自分で決めた道
「シルディ・ステライス…?」
「…あぁ」
「祭峰の左腕と呼ばれた女だ」
「決して、お前達の勝てる相手ではないだろう」
「…アメリカ支部と共闘しているんですカ?」
「いいや、奴は五大湖にある[ある物]を狙ってきたのさ」
「だけれどそれは今、こちら側にある」
「つまり、彼女がこちらに来ていると…?」
「奴なら、1人でここを壊滅させてもおかしくはないだろう」
「…解ってるんですネ」
「悪あがきだという事ガ」
「…」
「?」
「父に似ていまス」
「貴方は先刻「いろんな人間を見てきた」と言いましタ」
「私は、そんなに多くの人間は見てきていませン」
「でも、でも」
「貴方は父に似ていまス」
「…俺は、な」
「あの人を追いたいんだ」
「例え破滅の道だろうとも」
「…どうしテ」
「どうして死へと向かうんですカ!?」
「自分が決めた道だから」
「っ…」
「それだけだよ」
歯を見せて笑うシドウン
悔しそうにセントは俯き小さく「…貴方も父も大馬鹿者でス」と呟いた
「何をしている?シドウン」
「…カムル」
「敵と仲良くお喋りか?」
「随分と悠長な事だ」
「…チッ」
「尋問か?」
「あぁ、それだったら暫く待とう」
「だがお前は甘い」
「殺すのならば俺がするが?」
不適に笑むカムル
シドウンは数歩後ずさり、森草とセントに耳打ちする
「俺が誤魔化すから、君達は逃げるんだ」
「嫌です」
「…選択の森草」
「現状を把握してくれ」
「君達は戦闘には向いてないだろう?」
「それに、俺以外は確実に君達の命を狙ってくるだろう」
「本当に死んでしまうかも知れないんだ」
「それなのに、どうして逃げない?」
「自分の決めた道だからです」
「…!!」
「シドウンさん」
「私は、五眼衆の一件の時、仲間を殺しました」
「愛する人を守るために」
「…愛する人?」
「その人に説得されて」
「ボスに守られて」
「私は五眼衆から抜けて、No,3の直属部下になりました」
「自己嫌悪で押しつぶされそうな時も、いつか五眼衆の生き残りに会うと思ったときも」
「ただ、ひたすらに自分を呪った」
「だけど、私はそれでも生きてきました」
「何故だい?」
「生きて良い、と言ってくれたから」
「…」
「だから、生きます」
「私は生きます」
「…何だ」
「君も、セントも」
「あの人に似てるなぁ…」
ぽんっ
シドウンは2人の頭に掌を置き、ありがとうと呟いて歩み出す
「シドウンさン…?」
「右側の通路を行け」
「俺がカムルを止める」
「で、でモ…!!」
「決めたんだろう」
「進みなさい」
「…はい」
「…カムル」
「何だ、尋問は済んだのか」
「お前、五眼衆の一件を覚えているか」
「五眼衆…?」
「…あぁ、アレか」
「下らん事件だったな」
「計画性もなく、ただ無謀に挑み無駄に死に逝った事件だ」
「それがどうかしたのか?」
「あぁ、そうか」
「なら良いんだ」
「何だ?今の問いかけの意味を教えろ」
「何…、簡単さ」
「お前を殺す理由が出来た」
ゴッッッッッッッッ!!!
「ぐぅっ!?」
メシメシと音を立ててめり込む拳
カムルは突如の出来事に対応できず、見開いた目でシドウンを睨む
「今だ、2人とも」
「はい!」
「…死なないでくださいネ」
「任せなさい」
「きぃっ……さまぁ……!?」
「あぁ、カムル」
「今日中にステラに俺の退職届を出しといてくれ」
D地区
「どうですか、火星」
「見張りは多いが、こっちには来てないと思われてるみたいだな」
「変装作戦が功を制したかな」
「クソ火星のくせに」
「何で俺はこんなに貶されるんだろうか」
トントンッ
「火星さん」
「…!」
「私です」
「茶柱!?」
「どうしてお前がここに…」
「昕霧様が五大湖の遺跡から脱出なされたので」
「今は外で待ち伏せしていた部隊と戦っています」
「何故、茶柱さんはこっちに?」
「昕霧様からの言伝がありまして」
「「アメリカ支部とは戦うな」…、と」
「…どうして?」
「人工能力装置を覚えていますか」
「あ、あぁ」
「五眼衆の時のあれだろ?」
「…恐らく」
「アメリカ支部が今回の反逆の切り札として持っているのはそれなのではないか、と」
「人工能力装置を?」
「えぇ、そうです」
「鉄珠の報告では、ロンドンでの五紋章事件の際に使用された人工能力装置は強力ではなく」
「ただ、簡易的な能力を発生させる物だった、と」
「…複数ですが」
「試作品状態では、それが限界でした」
「そう、[試作品状態]では」
「…完成した、と?」
「でなければ昕霧様が閉じ込められたりはしません」
「完成品の威力はどれぐらいなんだ?」
「恐らく、中級能力犯罪者並です」
「…中級犯罪者、か」
「アメリカ支部の人員を考えれば…、確かに…」
「馬鹿火星」
「今、計画を中止するワケにはいきません」
「無線連絡はできないのですか?」
「駄目だ」
「電波を傍受されて場所が割れてしまう」
「最悪でも、1回だな」
「…手詰まりですね」
「こっちも出来るだけ穏便に済ませたい」
「アメリカ支部の規模だ」
「軍への損失は大きいはずだしな」
「流石に総督も考慮はするはずだ」
「…その前に、私達が生きて帰れるかどうかでしょう」
「えぇ、その通りです」
「状況の掴めない軍は動けないはず」
「偵察を出しても消されるのが関の山でしょう」
「…本当に手詰まりじゃないか」
「だからそう言ってるじゃないですか、クソ火星」
「因みに、今は?」
「電波塔を破壊して、軍本部に連絡を取ろうとしてる」
「E地区には織鶴、D地区には俺達、C地区には森草ちゃんとセントちゃんだ」
「3カ所同時破壊でないと、別箇所に移動されるからな」
「なるほど…」
「ですが、軍本部に連絡を入れても救援が来るかどうか」
「確かに今、軍はかなりの混乱状態だからな」
「それでも入れないよりはマシなはずだ」
「…火星、茶柱さん」
「何だ?」
「マズいです」
「何が」
「…あれ」
彩愛の指さす先
太陽を背負い、影を落とす姿
「…誰だ?」
「目標。発見」
読んでいただきありがとうございました