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秋鋼  作者: MTL2
343/600

お守り

軍病院


屋上



「…曇りか、今日は」

「じめじめとした空気だな」


「全く、その通り的な」


雨雲と西締は手をかけ、体重を鉄格子へと預ける

降水確率60%の空は酷くどんよりとしている


「…雨雲」

「どうして、なんて言わない的な」

「でも…、もう絶対にこんな事はやめて欲しい的な」


「…あぁ、すまない」


目を伏せる雨雲

西締は悄悄な表情で下を見つめる


「今回の件、楓ちゃんには黙っておく的な」

「ただ、1つ」


「…何だ?」


乾いた響音

振り抜かれた西締の手と、弾かれた雨雲の顔

暫くの静寂の後、雨雲がゆっくりと視線を西締へと戻す


「…今のは、楓ちゃんの一発」

「そして私の、鎖基の、シーサーの一発的な」

「何回もは雨雲も反省してるから叩かない」

「だけど、この一発の意味を心に留めておいて欲しい的な」


「…あぁ、解った」

「充分に…、解った」


「…以上!今回の事はしゅーりょぉー!!」


西締は大きな声を発し、ブンブンと手を振る

雨雲はその姿を見て小さく笑う


「でも、お仕置きは別的な!」

「罰として今日は私と夜を」


「断る」


「……的なぁ」

「ちょっとぐらいな」


「断る」


「……強制的に」


パァンッッ!!


「痛いっっ!?」


「…何をしている」


「し、シーサー!」

「怪我は…!!」


「…大した事はない」

「…貴様はとっとと枯木 楓を迎えに行け」


「…ぶー、解った的なぁ」


膨れっ面の西締は渋々と扉から出て行く

雨雲はそれを確認し、空を見上げる


「降る…、か」


「…悲雨などとは言うまい」


「…あぁ」

「…片目、失ったんだな」


「…誰のせいだと思っている」

「…俺の目が赤ければ因縁を掛けられる所だった」


「洒落を言う程度の元気はあるらしい」


「…伊達に暗殺特務部隊隊長補佐ではない」

「…いいや、[元]と言うべきか」


「何?」


「…解任された」

「…許可無き戦闘、さらに負傷」

「…一応、相手は能力犯罪者組織という事にしておいたが」

「…その為、余計に評価が下げられたのだろう」

「…シビアな世界だからな、予想はしていた」


「どうして相手を…!」


「…貴様が裏切り者扱いになるのが良いなら訂正するが?」

「…尤も、俺としても貴様を敵に回すのは遠慮したい」

「…もう片方を潰されれば失業物だからな」


「…っ」


「…冗談を真に受けるな」

「…それよりも、だが」

「…明後日の集会にはNo,3の葬式には参席するのか」


「…あぁ、あれか」

「いいや、俺は出席にしない」

「鎖基と楓の元に着いておこうと思う」


「…そうか」

「…俺も出席は出来んな」

「…少し養生しなければ」


「傷の具合は…、どうなんだ」


「…片目以外は大した事はない」

「…貴様も、鎖基の炎にやられたそうだが」


「表面皮膚だけだ、焼けたのは」

「…既に満身創痍だったんだろう」

「あの技は捨て身の技だからな」


「…もし、貴様がもう少し斬り刻んでいれば」

「…鎖基は死んでいただろうがな」


「…だろうな」


「…さて、皮肉話はここまでだ」

「…俺は追われているので戻る」


「追われているのか?」


「…手術中に抜け出してきたからな」

「…麻酔で神経が鈍って仕方がない」


「早く戻るべきだと思うが」


「…そうだろうな」

「…それよりも、貴様に言っておくべき事がある」


「何だ?」


「…俺の、シーサーという名の意味だ」


「[魔除け]…、即ちお守りだ」

「守るという意味だろう」


「…何だ、知っていたのか」


「貴様が、まさか卯扇とは思わなかった」

「だが…、守るという意味は知っていた」


「…案外、昔の事は忘れない物だな」


「あぁ、全くだ」

「卯扇兄様?」


「…はっ、小僧め」



バタァーーーンッッ!!


「てんめぇええええええええ!シーーサァアアアアーーーー!!!」


「…院長か」


「馬鹿か!お前は馬鹿なのか!!あぁ、馬鹿だ!大馬鹿だね!!間違いなく100%もれなく絶対確実必然的に馬鹿だ!世界最高峰のNoも真っ青の馬鹿さだなァおい!!」


「…そこまで馬鹿ではないと思うが」


「腹に穴開けて全身斬り傷塗れ!その上、手術中でメスぶっ刺したまんま起き上がって逃走したテメェを馬鹿と言わず何と言う!?」


「シーサー…」


「…その程度の事で」


「程度ォオオオオオ!?ざっっけんなァ!!」

「テメーが死んだら後処理面倒!解るかド低脳!!」

「YES!?OK!?ドューユゥーアンダスタンッッ!?」


「…すまんな、英語は苦手だ」


「黙れクソがァアアアアアアアアアアア!!!」


「取り敢えず、手術に戻れ、シーサー」

「流石に院長の脳内血管が千切れそうだ」


「…面倒な」


「どーでも良いから戻れ!!」

「雨雲!テメーも検査受けろよ!!」


「そう怒鳴るな、院長」


「うるせぇー!こっちは五紋章争奪戦から寝てねぇんだよ!!」

「イライラもするってんだ!!」

「くっそーーーーー!ド淫乱ナース持って来ぉおおおおおおおおおおい!!!」


「…もしもし、茶柱か」

「…警察の仕事をしたくはないか」

「…あぁ、軍病院に変質者だがな」


「どうでも良いから、取り敢えず戻れ…」




万屋


「…以上です」


「…ふーん」

「大変だったのね」


「マジで焦りました…」


「…解ってるとは思うけど、この事は他言無用ね」

「雨雲を敵には回したくないでしょう」


「は、はい」

「…そう言えば、彩愛さんと鉄珠さんは?」


「今は蔵波君の情報を集めに外回り」

「そっちこそ火星はどうしたのよ」


「何か、用事があるとか…」

「すぐに帰ってくるそうですよ」


「…そう、解ったわ」

「帰ってきたらお仕置きね」


(また火星さんの断末魔が……)













旧雨雲邸


「おーおー、酷いね」


焼き崩れた木材の上を歩く男

その男が歩く度に灰燼が飛び散り、それで男はむせ返る


「うぇっっー…、ちょっと口に入った」


「何してるんだ」


「あぁ、火星か」

「久しぶりだな」


「…あぁ、久しぶりだな」

「祭峰」


「あぁ、久しぶり」


「五紋章争奪戦は終わったらしいが?」


「別に?まぁ、色々とあったんだよ」

「こっちも大打撃だ」


「…そうか」


「さて、本題に入ろうか」


「ん?」


火星の口腔に走る衝撃

激しい嗚咽感と、全身が刀で貫かれたような衝撃

手足が猛烈に痺れ意識は遙か彼方へと飛んでいく


「ッッッッ…………」


「はい、起きろ」


祭峰のビンタ

火星の意識が引っ張られるように急速に戻って来る

一瞬の困惑の後、何度も吐き、咽せ返す


「ーーーーぇぁああああッッッ!!!」


「キツいけど頑張れよ」

「それを飲み込まなきゃ、お前の願いは叶えられんねぇぞ」


「ーーーーーッ!!」

「っっががぁあっががっがああああああ!!!」


山中に谺する悲鳴

叫激の果てに火星は木材へと激しく頭を激突させる


「ってぇええ!!」


「いや、そりゃ痛いだろ」


「……あぁ、糞」

「こんな苦しいのか…」


「それ相応のモンだからな」

「ま、いきなり押し込んだのは悪かったよ」


反省の色も見えず笑う祭峰

火星は乱れた呼吸を整えながら祭峰に問いかける


「これで、出来るんだな」


「あぁ、出来る」

「…本来は俺の役割なんだけどな」


「俺の方が確実なんだろ?」

「アイツの為なら何だってやるさ」


「尽くすねぇ」


「あぁ、当然だ」

「俺の恩人だからな」




読んでいただきありがとうございました

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