廃墟の会談
廃墟の家
住宅街から離れ、人も寄りつかない山中
そこに全焼痕の残る、廃墟と化した家があった
外と繋がった室内は灰と埃に包まれた家具と脚が1本足りない机が置かれている
そして、その机を挟むように2つのイスが置かれている
汚れており、とても綺麗とは呼べない状態のイスに座る1人の女
それは織鶴だった
「…」
静かに目を閉じ、風で森の木々の葉が揺れる音に耳を澄ます
彼女の手には既に暖かみを失った缶珈琲が2つ握られている
パキンッ
木材が踏み割られる音
それを合図に織鶴はゆっくりと目を開く
「待たせたな」
若々しい男の声
織鶴はその男の声を聞くやいなや、開けた目を再び細める
「遅い」
「30分も待ったわよ」
「こちらとて暇ではない」
「貴様が急用と言うから、部下に用事を押しつけて出てきたのだぞ」
「そっ」
「ご苦労ね、シヴァ」
短く無愛想な返事
シヴァは少し眉をしかめながらも、織鶴の前へと座る
「…で、何の用だ?アスラ」
「その名前は止めてくれる?」
「気に入らないし、好きでもないし」
「…そうか」
「用事ってのはね」
「元老院直属施設」
「!」
ぴくり、とシヴァの肩が震える
織鶴はそれを見逃さず知ってるのね?と追撃を掛ける
「…あぁ」
「何処でそれを?」
「天之川の件を調べる機会があったのよ」
「その時にちょっと」
「彩愛 真無か」
「さぁ?」
「…まぁ、良い」
「確かに貴様の言う通り、外部設備の元老院直属施設は破壊された」
「この事から元老院も天之川の裏切りを軽視できなくなった」
織鶴に説明しながらシヴァは懐から資料を取り出す
そこには天之川、刻、虚漸の顔写真が載っている
「これは?」
「天之川の仲間と思われる者達だ」
「最上級能力犯罪者、天之川 夜空」
「上級犯罪者、刻 海渉」
「最上級犯罪者、虚漸」
「…この、虚漸って男」
「見覚えが無いわね」
「何度も繰り返しの罪で最上級になったのではないからな」
「軍の最上級の情報を盗んだらしい」
「最上級、ね」
「それでもランクがそこまで上がるなんて聞かないけど」
「詳しい事は聞かない方が身のためだぞ、織鶴」
「…そうね」
「さて、話を戻そう」
「これ等の者共ならば、本来は優先的にNoか、それ相応の実力者を派遣」
「それで終了…、だが」
「そうはいかなかった」
「[核]と[躯]が関わっている可能性があったからな」
「[核]と[躯]…」
「貴様には説明する必要も無かろうよ」
「奴等の都市伝説など事実無根」
「されど、それ相応の事ではある」
「…軍転覆事件」
「もう、話にも出ないような昔の話だがな」
「たった13人の能力者に軍は壊滅まで追い込まれた」
「だが、その内の1人が裏切り、仲間の12人の内7人を殺害」
「それによって軍は奇跡的に勝利し、無事に復興できた…」
「それが軍転覆事件だ」
シヴァは呆れ返ったように息を吐く
そして資料の上に資料を重ね、その内年表らしき物を指さす
「今では軍の情報操作によって既に抹消された事実だがな」
「だけど、人の口に戸は立てられない」
「噂は立ったけど…」
「軍のNoがたった2人の者に負けた、という馬鹿馬鹿しい話になった、というワケだ」
「強ち、間違ってはいないがな」
「でしょうね」
「で?その2人が仲間ですって?」
「生きてたの?」
「あくまで可能性、というだけの話だ」
「確定ではない」
「…そう」
「で、そいつ等が破壊した元老院直属の施設では何が行われてたのかしら」
「廃棄物処理だ」
「…あぁ、そういう事ね」
「なるほど…、道理で」
「奴が計画を知ったのか、誰かに唆されたのか」
「本当に[核]と[躯]が生きているならば…、恐らく奴等の仕業だろう」
「…最近になって、天之川らしき能力者の目撃情報が増えてるけど」
「目撃情報も何も」
「つい先日、接触してきた所だ」
「…よく生きてたわね」
「邪魔が入ったのでな」
「アンタらしいわ」
やれやれとため息をつく織鶴
それと同時に、手に持っていた缶珈琲をシヴァへと投げ渡す
「有り難いな」
「…少し、ぬるい様だが」
「アンタが来るのが遅いからよ」
「仕方有るまい、と…」
織鶴は「情報は以上?」とシヴァの発言を遮る
少し不機嫌そうなシヴァだが、珈琲の蓋を開け一気に胃へと流し込んで一息置く
「…これ以上は末端組織などに教えるべき情報ではない」
「今までの情報も、貴様が元同僚である故に教えてやった事だ」
「時は動き出したわ」
「!」
「そうでしょう?」
にやりと笑む織鶴に対して、シヴァは大きくため息をつく
缶をべしゃりと潰し、そのゴミを織鶴へと向かって投げ捨てる
「阿呆」
「ハッ」
織鶴は投げ捨てられた缶を人差し指で貫き、サイコロほどの大きさに握りつぶす
「喧嘩売ってる?」
「別に売っても良いが」
「この山が消えてなくなっても構わないのなら、の話になる」
「…そりゃ、買わないでおくわ」
「そうして方が賢明だろうな」
「聞きたい情報は以上か」
「まぁ…、そうね」
「感謝するわ」
「別段、機密と言うほどではない」
「…それに貴様ならば調べようとすれば幾らでも調べられように」
「あぁ、彩愛ね」
「流石に元老院の…」
「違う」
「元元老院直属部隊、隊長補佐の貴様に言っている」
「…昔の話でしょう」
「あぁ、昔の話だ」
「だが未だに貴様の能力は衰えては居ない」
「…」
「デルタロス」
「No,2」
「ハデス」
「試験時の侵入者」
「アメリカ支部の裏切り」
「これ等、全てで貴様は活躍を果たしている」
「それもかなりの、だ」
「だから?」
「戻ってこい、織鶴」
「断るわ」
すっぱりと、織鶴は寸分の悩む間もなく言い切る
やはりか、とシヴァは解っていた事を確認したように苦笑する
「当然よ」
「私には今、居場所があるから」
「…そうか」
シヴァは立ち上がり、織鶴に背を向けて歩き出す
織鶴も同じく立ち上がり、うんと背筋を伸ばす
「…警告だ」
振り返らず、背を向けたままシヴァは織鶴へと語りかける
その声は先程とは違って重々しい声だ
「何?」
「もう、これ以上は関わるな」
「貴様の身を滅ぼす」
「いいや、貴様だけではない」
「仲間も、周囲の人間も全てだ」
そう言い残し、シヴァは木々の中へと消えていく
織鶴は苦虫を噛み潰したような表情を深める
「…もう、遅いわよ」
ただ、そう呟き織鶴も廃墟を後にした
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