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秋鋼  作者: MTL2
342/600

雨雲VS鎖基


旧雨雲邸



語らう事はない

ただ、貴様は何故、今になって?


会ったからか?卯琉と


ただ、それだけで全てをしてる覚悟を決めたというのか


ならぬ


決してそれだけは


貴様は生きねばならない


貴様を慕う者は多々居る

それは我も、楓とて例外にあらず


希望、とでも言い訳しようか


我はあの時、卯琉達と共に貴様の一族を、我等が一族を潰したとき


後悔したのだ


何と情けなき事だろうか


決して、それだけはせぬと心に決めておいたのに

全てを捨てる覚悟をしたというのに



貴様は強い

無能力者でNoに匹敵する強さを持ち

その美貌や剣技の才能

我が持たぬ全てを持っている


なのに


なのに、だ


貴様は弱い

無能力者でNoに匹敵する強さを持つにも関わらず

その美貌や剣技の才能にもかかわらず

我が持つ全てを持たないのだ


貴様は過去を認めず、未だに逃げ続けている

それが正しいのかどうかなど、我には微塵も理解できぬ


だが、貴様はそれで生きてきた

いつしか来るであろう、この時を我は解っていたのだ

だが、それでも我は目を逸らしてきた


必ず、貴様なら

貴様なら乗り越えてくれると


我等3人で、また

あの楽しき時が過ごせるだろうと信じていた


信じたかったのだ


我は、ただ信じたかった


貴様の、時折見せるその背中からも目を逸らし続けてきた

悲歎に満ちた目からも、我はただ逃げ続けてきた


その結果がこれだ


貴様は兄と慕った者を殺そうとし

仲間だった我すらも本気で殺しに来ている


もう、戻れぬのか

あの時には


我は楽しかった


貴様の[卯琉を探す]という名分の旅は、いつしか我等の生き方になっていった


ただ、何も無い道を

ただ、途方に暮れ歩く道を

ただ、笑い会いながら歩く道が


何よりも楽しかった


ただ、我等はもう

笑いながら道を歩くことすら出来ぬのだろうか






天を舞う刀

鎖基の拳撃により雨雲の手が上に弾かれたのだ


「…ッ!」


「炎拳欧練!!」


「無刀斬撃・薙払」


激突する拳と拳

骨骨の衝突する音が響き渡り、周囲に骨肉の音を散らす


「ぬぐぅっっっ…!!!」

「ぇぇぇぇええええええええええええええええいっっっっ!!!」


しかし、単純な力比べならば鎖基の方が遙かに上

雨雲の拳撃を押し切り、そのまま拳を顔面へと突打させる

だが雨雲は咄嗟にそれを回避

速度を保ち水面蹴りを繰り出す

鎖基は飛んで回避するが、腹部に衝撃

雨雲の水面蹴りは囮で、構えていた左腕が腹部へと直撃したのだ


「ぐぅむっっ…!!」


呻き声と共に鎖基の内部からミシミシと音が鳴り渡る

雨雲は構わず鎖基を踏み台にし、天井に突き刺さった刀を握る

刀は天井から抜かれ、柄が鎖基の頭上に激突

一瞬、鎖基の目前が白く染まるが歯を食いしばり意識を戻す


次に襲ってきたのは激痛

鋸を擦るかのように、肩に白刃が添えられ斬り剃られていく


「時雨」


頑丈な腹部を掻き分ける刃

血管と肉を貫き背まで通り、傷口からは鮮血が飛散する


「貴様の能力も[嘘]だったのだな」

「火を纏う能力だったのか」


「…我の発動条件は」


チリッ


「!」


「肉体の脆鈍化…」

「傷により、痛みを感じぬ」

「だが…、体は脆くなる」


刃を握る掌

ぎちりと刃が肉を裂く音

鎖基の眼光は雨雲を捕らえ放さない


「我は逃げぬ」

「だから、貴様も立ち向かえ」


「立ち向かう物すら無い、俺に何を言う」


「…そうか」












「炎獄煉燎」














屋敷は燃える

燎原の火のごとく


何もかも


燃えて

燃えて燃えて燃えて燃えて


燃やし尽くす












玄関前



「…何だよ、これ」

「先刻の火柱の比じゃないぞ…!!」


「…炎獄煉燎」

「鎖基の必殺技的な」


「必殺技…!」


「周囲の物を全て焼き尽くす煉獄の炎」

「決して逃れる事の出来ない技…」

「…あれで、鎖基は鎖基一族を燃やし尽くした的な」


「自分の一族を…!」


「…やった事が間違っていたとも正しいとも私は思わない的な」

「でも、後悔だけはしていない的な」


「後悔してないのなら、ここには来ないだろ」


「…それもそうかも知れない的な」



私は、まだ

何処かで……












旧雨雲邸




「全てを無かった事にするなど出来ぬ」

「ただ、前を向いて向き合って生きていくしか無いのだ」


「…」


「我は、過去を捨ててなどいない」

「ただ前に向かって進むのみだ」

「それしか出来んのだよ」

「馬鹿だからな」


「…鎖基」


「貴様は、何を目指しどう生きていくのか」

「それを見直せ」

「…ただ、我にはそうとしか言えぬ」


「…それ以上、喋れば死ぬぞ」


鎖基の腹部に開いた風穴

傷口は焼けて止血されているものの、もう虫の息である


「…気にするな!」

「我は死なぬ!決してな!!」

「貴様が生かすであろう!!」


「…言わなかったか」

「俺は…」


「ならぬ」


「!」


「言うな、決して」

「貴様は生きろ」

「我は再び、楓と貴様と笑いながら歩きたい」

「だから、言うな」


「…それは無理という物だろう」


「無理でも何でも通せ!」

「これは我の命令だ!」


「…どうして、貴様は」


「仲間だからだ」

「異論は認めぬ」


「…俺はシーサーを殺そうとしたんだぞ」


「だから何だ?」

「奴は死なぬさ、死なん」

「貴様程度に殺されるのであれば…、疾うに死んで居ろう」


豪快に笑い飛ばす鎖基

焼け野原と化したそこに、ただ男の笑い声だけが響き渡る



「…何もかも、焼き尽くした」

「何もかもだ」


「…あぁ、そうだな」


「貴様の過去までは焼き尽くせぬ」

「だから、斬れ」

「斬るのだ、過去を、我を」

「さすれば貴様は過去を捨てられるのだろう」

「斬るが良い」

「我は思いを胸に死のう」

「だから、貴様は楓を、西締を、シーサーと共に居よ」

「それが我の最後の頼みだ」


「…後悔は」


「無い!!!」


「…そうか」



振り上げられる刀

雨雲は鎖基へと狙いを定め、刀を振り下ろす















カンッ



「…出来ない」

「出来るはずが無い!!!」


「…あぁ、だろうな」

「だからこその貴様だ」


「…解っていたのか」


「そう思うか?」

「我は馬鹿だぞ」


「…あぁ、それも」

「そうかも知れないな…」



過去を忘れる事など出来ない

だから、だから


俺はコイツ等と共に向いていくべきなのだろう





読んでいただきありがとうございました

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