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秋鋼  作者: MTL2
338/600

雨雲一族

山中


草木が道路を覆い、車が過ぎ去る度にパキパキと音が鳴る

運転席には火星が、助手席には西締が

そして後部座席には波斗と、気絶した鎖基が座っている



「…そろそろ説明してくれるよな、西締」


西締は少し躊躇うが、小さい声で語り出す


「…雨雲一族滅亡の件は知ってる的な?」


「あぁ、知っている」

「蒼空君は知ってるかい?」


「い、いえ…」


「…雨雲一族、鎖基一族、西締一族」

「これ等、3家は戦闘一族として有名だったんだ」


「だった、ですか…」


「没落じゃない」

「滅亡だ」


「どうして、そんな事に?」


「…世間一般じゃ、能力者組織と戦闘し滅亡したとされてる」

「だけど、本当は違う」

「雨雲一族は1人の女に滅亡させられたんだ」


その一言を聞き、西締の表情にさらに影が落ちる

彼女の顔からは普段の軽快な表情は消え、重暗な表情に満たされている


「雨雲 卯琉」

「雨雲一族の長の娘」

「…雨雲 卯月の妹だ」


「雨雲さんの…!?」

「何で…」


「それは、コイツが教えてくれるはずだ」

「なぁ、西締」


「…うん」
















昔の話

昔々の、私達がまだ子供だった頃の話



「はっっ!はっっ!!」


日の光の差し込む道場で健気に竹刀を振るう少年

その少年の周囲には何人もの人々が、勢いの強いかけ声と共に鋭い太刀筋で竹刀を振るっている


「止めぃっっ!!」


彼等のかけ声を両断する豪声

全員がそれぞれに竹刀を振るうのを止め、駆け足で豪声の主の前に整列する

そして、その列の最前には少年が居た


「皆の者、ご苦労」

「日々の鍛錬によって、貴殿等の腕は確実に上がっている」


「「「はい!長殿!!」」」


「さて…、今日の鍛錬はこれで終わりだが…」

「卯月、こちらに来なさい」


「はい!父上」


元気な声をあげ、卯月と呼ばれた少年は長の元へと駆け寄っていく

長は少しだけ卯月の頭を撫で、皆に視線を戻す


「卯月と試合をして貰いたい」

「この子とて、もう剣も握れる歳だ」


「し、しかし…、こちらは大の大人でございます」

「幾ら卯月様と言えど…」


「…では、私が相手になりましょう」


列を掻き分け出てくる、卯月よりも少し年上の青年

その青年を見るやいなや、列の人々の目つきが変わる


「忌み子めが…」


「汚らわしい…、我等が一族の面汚しめ…」


「卯月様に害をなすか…」


列の中から聞こえる、青年を毛嫌う声

青年はそれを気にせず、ただ静かに佇まっている


「黙れッッッッッッ!!」


「「「!」」」


長の怒号

雑音は轟音によってかき消される


「良いか!?この者は忌み子ではない!!」

「我等が一族の誇り高き戦士だ!!」

「能力を持ったのは数奇な不幸!!」

「我が妹が外の者と関わったのも何かの不運!!」

「それについては断罪は無い、と断言したはずだ!!」


「「「…っ」」」


「…構いませぬ、長殿」

「…所詮は雑魚共の戯れ言」

「…気にするまでもありますまい」


「何だと!?」


「止めいと言っておろうがっっっ!!」


「ぐっ…!」


「卯扇よ…、確かに気にはせんでも良い」

「然れど、口が過ぎる」


卯扇は深々と長に頭を下げ、振り返って列にも頭を下げる


「…申し訳ない」


「…さて、少し話が逸れた」

「卯扇、卯月と試合をしてやってくれるか?」


「長の仰せのままに」



対峙する、卯月と卯扇

一筋の汗が頬から顎へと伝い、床に落ちていく


「…はっ!」


急速な加速

先に仕掛けたのは卯扇だった


「でやぁっっっっ!!」


迎え撃つ卯月

しかし、卯扇の太刀筋は想像を遙かに超えていた


腹部へと打ち抜かれる竹刀

押し殺した声を吐きながら卯月は地面へ突っ伏す


「1本、卯扇の勝ちだ」


称賛の拍手を送る長

卯月も、尊敬する兄を見るような目で元気よく礼を言う


「…ちっ、忌み子が」


列の中からぼそりと聞こえた声

長はその言葉に反応し、列を睨む

だが何処から聞こえてきたか解らない声に対しては断罪のしようも無い


「…構わないのですよ」

「…わっぱの戯れ言です」


鼻で笑う卯扇

列から怒りを抑える声が聞こえるが、そんな物は気にも留めない


「…では、私は汗を流してきますので」


「うむ、ご苦労」

「卯月も行ってきなさい」


「はい!父上!」


「他の者は残れ」

「少し、話がある」






井戸


「卯扇兄様!」


「…あぁ、卯月か」

「…上達したな、中々の反撃だったぞ」


「ありがとうございます!」


冷たい井戸水を頭から被る卯扇と卯月

卯扇は手拭いで体を拭き、卯月の体も拭いてやる


「…兄様」


「…何だ?」


「どうして、言い返さないのですか」

「兄様の剣術は奴等よりも遙かに上です!それなのに…」


「…構うな」

「…羽虫が騒いだからと言って、それを一々叩き潰していたのではキリが無い」

「…それに、奴等の言っている事も間違ってはいないのだ」

「…俺は長殿の妹である母と、外部の人間との間に生まれた忌み子」

「…能力を持っている時点で、この家には相応しくない」


「そ、そんな事…!」


「…だが、卯月」

「…貴様は将来有望だ」

「…剣術の腕を磨き、良い長になれよ」


「…はい」


納得いかない、といった様子で卯扇を見上げる卯月

卯扇はため息混じりに苦笑し卯月の頭を撫でてやる



パシャッッ


「…そこか」


卯扇の鋭い眼光が、林の中を捕らえる

全力で投げられた桶が林の中でパコーンッ!と気持ち良い程の良い音を立てる


「…出て来い、変質者め」


「変質者とは酷い的なぁ…」


真っ赤になった頭部を抑えながら出てくる少女

その手には高速撮影高画質超低音のカメラが握られていた


「折角のオカズが!」


「…貴様は西締一族の恥晒しだな」

「…全く持って変質者以外の何者でも無い」


「違う的な」


「…何が違うと言うのだ」


「変質者と一言で括っても種類は様々」

「露出狂、痴漢、盗撮魔etc…」

「その中で私はショタロリと年上の男女にのみ焦点を搾っている的な」

「それは変質者と言えばそれまで」

「しかし私はそれにも信念を持っている的な」

「行為は決して甘えじゃない」

「ただ、己を高め己を満たし己を信ずる故の行為!」

「それを変質者と一括りにするのは如何な物か!?」

「ショタの砂糖菓子すらも超える甘い誘惑!」

「ロリの幼くも残忍なまでの淫らさ!」

「さらに年上の男性の頬擦りしたくなる筋肉!!」

「年上の女性の埋もれたくなるような巨乳!!」

「これら全てを制覇するという信念の元!私は変質者である的なァアアアアアアアアアアア!!!!」



「…覚えておけ、卯月」

「これが変態だ」


「う、うん…」




読んでいただきありがとうございました

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