不祥
軍病院
「運べ運べ運べ!!」
「さっさとしろ!!!」
院内に響き渡る院長の怒号
車輪の金属音が響き渡り、酸素ボンベが送り出す空気の音が規則的に反響する
緊急手術室
「これより手術を開始する!!」
「抜かるな!大一番だぞ!!」
「しかし、この傷では…」
「黙れ!知った事か!!」
「人の命を救うのが俺等の仕事だろうが!!」
「医者が命を救わねぇで誰が救うってんだ!!」
「…っ」
「諦めるな!最後まで!!」
「開始!!!」
「「「了解!!」」」
緊急手術室前
「……」
「落ち着いたか」
「…布瀬川様は?」
「今、院長が手術してる」
「アイツなら助けるだろ」
「……はい」
白月は気鬱な表情を浮かべている
その隣ではクォンがベンチに座り、せわしなく脚を揺らす
「クォンさん」
「…布瀬川 蜂土か」
「話は聞いてるな?」
「…えぇ、はい」
「姉さんは?」
「今、緊急手術中だ」
「…正直言って、厳しい」
「そうですか」
「参列者に被害は?」
「ない」
「各Noや直属部下も気張ってくれたし、大丈夫だろう」
「…妙ですね」
「奇襲者の目的は姉さんだけだったのでしょうか?」
「有り得ない話でもねぇだろ」
「…ですか」
「?」
「どうして!そんなに平気でいられるのですか!?」
「白月!」
「貴方は!実の姉を刺されたのですよ!?」
「私は護衛にも関わらず!止められなかった!!」
「どうして、私を責めないのですか!!」
「責めてどうなります?」
「私は今、現状を考えなければならない」
「能力研究開発局局長として」
「軍関係者として」
「…総督の弟として」
「ッ!」
「それに」
「…姉の事を誰よりも悔やんでいる人を、誰が責められるというのですか」
「…っ」
「…すまんな、蜂土」
「いえ、気にしないでください」
「…」
扉が開き、虚ろな目をした院長が出てくる
白月は待ちわびたとばかりに院長の前に駆け出るが、院長は白月を無視しベンチに腰を下ろす
「…どうだったのです」
「…すまん」
「…そうですか」
たった、それだけの問答
だが、それが全てを物語っていた
「あ……」
白月は膝から崩れ落ちる
顔を掌で覆い尽くし、悲痛な叫びを挙げる
「…解りました」
「申し訳ありませんが私は席を外します」
「書類を処理しなければなりませんので」
「…すまん、すまん」
「謝らないでください」
「…仕方の無い事ですから」
そう言い残し、蜂土は病院から出て行く
残された3人は灯りに照らされ、ただ呆然と途方に暮れる
「…何が医者だ」
「何が医者だ!!」
「救えやしねぇ!!」
「たった!1人の女だぞ!!」
「たった1人の女すら救えねぇで何が医者だ!!」
「俺はッ…!俺は…!!」
「何が医者だってんだ…!!」
「…落ち着け、院長」
「落ち着け!?落ち着けだと!!」
「ふざけるな!俺は救えなかった!!」
「俺はッ……!!」
「畜生!畜生!!」
「俺はぁ…っ」
何も、できやしねぇ
畜生
自動販売機前
「…」
「布瀬川」
「…あぁ、織鶴さん」
「総督は?」
小さく首を横に振る蜂土
織鶴はそれを見て理解し、蜂土の隣に腰掛ける
「…そう」
「皮肉な事です」
「まさか、死について語った直後に本人が死ぬとは」
「…布瀬川」
「最後まで情けない姉でしたよ」
「白月さんに迷惑かけて、他の皆さんにも…」
「布瀬川」
「…死んだ」
「布瀬川!」
「解っています!!」
「…っ」
「解っていますよ!全て!!」
「あの人が全てを背負って死んだことも!あの人が最後まで笑っていたことも!!」
「知ってます!!」
「知ってるんです…!!」
「…総督は」
「ずっと、皆を支えてきた」
「皆の恨みも何もかも背負って」
「ずっと、ずっと、皆の前に立って」
「歩み続けてきた」
「…えぇ、そうです」
「だからこそ…、許せない」
「私は姉さんを殺した奴を許すことができない…っ!!」
「…そうね」
軍本部
30F大会議室
「…皆、集まって貰ったのは他でも無い」
「今回の事件についてだ」
重々しい表情で円卓を囲む各Noと支部長
円卓の主席にはNo,5であるノアが腰掛け、左右にウェスタとゴルドン
斜め左前にNo,4である昕霧が
斜め右前にはとNo,6であるソウが、さらに右には代理である千両が座っている
「つい先刻、クォンから連絡が入った」
「…総督が死んだそうじゃ」
ダンッッ!!
「…糞が」
「落ち着け、ウェスタ」
「…解ぁってる」
「犯人は内部の人間と見て間違いないじゃろう」
「ゲートは封鎖されたままだったし、警戒態勢での発見も無かった」
「俺の水覆膜にも反応が無かっタ」
「つまりは、ずっと中に居たという事ネ」
「私の音探知にも、不審な影はなかった」
「障害物が多い場所じゃ役に立ちゃしねーが、あそこは人ばかりだ」
「妙な動きをすれば速攻で解るが…、それも無い」
「…その理論で言うのでしたら、総督の近くに居て尚且つ怪しまれない人物ですね」
「その線は無かろうよ」
「白月も近くに着いて居った」
「奴が犯人など有り得ぬ」
「…だと、すると」
「昕霧の能力やソウの能力にすら反応しない速度で動くことが可能で」
「ゲートを開けられる人物、か」
「…居るだろう、1人」
ぼそりと呟くゴルドン
その言葉に対し、全員が反応する
「有り得ないだろう!?ゴルドン!!」
「だがな、ウェスタ」
「俺が思いつく限り…、可能なのは奴だけだ」
「それに本当に死んだという確証もないのだろう?」
「…有り得ねー」
「動機がねーだろうが」
「No,2の件もある」
「有り得ない話ではあるまい」
「…どうやってゲートをくぐっタ?」
「No権限もある」
「試験の時も何者かがゲートを開いたそうではないか」
「もし、奴がその時から裏切っていたとすれば…」
「…有り得ぬ話ではないな」
「ノア!」
「だがのぅ…」
prrrrrrr
「…む、すまん」
「誰じゃ?」
「……」
「…そうか、うむ」
「…解った」
ノアは携帯を閉じ、剛堅な体を持ち上げる
「今し方、クォンからの連絡があった」
「白月が落ち着きを取り戻し、犯人が解ったそうじゃ」
「よって、これと同時に犯人を能力犯罪者と認定する」
「…誰だ?」
「…今より」
「元No,3、ゼロを」
「最上級能力犯罪者とする」
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