね
君のお母さんは真面目な人だったよ
君とは料理の腕が似ているかも知れないね
よく、私が渡したきゅうりで君のお父さんと私のおつまみを作ってくれたものだ
君に教えた冷凍キュウリは君のお母さんの物だったんだよ
「…そうだったのか」
私は彼等と学友であり、実は仕事仲間でもあったんだ
ある実験で共に研究していた
「実験?」
実に下らない実験だったよ
君をあの実験に巻き込んでしまったことを、私は死ぬまで後悔し続けるだろう
「…どういう事だ?」
ごめんね
本当にごめん
謝っても、謝り足りない
ごめん、ごめん
涙に濡れた痕が紙から見て取れる
波斗が握りつぶした物ではない、紙の皺
査阿が、大家がどれほどまでに悔やんで書いたのかが解る痕に波斗は唇を噛み締める
巻き込んだ?
大家さんは、俺を巻き込んだのか?
どういう事だ?
俺は何に巻き込まれた?
どうして、大家さんがこれを知ってるんだ?
疑問と疑惑が体の中を渦めいていく
何故?どうして?何で?
大家さんは何だ?
俺は何だ?
俺の両親は何だ?
「…能力?」
辿り着くはずの無い、答え
否
辿り着いてはいけなかった答え
自分が奇跡と呼んでいた力
No,1に勝利したこと
13人目
時は動き出す
夢の女
希望
絶望の塊
一斑を生き返らせたこと
全てが繋がっていく
繋がるはずのない、バラバラのパーツが
全て、全て
「…俺は人間なのか?」
何を言っている?
俺は人間だろ
俺は
…待て
思い出せ
あの時
霊封寺で、俺は灯笠さんに何を聞いた?
霊封寺?
何だ?霊封寺って
霊封寺
偉そうな子供がいた
少女だ
ケーキを持って行った
一斑の護符術が便利だった
何で忘れてるんだよ
何で?何で?
そうだ、思い出せ
俺はあそこで何を見た?
そうだ、写真だ
写真、写真だ
誰が映っていた?
俺の両親が映っていたじゃないか
「蒼空 波斗…」
「お主は13人目じゃ」
「そして、お主の父は創世計画の副総責任者じゃった」
「お主の母は研究者で…」
「…夢の女とは[核]じゃ」
「全ては…」
「1つの、昔話から始まった」
「ある男が…、全てを…」
創世計画って何だよ
俺の父さんが責任者で、母さんが研究者?
夢の女は[核]?
全ては1つの昔話から?
昔話って何だ?
謎だ
謎、謎、謎
やめろよ
やめてくれ
謎って何だよ
俺は何だよ
何なんだよ!!
全ての疑問は
手紙の、次の文で打ち消された
君の両親は白羽さんと美穹さん
彼等は君の親であり
制作者だ
「え?」
制作者?
君は人であって人じゃない
君は本来、死に行く人間だった
だけれど、彼等は君を生かしたかったんだろう
だから計画に協力し、君の中に彼女の断片を埋め込んだ
陰と陽とでも言うべきかな
君の他の、12人は
いいや…、13人は陰
君は陽だ
例えるならば+と-
2つは正反対の存在だ
だけど同じ存在
全ては憑神から始まった
君は全ての原点
能力者の原点
[創造]の持ち主だ
「…[創造]?」
君は原点にして終点
全てが、もう始まっ---------
ビリッ
「…あっ」
先ほど、波斗が握りつぶしてしまったため、紙は千切れてしまう
さらに運悪く千切れた断片が置いていた水の中へと入っていく
「うわぁっ!!」
水を零すほどに急いで拾い上げるが、インクは滲み紙はびちゃびちゃに濡れてしまっている
「…嘘だろ」
最悪だ
肝心な所で
俺は何で、こう…
prrrrrrr
「…もしもし」
『蒼空か!?』
「…桜見?」
「悪いけど…、今は…」
『蔵波が!蔵波が見つかったんだよ!!』
「!!」
「何処だ!?何処に居る!!」
『解らない!見かけた、っていう情報を夕夏が手に入れて…』
『今からその周辺を探すんだ!来てくれ!!』
「…っ!」
波斗は一度、破れた手紙に目をやる
少し躊躇って扉へと足を踏み出すが、再び机の方向へと足を踏み出そうとする
『蒼空ッッッ!』
「ーーーーーーーーーーーーっっっあぁ!解った!!」
「場所を教えてくれ!今すぐ行く!!」
『九華梨ホテルの近くだ!』
『廃工場の裏手で待ってる!!』
「解った!!」
「今行くから待っててくれ!!」
『…頼む』
「任せろ!!」
読んでいただきありがとうございました