鬼の殺意
万屋
「どう?」
「やはり駄目ですね」
「データは殆ど抹消されています」
「こっちも駄目だ」
「やっぱ軍の汚点だったし、すぐに消されたのかなぁ」
「それはないでしょう」
「軍の汚点なら尚更」
「そうですかね…」
「…調べたのは今現在の?」
「えぇ、そうですが」
「過去の情報は少しばかりならば…」
「まぁ、それでも良いわ」
「教えて」
「えぇ、はい」
「軍入りしたのは6歳の頃ですね」
「刻 海渉の紹介で入ったとか」
「あれ?でも、すぐに刻って裏切ったんじゃ…」
「能力ですよ」
「能力開発局で過去最大の能力値をはじき出し、才能でNo入りしたんです」
「うひゃー…、やるねぇ」
「ま、周りからは反発があったらしいですがね」
「しかし、そんな奴等の前で強化ガラスを片手で砕き割って黙らせたそうです」
「お、おぉう…」
「No入りしていましたし、刻の件も誰も口出しはしなかったそうですね」
「それからも着々と任務をこなしてNo,5の座に居続けたそうです」
「…続けて」
「はい」
「そして、それから数年後」
「彼は軍を裏切りました」
「…」
「軍の各施設を破壊して逃亡」
「No,3、No,4、そして現No,5が戦闘を行いましたが、逃亡を許しました」
「ノアさんはその時の功績や今までの功績を認められてNo入りに」
「これは当然だ、と軍内でも言われていましたね」
「…と、まぁこれぐらいでしょうか」
「情報とは言えない情報ばかりです」
「解るのは刻と天之川に関係性が有るかも知れない、という事ぐらいでしょうか」
「…天之川が破壊した施設は?」
「施設ですか?」
「第二能力実験場、能力廃棄物処理場、第四能力研究施設、外部身体検査場ですね」
「全部、地下街外にあるヤツばっかだな」
「…元老院直属」
「え?」
「元老院直属施設ばかりなのよ、全部」
「!」
(単なる偶然?)
(いや、それにしては出来過ぎてる)
(確かに地下街外の日本の軍施設は言うほど多くはない)
(だけど、その中でも元老院直属の施設はさらに少ない)
(それを狙ったように…?)
「少し、調べてみましょう」
「駄目よ、彩愛」
「元老院のネットワークにハッキングをかけるのは危険すぎるわ」
「流石に総督も黙認じゃ済ませられない」
「し、しかし…」
「…依頼は天之川か、どうかを判断するのではなく蔵波君の捜索よ」
「鉄珠と彩愛は蔵波君の捜索に移行して頂戴」
「「了解」」
「…私は、少し出かけてくるわ」
「何処に?」
「昔の友人に会いに、ね」
四国
響の家
「…はぁ?」
「だから、ですね」
「一斑君を暫くウチで預かるんです」
「…えーっとやなぁ」
「もっかい、名前教えてくれへんか」
「俺っちはアヌビスです!」
「元老院直属部下ですよ!」
「元老院なぁ…」
「…アイツは何て?」
「あいつ?」
「一斑や、一斑!」
「あぁ、「こんな機会、滅多に無いし体験入学も良ぇと思うで」と」
「…元老院は学校じゃないんですけど」
「まぁ、そういうヤツやし」
「…元老院か」
「一応、連絡はしましたよ」
「まぁ…、待てぇや」
「…はい」
珈琲を口へと運ぶ響
難しげな表情で眉をしかめ、静かに珈琲をすする
その前でアヌビスは緊張感からか手に汗を握っている
「…」
「…ん、ほうか」
「アイツに体にゃ気を付けるよう言うといてくれ」
「は、はい!解りました」
「では…」
「おう」
響の家から出て、暫くの公園のベンチにはアヌビスの姿があった
まるで外回りを終えたサラリーマンのような格好だが、それ以上に
汗が彼から噴き出していた
鬼
よく言ったものだ
鬼?
あんな想像上の産物で表したのか
あぁ、納得する
その通りだ
殺意の塊物
体が飲み込まれるなんて、そんな軽いモンじゃない
脳天に、眼球に、首筋に、心臓に
体の彼方此方に突き付けられた殺意のナイフ
動けば刺される
それを覚悟するに至るまでの、殺意
「ーーーーーーーはぁ」
部屋は暖かかった
気を抜けば眠ってしまうほどの心地よさの温度だった
それでも、この汗
「洒落にならないなぁ…」
prrrrrr
「…もしもし」
『アヌビスか』
「あぁ…、コヨーテさんですか」
『響 元導はどうだった?』
「…正直、もう会いたくないですね」
「あんなのが人間なんて…」
『奴は強ぇからなァ』
『それに、頭も切れる』
「次からはコヨーテさんが行って下さいよ…」
「俺っちはもう嫌です…」
『ケッ!死んでもヤだね』
『俺はこっちのガキの方で忙しいんだ』
「クォーターですか…」
『適合者とはなァ』
『だが、4分の1だからこそ受け入れられたんだろうよ』
『[無型]をなァ』
「羨ましい限りですね」
「俺達ですら、5分の1しか入れられなかったのに」
『本当にそう思うか?』
「え?」
『[本当に]?』
「…いいや、違いますね」
「そうは思わない」
『だろうなァ』
『少なくとも俺は人間として生きて人間として死ぬのを望むぜ』
「俺もですよ」
「利益だけ掻っ攫うのは嫌いじゃない」
『ククク…、お前も解ってきたじゃァないか』
不敵な笑い声が、アヌビスの持つ携帯から聞こえてくる
アヌビスは嘲笑うように頬を上げ、暫く後に元の表情へと戻っていく
「…そう言えば、五紋章を争奪し終えたそうですけど」
「残り1つは何処から?」
『向こうから、だ』
「…あぁ、そういう」
『さて、アヌビス』
『少し、忙しくなるぞ』
「何でですか?」
『小僧が戻ってきた』
「…!」
かっと目を見開くアヌビス
それを察したかのように、電話口向こうのコヨーテは声を低くする
『時は、近いぞ』
「…はい」
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