3つの名家
「朝の鍛錬は終わった的な?」
「…あぁ、つい先程な」
「…貴様は何をしに来た?」
「別に~?暇だから遊びに来ただけ的な」
「…貴様の一族は気楽だな」
「雨雲一族に頼っておけば安全だから的な」
「それで卯月は何処に行ったの?的な」
「…知らん」
「白々しい的なぁ」
「…卯琉ちゃんは?」
「…知らん」
「卯琉ちゃぁーーーーーんっっ!!」
「…待て」
卯扇は力強く西締の肩を握る
その反応に対し、西締はにやぁ~~っと笑う
「卯琉ちゃんと一緒に居る的なぁ~~~~?」
「…居ない」
「…居ないから行くな」
「何の事かなぁ的なぁ~?」
「…くっ」
「どうしたのかしら?」
「あ、叔母様的な」
「的なじゃなくて私よ?」
「…如何したのです?母上」
「酉兜ちゃん、少しこの子を借りても?」
「是非とも持って行って欲しい的な!」
「…なりません、母上」
「…卯月と卯琉の貞操が危ない」
「て、貞操って…」
「…それよりも、話よ」
「…西締、2人に手を出すなよ」
「保証はしない的なぁ~」
「…母上、コイツを追い返してからでも宜しいでしょうか」
「出来れば急いで」
「…御意に」
小部屋
「…追い返して参りました」
「良い子なのにねぇ、性癖が悔やまれるわ」
「…生まれついての物でしょう、あれは」
「…それよりも話とは?」
「…えぇ、そうね」
「卯扇、私達が一族より迫害を受けているのは承知していますね?」
「…はい」
「それについては私の責任」
「貴方には何の非も無い」
「私の一時の気の迷い故に、貴方を迫害の対象としてしまった」
「…いいえ、気にはしておりません」
「…彼奴等の物は全て戯れ言と心得ております」
「…それに、長殿には良くしていただいている」
「…何も不平不満はありませぬ」
「しかし、卯月様が長となれば私達を庇っていただくのは難しくなるでしょう」
「…そんな事はありませぬ」
「…奴は俺を兄同然にしたってくれている」
「…奴は、権力を得た途端に掌を返すような奴ではない」
「…」
気難しさと残念そうに悔やむ表情が卯扇の母の顔に浮かぶ
卯扇はそれを見て首を傾げるが、母は少しため息をついて立ち上がる
「そうですか、ならば良いのです」
「後悔はしませんね?」
「…何をする事が有りましょうか」
「流石、私の子です」
母は微笑み、卯扇を抱きしめる
卯扇は目を閉じ、ありがとうございますと呟く
玄関
「今日は何処に行くの?お兄ちゃん!」
「あぁ、今日は鎖基家に挨拶に行くんだ」
「卯琉も家に居ても仕方ないし、一緒に行かないか?」
「うん!お兄ちゃんと一緒なら何処でも良いよ~!!」
「…お前も、そろそろ兄離れしないとなぁ」
「お前は剣術の才ならば俺よりも上なんだ」
「真面目に鍛錬を積めば俺よりも遙かに強くなれるぞ?」
「私はお兄ちゃんが居ればそれでいーの!」
卯月の腕にぎゅっと抱きつく卯琉
諦めにも近いため息を吐き、卯月は歩き出す
鎖基家
「ぬはははははは!良ぅ来たのぅ!!」
「鎖基家の長殿」
「今度は我々一族の…」
「構わん構わん!!」
「堅っ苦しい挨拶は無しだ!ワシにされても解らんからのぅ!!」
豪快に笑う鎖基家の長
それに合わせて卯月は愛想笑いをするが、隣で卯琉がぼそりと「うるさい…」と呟く
卯月は素早く卯琉の口に指を当てる
「こちらは我が一族の長より」
「うむ!感謝するぞ!!」
「では、私達はこれで…」
「少し待てぃ!!」
「弓道!弓道は居らんかぁ!!!」
「お呼びかぁ!?父上ぇ!!」
「うむぅ!呼んだぞぉ!!」
「卯月君と卯琉ちゃんを送って差し上げるのだぁ!!!」
「承知したぞ!!」
「行こうではないか!卯月!!」
「あ、あぁ…」
「うるさいなぁ…」
「しっ!」
山道
「そちらの訓練は終わったのか?弓道」
「うむ!今回は軽めだったのでな!体力が有り余って仕方ないわ!!」
「…念のため、聞いておくが」
「内容は?」
「30km全力疾走と3時間無限組み手だ!!」
「普段ならばこれに3本丸太運び10kmと瓦連続50枚割りが続くのだがな!!」
「暑苦し…」
「しっ!」
「それにしても、卯月と卯琉は本当に仲が良いのだな!!」
「まるで新婚夫婦ではないか!!」
「え、えへへぇ~~♥」
「ははは、笑える冗談だ」
「お兄ちゃん!」
「な、何だ?」
「むぅ~~…」
頬を膨らませる卯琉
卯月と弓道は顔を見合わせ、首を傾げる
「禁じられた恋」
「それは乙女の浪漫?」
「否!それは人類の浪漫ッッッ!!」
「な、何だ!?」
突如、天より響き渡る声
その声が響き終わると同時に、1つの影が天より舞い降りる
「禁じられた!?」
「そんな物は関係無い的なァッッ!!」
「…に、西締 酉兜か」
「恋!それは万物を両断する天の与えし神の力ッッ!!」
「恋!それは万人を魅了する人の受けし理の力ッッ!!」
「恋!それは万象を制覇する命の産みし真の力ッッ!!」
「全ては恋に始まり恋に終わるッッッ!!」
「そう!それが恋ッッ!!的なっ!」
「「「…」」」
「それは異性のみに存在せず!!」
「さぁ!卯琉ちゃん!!」
「私と愛を育もう的な!!」
「い、嫌ぁ…」
(こんなに震える卯琉を見るのは初めてだ…)
「め、酉兜殿!すまないが卯琉が怖がっているので…」
「別に卯月でも良いんだけど的なぁ…?うへへへへ」
「へ、変態ではないか…」
(弓道が引くなんて…)
ベシッッ!
「痛ぁっ!?」
「…止めんか、阿呆」
「う、卯扇~!」
「また邪魔するのか!?的なぁ!」
「…邪魔ではなく制裁だ」
「…卯月、卯琉、屋敷に戻っていなさい」
「…西締 酉兜と鎖基 弓道は残れ」
「何だ!?」
「…少し、話がある」
卯月は喉から言葉が出かけるが、それを飲み込む
卯扇のいつにない、真剣で影を含んだ表情を見たからだ
「…解りました」
「お兄ちゃん…」
「卯扇兄様は2人と話があるんだ」
「帰ろう、卯琉」
「う、うん…」
卯月は卯琉の手を引き、そのまま山道の奥へと進んでいく
2人の背を見送ってから卯扇は酉兜と弓道に視線を戻す
「…貴様等には話しておくべきだろうと思ってな」
「何だ!?」
「早く2人を追っかけたい的なぁ~…」
「…我が一族」
「…いいや、貴様等の一族もだが」
「…裏で何か良からぬ事を企んでいる可能性が高い」
「「!」」
酉兜と弓道の顔つきが変化する
卯扇の表情が軽い空気とはかけ離れた物と認識したからだ
「…詳しく教えて欲しい的な」
「…軍だ」
「…ある計画に卯月が巻き込まれようとしている」
「計画とは何だ!?」
「…名称しか解らないが」
「…[創世計画]と言うらしい」
読んでいただきありがとうございました