ベルアの部屋
ベルアの部屋
「コレは部屋の隅に置いておくです」
「浴槽は向こうですね」
「えっと、着替えなら客人用のを貸すと僚艦が言っていたですので…」
「…蒼空 波斗?」
「え?あ、あぁ、はい」
「大丈夫ですか?」
「ずっとボウッとしたままですけど」
「な、長旅で疲れてしまって」
「ご心配なく」
「そ、そうですか」
「気分が悪かったらすぐに言うですよ」
「はい…」
さて、
さて、さて、さて、さて
どうした物か
波斗も女性と同じ部屋になったとは言え、卑猥な行為をするつもりなど毛頭無い
有って良いはずがない
しかし、波斗も年頃の身である
卑猥な本は隣で蔵波がいつも見ているし、そういう会話もしている
波斗自身、興味はないフリをしても実際は興味も有る
目の前には女性
知り合って十数時間だし、ちょっと仲が良くなっただけである
話して一緒に御茶を飲んだくらい
で
その女性と
一緒の部屋で
1晩
マジか
…取り敢えず、落ち着け自分
何を考えているんだ、情けない
確かにベルアさんの部屋も女子寮って言うから汚いかと思ったら綺麗だし
タンスとか机とかも、ちょっと女の子っぽくて可愛いし
ベットもふかふかそうだし
…ベット?
今日、ここで寝るのか
ここで?誰と?
「…」
いやいやいやいやいや!何を考えてる!?自分!!
ベルアさんは確かに綺麗だ!!
髪は綺麗な金髪!肩に掛かるぐらいのショ-トヘア!!
ちょっと毛先カ-ルしてる!
うん!100点満点!!
じゃなくて!!!
駄目だろ!?失礼どうこう以前に!!
人として!道徳的なヤツ的に!!
ベルアさんは確かに美人だ!!
胸は大きい!足もスラッとしてる!!
顔も小顔で整ってる!
笑うと天使みたいだ!!
じゃなくて!!!
何を考えてるんだ!!!
しっかりしろ!煩悩退散!!
「知ってるか?蒼空」
何で!?
何でこの場面でお前が出てくる!?
蔵波!!
「俺もさ、コレはねぇと思うんだけどよ?」
「お前は[既成事実]ってどう思う?」
黙れ!!!!!!
いや…
やっぱり黙れ!!!!!!!!!
知らねぇよ!!
あの時は「ふ-ん」ぐらいで流したけども!!
知らねぇって!!!
ど-でも良いし!!!
「…あの?」
「はい!?」
「大丈夫ですか?先刻から頭をブンブン振っていらっしゃるのですけど」
「…煩悩退散を、と」
「あぁ、聞いた事が有るです」
「1月1日に108回、お寺の鐘を鳴らすのですね」
「煩悩退散って!」
「でも…、大丈夫なんでしょうか?」
「何がですか?」
「108回も突かれた鐘は…」
「可哀想ですね?」
あぁああああああああああああ!!
クソッ!クソッ!!
可愛いじゃねぇか!!!
鐘を心配してしょんぼりしてるベルアさんは可愛いなぁ!?オイ!!
「…あの?」
「はい?」
ガンッガンッ
「角に頭を叩きつけて…、痛くないですか?」
「煩悩退散煩悩退散煩悩退散」
「えっと…」
「気にしないでください」
「出来れば俺を倉庫でも物置でも良いので移動させてください」
「え?ぇ?」
「私の部屋…、汚いですか?」
「それとも臭かったり…?」
「あ、そうじゃなくて…」
「ごめんなさいです…」
「客人を泊めるなんて考えてなかったからロクに掃除して無くて…」
「その…、不快にしてしまいましたか?」
「いえ!全く!!」
俺は馬鹿か!?
自分の事ばっかりで!!
ベルアさんの気持ちも考えずに!!
馬鹿だ!大馬鹿だ!!
彼女の気持ちを考えろよ!!!
「す、すいません」
「女性の部屋に泊まるのなんて初めてだから緊張してしまって…」
「そうだったんですか…」
「私も…、その…」
「?」
「男性と泊まるなんて…、初めてでございますから…」
「緊張してしまっているのです…」
バタンッ
「波斗さん?どちらに?」
「ちょっと…」
「鉄珠さんに…、ちょっと…」
「?」
女子寮執務室
「…」
「で、逃げてきたのか」
「もう無理ですよ」
「俺の心が折れます」
「確かに可愛いもんなぁ」
「でもさ、僚艦も捨てたモンじゃねぇぜ?」
「…いや、そうじゃなくて」
「何と言うか…、そのですね…」
「要するに[ベルアちゃんが可愛すぎて眠れなかったらどうしよう]だろ?」
「もしくは[一晩の間違いが有ったらど…」
「シャラッッップ!!」
「…まぁ、図星だろうな」
「そりゃ、考えない方が無理ってモンだし」
「そうだ!良い方法を教えてやろうか!!」
「是非!!」
「なるほど」
「コレをだな-」
「む?ここに居たのですね」
「あれ?僚艦さん」
「コレをベルアに届けて欲しいんですが」
「コレって…」
「洗髪剤です」
「切れていると言っていたので」
(洗髪…?あぁ、シャンプ-か)
「解りました」
「届けてきますね」
バタン
「…僚艦さんよ」
「何です?Mr,テツダマ」
「[フラグ]って知ってる?」
ベルアの部屋
「ベルアさ-ん!」
シ-ンと静まりかえった部屋の中
「…何処かに行ったのかな」
「まぁ、良いや」
「シャンプ-だけでも置いておこう」
「風呂はこっちだっけ」
ガラララララ
「え?」
「 」
波斗の目の前にはベルア
ただし、一糸まとわぬ姿でタオルすら持っていない
「お、俺はですね…」
「き…」
「シャンプ-を…」
「きゃぁああああああああああああ!!!」
「届けに来ただけなのに…」
「…説明していただけるですかっ!」
涙ぐんだ瞳で波斗を叱り付けるベルア
裸を見られたので当然なのだが
「シャンプ-…」
「それがどうしたのです!?」
「届けようと…」
「しただけなのに…」
「何という仕打ちか…」
「え?えぇ?」
「一瞬、思った」
「あれ?ヤバくね?と」
「でも、まぁそんな事は無いかと」
「そんなベタな事は無いかと」
「無いはずだと!!」
「思ったのに…」
「声も掛けましたよ」
「返事がない」
「居ないのかな、と」
「そりゃ思いますよ」
「確かに俺の声が小さかったかも知れませんよ…」
「俺が風呂に置いとこう、とか考えなきゃら良かったかも知れませんよ!」
「一瞬ですよ!!」
「一瞬の閃きですよ!!」
「その一瞬の閃きで…」
「何という仕打ちかっっ!!!」
「…訳が分からないです」
読んでいただきありがとうございました