同化
「どういうつもりだ?」
「何故、邪魔をする」
「…」
口を開かない天之川
彼の姿は逆光によってよく見えない
「双方、下がれ」
彼の代わりに場を制したのは虚漸だった
「虚漸ッ…」
「橋唐、暴走しすぎだ」
「目的は果たしたのだろう?」
「…あぁ」
「貴様に無駄に暴れられて、下手に負傷されても何だ」
「落ち着け」
「…チッ」
「やぁ、虚漸」
「久しぶりだね」
「…憑神」
「貴様が居る、という事は…、喰ったのか」
「…あぁ」
「…そうか」
「話し中悪いが…、虚漸」
「貴様、祭峰側に着いたのか」
「シヴァ」
「貴様…、まだ奴に着いているのか?」
「恩があるからな」
「恩?」
「あの、はしたなく下らない恩か」
「命を救われた事が下らん、だと?」
「笑わせる」
「…フン」
「貴様の価値観は俺がそちらに居た頃と変わらんな」
「だろうな」
「で?逃げるのか」
「いいや…」
「俺から逃げられるとでも?」
「俺達を相手にして無傷で済むと思うか、元老院直属部隊隊長」
「…」
「懸命な貴様なら解るはずだ」
「この戦いはここで終わり、だと」
「…詰まらんな」
「戦闘は娯楽じゃないんだよ」
「そういう事だ」
「…刻」
霊魅を背負い、シヴァに銃口を向ける刻
虚漸は刻を一度見て、再び視線を戻す
「俺達は撤退する」
「だが、それでも追ってくるなら…」
「潰すぞ?小僧」
シヴァは少しだけ眉をしかめ、虚漸達に背を向ける
虚漸達と憑神は頷き、帰ろうとする
「橋唐」
「…何だ」
「貴様に、忠告しておく」
「貴様等の行動に意味はない」
「最早、こちらには全て揃った」
「…情けか?哀れみか?惜しみか?」
「解りきっているさ、そんな事」
「…そうか」
シヴァに背を向ける橋唐
それを合図に、彼等はその場から消え去った
「…」
シヴァは彼等が過ぎ去ったのを確認し、裏手へと移動していく
そこに倒れているのは一斑だった
「…クォーターか」
「貴様には…、利用価値がある」
九華梨町
蔵波の家
医者の息子ともあって、蔵波の家は大きく真新しい
そして、その大きな家の前に立っていたのは桜見と夕夏だった
「あのヤロー…、課題まで放りだしやがって」
「私が届けなきゃなんねぇじゃねぇかよ」
「その割には嬉しそうだね?」
「う、うるせぇ!」
「ったく、ポストに入れときゃ…」
ガチャッ
「あれ?滝水のお友達かい?」
「「え?」」
「ごめんね、滝水は今、出かけてるんだ」
「…い、いやだって」
「うん?」
「…な、何でもないです」
「何処に出かけたか解りますか?」
「いいや?友達と旅行なんて言ってたけど」
「君達は知らないのかな?」
「…あ!そう言えば言ってたねぇ」
「ね?桜見ちゃん」
「…おう」
「あははは、忘れやすいんだねぇ」
「すいません」
「あの、これプリントです」
「あぁ、うん」
「ありがとう、渡しておくよ」
「じゃ、失礼しました…」
公園
「どういう事だ…」
「旅行って言ったら蒼空君も行ってるねぇ」
「一緒に行ったんじゃないの?」
「…この前、電話したんだけどよ」
「そんな事は言ってなかった」
「森草ちゃんも…」
「う、浮気ぃっ!?」
「森草ちゃんがアレと付き合うと思う?」
「アレって何だよぉ!」
(面毒臭っ)
「うぅー…、くらなみぃ」
「完全に蔵波君中毒だね」
「もう結婚したら?」
「けけけけけけっけけけけっっ!?」
「化け物みたいになってるよ、桜見ちゃん」
「誰が化け物だぁっっ!!」
(面倒臭っ)
無人島
「…無事に辿り着いたか」
海を見渡す祭峰
その先からは、風の球体に包まれた橋唐達が海を渡っている
ーーーーーーーートンッ
「待たせたな」
「なぁに、別に待っちゃいないさ」
「…久しぶりだな、憑神」
「久しいね、祭峰」
「アイツは元気か?」
「1人目は」
「…うん、元気だと思うよ」
「そうか、そりゃ良かった」
「会ってないのかい?」
「今は彼女らと同盟を…」
「会えないんだよ」
「計画は進んでるんだ」
「俺の下らねぇ理由でパーなんざ笑えねぇぜ?」
「…そう」
「それよりも、蒼空はどうした」
「アイツが居ないと始まらないんだが?」
「ここに居るだろう」
憑神を指さす橋唐
祭峰はあー…、と後悔したかのように思い声を出す
「…面倒だな」
「同化してんじゃん」
「そんなに進行速かったのか」
「予想以上だった」
「あー…、査阿」
「今は虚漸だ」
「名前変えたのか」
「与えられたんだ」
「…ふーん」
「それよりも、だ」
「同化しているとはどういう事だ?」
「知らないのか?」
「創世計画には携わっていたが、その後の事は知らん」
「…えっとね」
「彼の中身の半分は私だったの」
「でも、彼の…、白羽の計らいで主導権は蒼空君にあった」
「だけど今回の件で主導権は私に移ったの」
「そいつが死にかけた時にも、度々移っていたんじゃないのか?」
「ううん、アレは違う」
「防衛本能みたいな物かな」
「本来はどうするつもりだったんだ」
「2人が別離すりゃー、奴の目的から蒼空は外れるだろ」
「そうすれば[核]から接触しやすくなると踏だんだが…」
「同化していた、と」
「計画が遅すぎたか…?」
「どうする?軍の目が追ってくるぞ」
「…時間が必要だな」
「…貴様等は、生きる目的がある」
「それに戦闘力も上だ」
「!」
唐突に口を開いた天之川
皆が驚き、天之川の方を向く
「…買って出るのか?役を」
「あぁ」
「軍の戦力を削いでやる」
「死ぬぞ」
「…仲間を見殺した時点で」
「俺達に生きる意味などない」
「貴様等は貴様等の役目を果たせ」
「…あぁ、解った」
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