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秋鋼  作者: MTL2
336/600

忌み子

カランカラーン


「ただいま」


「お帰りなさい、織鶴さん」


「蔵波君の件で何か変化は?」


「それらしき人物が何度か目撃されていますが、確定ではない様ですね」

「やはり期間が期間ですし、自発的に移動しているのでしょう」


「…そう」


「あぁ、それと楓ちゃんから電話」

「何か雨雲と鎖基が居なくなったんだってよー」


「仕事じゃないの?」


「さぁ?楓ちゃんを預けて急に居なくなったらしいぜ」

「帰ってくる、とは言ってたらしいが」


「少し調べてみましたが、仕事ではないようですね」

「ユグドラシルは暫く仕事の予定を入れていません」


「…で、どうしたの?それから」


「雨雲と鎖基なら心配ないと思うけどなぁ」

「一応、調べてみるとは言ってあるよ」


「それは後回しよ」

「まずは蔵波君」

「…最悪の可能性も考慮に入れてね」


「「了解」」



カランカラーン


「ただいまー」


「…火星」

「波斗は?」


「そろそろ帰ってくるはず」


「そう、お疲れ様」

「引き続き蔵波君の捜査…」

「…いいえ、雨雲の捜査に移って」


「雨雲の?」

「何か有ったのか」


「行方不明らしいわ」

「鎖基も一緒に」


「あの2人なら心配ないと思うけどなぁ」

「ん、まぁ解った」

「だけど蔵波君の件は良いのか?」


「そっちは引き続き私、彩愛、鉄珠で行うわ」

「万が一の場合は戦力が居ないと話にならないからね」


「おぉ、そうか」

「蒼空君は?」


「アンタと一緒に雨雲の方へ」

「監視も兼用できるし、その場合にも対応できるわ」


「その場合って?」


「雨雲達が天之川に殺られている場合よ」


「…!」


「そんな…」


「目撃者は例外なく消されている」

「もし、もしも」

「雨雲達が天之川を目撃していたら?」

「死んででも楓ちゃんを守るでしょうね」


「そんな事は…」


「幾ら雨雲でも天之川相手じゃ分が悪すぎるわ」


「…っ」


「…なぁ、そう言えばなんだか」

「雨雲はどうして旅してんの?」


「あぁ、俺も首狩り島近くの旅館で聞いたよ」

「教えてくれなかったけどさ」


「私も知りませんね」


「…それは」



カランカラーン


「…ただいま戻りました」


「お帰り、蒼空君」


「波斗」


「…はい」


「整理は?」


「蔵波が天之川なんて、絶対に有り得ません」

「以上です」


その顔は真剣その物

何を言っても無駄だ、と

どんな可能性を指摘しても無駄だろう、と

そう認識させるまでに真っ直ぐな瞳


「…よろしい」


織鶴は波斗の顔を見て満足そうに、そして嬉しそうに頷く

火星や彩愛、鉄珠も互いに顔を見合わせてくすりと笑う


「蔵波君捜索の件は彩愛、鉄珠、私!」

「雨雲捜索は火星と波斗!」

「依頼開始ッッ!!」


「「「「了解っっ!!」」」









旧雨雲邸


「…」


薄暗い夕日に照らされる室内

雨風に浸食され腐った畳が腐敗臭を放っており、酷い臭いが漂っている


そんな室内を闊歩する1人の男

腰に帯刀しており、その佇まいは凜としている


「…来たか、雨雲」


その男、雨雲は1人の人影を発見し立ち止まる

彼の表情は普段と同じく冷静沈着な色が覗える


「…シーサー」

「いいや、雨雲 卯扇」


「…そこまで調べたか」

「…全く、頭が切れることだな」


「何故、隠していた」


「…真実を知ってどうする?」

「…貴様はそれを知ってどうしたい?」


「どうするか、だと?」

「愚問だ」


「…愚問だろうと、答えるべきだろう」

「…真実が知りたいのならば」


「…俺は」

「ただ、知りたいだけだ」

「その結果、どのようになろうとも」


「…だから駄目なのだ」

「…貴様はそう言って、再び現実から目を背けるだろう」

「…それが正しいと?一時的な逃亡と?」

「…貴様は逃げているだけだ」

「…ただ、逃げているだけなのだよ」


「逃げている?だと」


「…事実、そうだろう」

「…貴様は、調べようと思えば調べられたはずだ」

「…雨雲一族の滅亡の理由を」

「…だが、それを[妹に対する温情]という理由で逃げ続けてきた」

「…それ以外に何か、言い表せるか?」


「…っ」


「…最早、解っているのだろう」

「…貴様の一族を滅ぼしたのは、雨雲 卯琉だけではない事に」


「…あぁ」

「貴様が忌み子であった事も、だ」


「…そこまで調べたか」


「だからこそ、知ったのだ」

「我が一族を滅ぼした者共を」


「…愚かしい」

「…貴様は、数十年前に壊された玩具を嘆く子供に過ぎない」


「何…?」


「…全て知ったのならば、解るのだろう」

「…奴等も同じく罪を背負った事に」


「…」


「…無能力者故の悲劇か?」

「…いいや、無力故の悲劇だ」


「貴様…」


「…俺は、枯木 楓は」

「…被害者に過ぎんのだよ」


突如として鳴り響く金属音

雨雲は人形師モルバを相手取った時並の殺気をシーサーへと向けているのだ


「…で?」


しかし、彼が斬りつけているのはシーサーではない

腐敗した木柱だ


「…!?」


「…俺が忌み子となった理由」

「…それは能力者だったからだ」

「…雨雲一族は剣術に生きる者達」

「…能力者など一族として認められなかったのさ」


「くっ…!」


「…雨雲一族の剣技は流れゆく雨粒が如き美翔の剣技」

「…だが、貴様の剣技は汚泥にも劣る」


余りに解りやすい挑発

だが、その挑発は雨雲一族への侮辱


「我が一族を侮辱するなッッ!!」


「…一族?笑わせるな」

「…貴様の一族の剣技は美麗美翔美観」

「…全てに置いて美しく麗しい」

「…それを汚泥で汚すな、と俺は言っているのだ」


その言葉を言い終えるよりも前に、シーサーの目前に白き刀身が迫る



「時雨」






美しい




人体が可能であろう動きすらも凌駕する剣技

刀身は空を斬り限界をも斬り伏せる

一糸の無駄とて無い剣技

それは、雨雲一族の次期当主に相応しき剣技


恐らく、過去最高の作品であると言えるだろう

雨雲 卯月の剣技は過去最高の作品だ

何かと比べるに値しない剣技


素晴らしき、剣技



だが、認められないのだ

認めてはいけない


今、ここで貴様を認めれば貴様はいつか死ぬ

誰かに殺されるか?

自ずと死ぬか?

それとも、唯一の家族に殺されるか?


如何様にしても、貴様は死ぬだろう


貴様自身の弱さによって



「…次空転換」



だから認めるわけにはいかないのだ


決して、貴様の弱さを



読んでいただきありがとうございました

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