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秋鋼  作者: MTL2
340/600

3家の末路

雨雲家


玄関前



「…あ」


「どうした?卯琉」


「忘れ物しちゃった!」

「取りに行ってくるね!」


「う、卯琉!」


卯月の制止も聞かず、卯琉は元来た道を戻って行ってしまう

健気に駆けていく少女を卯月は止めなかった




山道


「…名前だけでは、何かは解らない的な!」


「うむ!酉兜殿の言う通りだ!!」

「それだけでは何も解らんぞ!!」


「…趣味は悪いが、これは我が一族の者より盗み聞きんだ事だ」

「…「若は生け贄だ、これで再び我等が一族は恩恵を受けられる」」

「…「西締家と鎖基家の双方も同意してくれている、なんと有り難き事か」」

「…「若の命で再び我等は軍の頂点に立つ3家になれる」と」


「…!」


「…俺の聞き間違いかも知れないし、勘違いかも知れない」

「…だが、確かにここ最近の我が一族の動きは不穏すぎた」

「…貴様等の一族はどうだ?」


「確かに、最近は大人達が騒いでた的な!」

「でも、それは…」


「…我が父も絡んで居るのだろうな!」

「そうであれば我が直々に滅そうではないか!!」


「わ、私は反対的な!」

「事実かどうかなんて解らないし、私達だけじゃ…!」


「出来るよ」


「「「!」」」


「私達だったら出来る」


「う、卯琉ちゃん…?」


「…戻ってきたのか」


「父上もね、母上も」

「皆殺せば良い」

「簡単だよ?私達は身内だもん」

「後ろから刺し殺せば良い」


卯琉から感じる只ならぬ殺気

つい先刻までの可憐な少女が放っているとは到底、思えないほどのそれは卯扇達の背筋を凍らせる


「…卯琉」


「お兄ちゃんを見殺しになんてしないよね?」


にっこりと花のような微笑み

少女がお礼を言うような、可憐な笑み


しかし、口から吐き出されるのは毒蜂


「…」


嫌悪感を顔へと表す卯扇

酉兜は慌てふためき、弓道は顔を酷くしかめている


「…俺は何も言えぬ」

「…これが事実かどうかなど判断できんのだ」


「逃げるんだ?」


「…否定はしない」


「我は反対だ!」

「いくら何でも情報が少なすぎるだろう!」


「…西締お姉ちゃんは?」


「わ、私はっ……」


どうする?


決まっている

情報が少なすぎるし、確定的な証拠も無い

卯扇の思い違いの可能性が高い

そうだ、有り得ない

誇り高き雨雲一族の長が自らの息子を軍に差し出すなんて

有り得ない、有り得るはずが無い


だけど


だけど、もし


もし、もし


もし、それが…


本当だったら?




「わ、私は…」




「何をしているのです?」


「「「!」」」


「…母上」


「卯扇、すぐに帰ってきなさい」

「大切な話があります」


「…大切な話ですか」


「えぇ、分家の皆も集まっています」

「卯琉ちゃんは…、酉兜ちゃんと弓道君と一緒に居なさい」

「後で呼びに来るわ」


「どうして?」


「大切なお話だから、ね?」


「…」


「…道中、粗筋をお聞かせ願いますか」


「えぇ、良いでしょう」

「行きましょうか」


「…はい」


歩き出す卯扇と彼の母

卯琉は目を離さず、2人の背中をじっと見つめている


「う、卯琉ちゃん?行こう?的な」

「待ってても…」



鮮血



周囲の山林に血が飛び散り、目の前が紅く染まっていく



「…卯扇?」



鮮血を飛び散らしたのは卯扇の母

卯扇の手には銀の光を放つ刃


「…今までお世話になりました」

「…最後の最後まで、私は貴女の母であり、最悪の下衆でしたよ」


首から銀を引き抜き、さらに鮮血は山林を濡らす

絶句した酉兜たちは卯扇の冷淡な瞳に背筋を凍らせる


「…どうやら、俺の聞き間違いではなかったらしい」

「…今、卯月は何も知らずに屋敷に閉じ込められている」


「は、母を…!!」


「…我は忌み子」

「…誰の子でもない、ただ忌み嫌われて生まれし子よ」

「…母など今にしそうとも、我には救うべき者が居る」

「…その為ならば、形だけの[母]など幾らでも切って捨てようぞ」


「卯扇っ…」


「…貴様等はどうする?」

「…俺は、この機に雨雲一族を抜ける」

「…残るならば残れ」

「…だが、そうするならば俺の首は貴様等が取れよ」


「ううん、取らないよ」

「私はどっちに着かない」

「私はお兄ちゃんの味方」

「私は雨雲一族を滅ぼす」


「我は…」

「…むぅ」


「…急くな、と言いたいが」

「…この女を殺した時点で俺は反逆者確定だ」

「…俺を殺すならば早くしろ」


「…こ、殺せない的な」

「私には殺せないっ…!」


「…良いのか」


「私は友を見捨て生きていくなんて耐えられない!!」

「そんな行き方をするのなら、私も反逆者になる的な!!」


「弓道お兄ちゃんはどうするの?」


「…我も、断るワケにはいくまい」

「共に行こうぞ!!」


「うん、決まりだね」

「皆で壊そう」

「全部、全部、全部」

「ぜぇーーーーーーーーーーーーんぶっ」

「壊そう?」



















「…あの時」

「私は止めるべきだった的な」


「…」


「今でも目に焼き付いてる的な」

「泣き叫ぶ雨雲と、顔を血で染めて笑う卯琉ちゃん」

「互いの血族の上に立つ私達を」


「お前達だけで3家を滅亡させたのか?」


「いいや、違う的な」

「私と鎖基は大して活躍はしてない的な…」


「…シーサーさんと卯琉ちゃんですか」


「そういう事的な」


「あの2人が…」


「シーサーは、全てを知った雨雲を自分で止めると言った的な」

「これは俺の責任だ、と…」


「…だが、奴だけでは止めるのは不可能だ」


「く、鎖基さん!」


「奴は…、悔いているのだろう」

「あの時、己の母を殺した事を」

「あの時、我々に話してしまった事を」

「あの時、我々に賛同してしまった事を」


「…だからこそ、止めるんだろ」


車の速度が一気に上がり、重圧で波斗と鎖基の体がシートへと押しつけられる


「急ぐぞ!手遅れになる前にっっ!!」




読んでいただきありがとうございました

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